この記事を書いた人
とっち
🏥 回復期リハビリテーション病院 理学療法士(18年目)
🧠 脳卒中認定理学療法士 / 3学会合同呼吸療法認定士
📝 学会発表・論文投稿の経験あり
正確で安全な医療・リハビリ情報を、現場目線でわかりやすく発信しています。
「退院時のFIMが改善したのに、なぜか退院後に歩けなくなった——」
回復期リハの現場で18年間働いていると、こんな話を聞くことがあります。
FIM(機能的自立度評価表)の歩行項目は、「歩けるかどうか」を評価します。でも、「実際に1日どれだけ歩いているか」は測っていません。病棟の廊下を往復できても、1日合計200歩しか歩いていない患者さんは珍しくないのです。
📌 この記事でわかること
- FIMの歩行項目と「歩数(活動量)」の違い
- 院内の活動量が退院後の予後に与える影響
- 回復期病棟で歩数計を使う意義と具体的な活用法
- リハスタッフがすぐ実践できる歩数介入のアイデア
🔍 FIMの歩行項目では「何が見えないか」
FIM(Functional Independence Measure)は、回復期リハビリテーション病棟における診療報酬上の基準指標であり、ADL(日常生活動作)の改善を評価するために広く使われています[1]。運動項目のうち「移動(歩行・車椅子)」は7段階で評価されますが、これはあくまで「その動作が介助なしでできるかどうか」を評価するものです。
FIM歩行 6点(修正自立)でも歩数ゼロはあり得る
たとえば、FIM歩行 6点(修正自立)とは「補助具を使えば自分で歩ける」という意味です。しかし実際に患者さんが1日のなかでどのくらい歩いているかは、FIMスコアには反映されません。
💬 現場エピソード(筆者の経験より)
ある脳梗塞後の患者さん(70代男性)、退院前のFIM歩行は6点で「自立」判定でした。ところが退院後1週間で「歩くのがしんどくなった」と外来に来られました。入院中の歩数記録を振り返ると、最後の2週間の平均歩数は1日800歩前後。退院後の実生活では2,000〜3,000歩以上歩く必要があったわけです。FIMは「できる能力」を測りますが、「している活動量」は別の話なのです。
このギャップは、ICF(国際生活機能分類)の枠組みで言えば、「能力(Capacity)」と「実行状況(Performance)」の違いに対応します[2]。FIMが測るのは主に「能力」ですが、退院後の生活に直結するのは「実際に何をしているか」という実行状況のほうです。
📊 院内活動量と退院後予後——歩数が持つ意味
入院中の歩行量(歩数)は、退院後の生活に密接に関係します。国内の回復期リハ病棟を対象とした報告では、入院中から歩数計を活用して目標歩数を設定した患者で、退院後も活動量が維持されたケースが報告されています[3]。また、入院中の歩行量(歩数・歩行距離)が多いほどADL(m-FIM)の改善や歩行自立度の向上と関連することも、国内の回復期病棟での調査で示されています[4]。
健康アウトカムと歩数の関係——最新エビデンス
2025年にLancet Public Healthに掲載されたメタ解析(Ding et al.)では、成人を対象とした歩数と健康アウトカムの関係が包括的に検討されました[5]。主な結果を以下にまとめます。
※ HR=ハザード比。7,000歩を超えると追加効果は漸減する非線形の関係が示されています。
もちろん、回復期入院患者はいきなり7,000歩を目指すわけではありません。大切なのは、「現在の歩数を把握し、段階的に増やす」というプロセスそのものです。
🚶 回復期病棟で「歩数を測る」ことの本当の意味
歩数計(万歩計)や活動量計を使うと、次のことが「見える化」されます。
① 非リハ時間の活動量を把握できる
回復期病棟では、1日最大9単位(3時間)のリハビリが提供されます[6]。しかし残りの21時間、患者さんはどう過ごしているでしょうか?リハ時間の歩数だけに注目していると、「日中ほぼベッドで過ごして廃用が進んでいる」という状況を見落としてしまうことがあります。歩数計は、その見落とされがちな「非リハ時間の活動量」をリアルタイムで教えてくれます。
② 多職種で共有できる客観指標になる
「もっと歩くように声がけして」という指示は主観的です。しかし「今日は300歩、昨日の半分です」という歩数のデータは、PT・OT・看護師・介護スタッフ全員が共通認識を持てる客観指標になります。多職種連携のコミュニケーションツールとして、歩数は非常に有効です。
③ 患者自身のモチベーション向上につながる
「昨日より100歩増えましたね」という声がけは、患者さんに達成感を与えます。目標が具体的な数字(歩数)として示されることで、自己効力感(「自分でできる」という感覚)が高まり、リハビリへのアドヒアランス(取り組みの継続)が向上します[7]。
④ 退院後の目標設定と継続支援ができる
入院中の歩数推移を記録しておくことで、退院時に「あなたは今、1日平均○○歩歩いています。退院後はまずこの歩数を維持しましょう」という具体的な目標設定が可能になります[3]。これは退院指導をより個別化・具体化するうえで大きな意味を持ちます。
🏃 回復期病棟における歩数目標の考え方
「1日7,000歩」は健康な成人のエビデンスに基づいた目安です。回復期入院患者にそのままあてはめることはできませんが、一つの「将来目標」として活用できます。
📋 段階的な歩数目標の設定例(回復期入院患者向け)
入院初期:現状把握フェーズ
歩数計を装着し、1日の歩数を計測。「何歩歩けているか」を患者・スタッフともに把握する。目標は設定せず、まず現状を知る。
入院中期:段階的増加フェーズ
「週ごとに+500〜1,000歩」のペースで無理なく増加。リハ時間だけでなく、病棟内での食事・トイレ・整容などの生活行為でも歩数を稼ぐ工夫を多職種で共有。
退院前:目標設定フェーズ
退院前2週間の平均歩数を「退院時の基準値」として記録。「退院後もこの歩数を維持→+α」を退院指導に組み込む。家族にも共有し継続をサポート。
