回復期リハビリテーション病院 勤務18年目。脳卒中認定理学療法士・3学会合同呼吸療法認定士。
学会発表・論文投稿経験あり。地域の介護予防教室・サロン活動にも携わる。
病院や地域で「転倒して骨折→寝たきり」という連鎖を何度も目の当たりにしてきたからこそ、予防の大切さを伝えたいと考えています。
転倒が原因で「要介護」になる方が、これだけ多いって知ってましたか?厚生労働省の調査では、要介護になった原因の第3位が「骨折・転倒」なんです。この数字、初めてデータで見たとき正直ちょっと衝撃でした。なんとなく「転ぶのは危ない」とは分かっていても、そこまで多いとは思っていなくて。
リハビリの現場にいると、転倒→骨折→入院→そのまま歩けなくなる、という流れを何度も目にしてきました。「あのとき転ばなければ…」って悔やんでいる患者さんの言葉、今でも耳に残っています。
だからこそ伝えたいのが、転倒って「運が悪かった」じゃなくて、ある程度は防げるということ。その大きな鍵が、下肢の筋力なんです。この記事では、何をどう鍛えればいいのかを、できるだけ具体的に書きました。
「最近、段差でつまずくことが増えた」「転んでから怖くて外出が減った」——そんなお悩みを持つ方やそのご家族に、ぜひ読んでほしい記事です。
転倒は高齢者にとって深刻な問題です。骨折・入院・要介護状態への移行という連鎖を引き起こすリスクがあります。しかし、こうした転倒の多くは下肢の筋力を鍛えることで予防できると、近年の科学的研究は示しています。
この記事では、理学療法士として18年間リハビリの現場で見てきた経験と、最新のエビデンスをもとに、転倒予防に効果的な下肢筋トレを徹底解説します。「何の筋肉を」「どう鍛えるか」が分かるよう、具体的なトレーニング方法もご紹介します。
- なぜ高齢者は転倒しやすいのか?
- 転倒予防に「下肢筋トレ」が有効な理由
- 鍛えるべき筋肉はどこ?4つの重要筋群
- 転倒予防のための下肢筋トレ5選【実践編】
- トレーニングの頻度・強度・注意点
- 現場エピソード:筋トレで転倒が減った方の話
- よくある質問(Q&A)
- まとめ
- 参考文献
1. なぜ高齢者は転倒しやすいのか?
転倒は「ちょっとした不注意」だけで起きるわけではありません。高齢になると、身体の中でいくつかの変化が重なり、転倒リスクが高まります。
| 要因 | 具体的な変化 |
|---|---|
| 筋力低下 | 特に下肢・体幹の筋力が落ち、足が上がりにくくなる |
| バランス機能の低下 | 姿勢反射が遅れ、ちょっとした揺れに対応できない |
| 歩行速度の低下 | 足を上げる高さが低下し、段差でつまずきやすくなる |
| 視力・感覚の低下 | 環境の段差や障害物に気づきにくくなる |
| サルコペニア | 加齢性の筋肉量低下。特に速筋(TypeII線維)が優先的に萎縮する |
| 薬の影響 | 睡眠薬・降圧薬などがふらつきを招くことがある |
厚生労働省の調査では、「要介護」になる原因の第3位は「骨折・転倒」、「要支援」になる原因の第3位も「転倒・骨折」となっています1。大腿骨(太もも)の骨折は、入院費の平均が180万円以上となるケースもあり2、本人の生活の質だけでなく、家族や社会への経済的負担も非常に大きな問題です。
こうしたリスクに対して、現在最も有効と実証されている対策の一つが下肢の筋力トレーニングです。
2. 転倒予防に「下肢筋トレ」が有効な理由
運動が転倒予防に有効であることは、多くの系統的レビュー・メタ分析(複数の研究をまとめた高レベルのエビデンス)で示されています。
- 2024年のレビュー(155研究を包括)では、バランス訓練と筋力トレーニングの組み合わせが姿勢制御・歩行安定性・神経筋協調性を改善し、転倒リスクを有意に低下させると報告3
- サルコペニアを持つ高齢女性518名のRCTまとめでは、レジスタンストレーニングにより膝伸展筋力(SMD=0.85)・TUG(SMD=-0.68)・歩行速度(SMD=0.37)が有意に改善4
- 低強度BFRトレーニングのメタ分析では、下肢筋力・筋量・歩行能力の改善が確認され、関節への負担が大きい高齢者にも適用可能と結論5