重要なのは、歩数の絶対値よりも「変化の方向性」を追うことです。転倒リスクの高い患者では、見守りや手すりの活用を前提としながら安全に歩数を増やす工夫が求められます。
💡 リハ介入への具体的応用——PT・OT・看護師が連携するために
歩数計の選び方と装着上の注意
回復期入院患者に対して歩数計を使用する際は、以下の点を考慮します。
- 片麻痺がある場合、非麻痺側(健側)の腰または足首に装着する
- 歩容が正常でない場合(跛行、異常歩行)、万歩計の計測誤差が出やすいため活動量計(加速度計内蔵)を推奨
- 入浴時は外し、起床から就寝まで装着を基本とする
- デジタル表示で患者自身が確認できる機種を選ぶと、自己モニタリング効果が高まる
病棟スタッフとの情報共有のしくみ
歩数データは、カルテや病棟内の申し送りシートで多職種が確認できるようにしておくと、連携がスムーズになります。たとえば:
| 役割 | 歩数に関するかかわり |
|---|---|
| PT(理学療法士) | 歩行能力評価・歩数目標設定・歩行練習量の調整 |
| OT(作業療法士) | 生活行為(トイレ・食堂への移動等)での歩数の確保 |
| 看護師・介護スタッフ | 非リハ時間の活動促進・歩数の確認と記録・声がけ |
| 患者・家族 | 歩数計の確認・退院後の目標値の共有・継続の動機づけ |
なお、筆者が勤務する病棟では、歩数計のデータを週次で振り返り、「今週は前週比+15%だった」「雨で外出気分が出なかった日に落ち込んだ」などをカンファレンスで情報共有するようにしています。小さな変化でも多職種が把握し、介入を調整できる体制が重要です。
❓ よくある疑問 Q&A
Q. 車椅子移動の患者さんでも歩数は測る意味がありますか?
A. はい、意味があります。歩数計(または活動量計)は歩行だけでなく、座位での体幹移動や立ち上がり動作なども一部拾います。また、「将来的に歩行を目指す患者」であれば、わずかな歩行練習の積み上げを記録することがモチベーション維持につながります。歩数そのものよりも、「離床時間」「立位保持時間」と組み合わせて活動量を多面的に評価するのが理想的です。
Q. 何歩を目標にすればいいですか?一般の「7,000歩」は使えますか?
A. 1日7,000歩は健康な成人のメタ解析(Ding et al. 2025)に基づくエビデンスに裏づけられた「長期目標」として紹介できます[5]。ただし回復期患者の場合、入院時は数百〜数千歩という方が多く、いきなり7,000歩を設定するのは非現実的です。「今より少し多く」「先週より増えた」という個人比較を短期目標とし、退院後の生活像に合わせた現実的な数字(例:2,000〜5,000歩)を中期目標にする、という段階設定が実臨床に沿っています。
✅ まとめ:歩数はFIMを「補完」する活動量の指標
- FIMの歩行項目は「できる能力」を評価するが、「実際に歩いている量(実行状況)」は測れない
- 入院中の歩数(活動量)は、退院後の歩行自立度やQOLと関連する可能性が示されている
- 歩数計・活動量計は、非リハ時間の活動量の把握・多職種連携・患者のモチベーション向上・退院後目標設定に役立つ
- 1日7,000歩は成人の健康アウトカムに有効なエビデンスがあるが、回復期患者では個別の段階的目標設定が必要
- 歩数データは「多職種で共有できる客観指標」として活用し、チームでの活動促進に組み込むことが重要
「FIMが改善した=退院後も大丈夫」ではありません。患者さんが実際にどれだけ体を動かしているかを数値で把握し、それをチーム全体で共有して介入する——その積み重ねが、退院後の生活の質につながると、18年の現場経験から実感しています。
歩数計ひとつで、見えていなかった「生活の質」が見えてくるかもしれません。
📚 参考文献
- 厚生労働省. 回復期リハビリテーション病棟入院料の施設基準及び実績指数の見直しについて. 令和6年度診療報酬改定関連通知, 2024.
- World Health Organization. International Classification of Functioning, Disability and Health (ICF). Geneva: WHO; 2001.
- 原田圭司 他. 回復期リハ病棟患者の退院前後における活動量変化 ─ 歩数の目標設定が運動の動機付けとなった一症例での検討. 東海北陸理学療法学術大会誌. 2019;28:85–86.
- 入院中の歩行量がm-FIMおよび歩行自立度に与える影響. 理学療法学 第36回日本理学療法学術大会抄録集, 2009. (doi:10.14900/cjpt.2008.0.B3P1273.0)
- Ding D, et al. Daily steps and health outcomes in adults: a systematic review and dose–response meta-analysis. Lancet Public Health. 2025;10(8):e668–681.
- 厚生労働省. 回復期リハビリテーション病棟について(制度概要). 2024.
- 日本糖尿病学会 編. 糖尿病診療ガイドライン2024 第4章 運動療法. 2024.
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⚠️ 免責事項
本記事は一般的な医療・リハビリテーション情報の提供を目的としており、特定の疾患の診断・治療を行うものではありません。個人の症状や状態によっては内容が当てはまらない場合があります。健康上の不安がある方は、必ず担当医療機関または専門家にご相談ください。本記事の情報は執筆時点(2025年)のものであり、最新のガイドライン等により変更になる場合があります。


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