- 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」でも、高齢者に週2〜3日の筋力トレーニングを推奨6
特に重要なのが「速筋(TypeII筋線維)」の維持です。加齢によって優先的に萎縮するのは速筋繊維で、これは「とっさに足を出す」「素早くバランスをとる」といった反応動作を担っています。転倒時に体を支えようとする瞬間的な筋収縮には、この速筋の働きが不可欠です。
レジスタンストレーニング(筋力トレーニング)はこの速筋を含む筋全体を鍛えることができ、「筋肉で転倒を防ぐ」という直接的な効果が期待できます。
3. 鍛えるべき筋肉はどこ?4つの重要筋群
転倒予防の視点から特に重要な筋肉は以下の4つです。それぞれの役割と重要性を理解することで、トレーニングへの意欲も高まります。

4. 転倒予防のための下肢筋トレ5選【実践編】
いずれも自宅でできる種目を厳選しました。特別な器具がなくても始められます。
| 種目 | 主な筋肉 | 立位でも可 | 座位でも可 | 転倒予防効果 |
|---|---|---|---|---|
| 椅子スクワット | 大腿四頭筋・大殿筋 | ✅ | ✅ | 立ち上がり・膝安定 |
| 脚の外開き | 中殿筋・小殿筋 | ✅ | — | 横ぶれ防止・骨盤安定 |
| カーフレイズ | ふくらはぎ | ✅ | ✅ | 蹴り出し力・バランス |
| つま先上げ | 前脛骨筋(すね) | ✅ | ✅ | つまずき予防 |
| ミニスクワット | 大腿四頭筋・体幹 | ✅ | — | 総合的な下肢強化 |
5. トレーニングの頻度・強度・注意点
✅ 推奨される頻度と強度
- 頻度:週2〜3回(厚生労働省ガイド2023・ACSMともに推奨6)
- 強度:「少しきつい」と感じる程度(修正ボルグスケール4〜5相当)
- 期間:最低8週間以上の継続で効果が顕在化する
- 1回のトレーニング時間は20〜30分程度が目安
- セット間の休憩:1〜2分
⚠️ こんな方は医師・PTに相談してから始めよう
- 膝・股関節・腰に強い痛みがある方
- 最近骨折・手術をした方
- 心臓病・高血圧で治療中の方(運動許可を確認する)
- ふらつきが強く、立位での運動が不安な方
- 骨粗しょう症と診断されている方
🔰 安全に行うための基本ルール
もう10年ほど前のことです。冬の終わりごろに、大腿骨頸部骨折で入院されてきた78歳の女性を担当しました。手術後のリハビリで、最初に車椅子から立ち上がってもらおうとしたとき、膝に力が入らなくてほとんど私が抱え上げるような形になってしまいました。筋力測定をしたら膝伸展筋力が徒手筋力テストで3-(重力に抗してわずかに動く程度)。正直、「これは時間がかかるな」と思いました。
その方は最初からずっと「私はもう年やから、筋トレなんて無理やわ」とおっしゃっていて、椅子スクワットを勧めても「痛い」「しんどい」と言っては途中でやめてしまう日が続きました。私も焦って、回数を増やしたり、励ます言葉を変えてみたりしましたが、うまくいかなくて。2週間くらい経ったとき、「私、このままここで死ぬんかな」とぽつりと言われて、さすがに胸に刺さりました。
そこでいったん立ち止まって考えて、筋トレの「量」を追うのをやめることにしました。椅子スクワットを1日10回から3回に減らし、代わりに「ゆっくり座る」動作だけに集中してもらうようにしました。「座るときにドスンと落ちなかったら合格です」という伝え方に変えたんです。すると、「それくらいならできるわ」と少し表情が変わりました。
3週間後、5回の椅子スクワットができるようになって、入院から約2ヶ月で独歩での退院を迎えました。退院の日に「先生、最初は本当にもう歩けんと思とったわ」と言いながら泣いてらして、私もこっそりもらい泣きしました。
この経験から学んだのは、「回数が少ない=やる気がない」ではないということです。患者さんが「これならできる」と思える負荷から始めることが、長く続けるための一番の近道だと今でも思っています。自宅でトレーニングを始めるときも、最初は1セットでも2回でも十分です。続けることが何より大事なので。
6. 現場エピソード:筋トレで転倒が減った方の話
退院後も運動を続けられる患者さんは、実はそれほど多くありません。
だからこそ、数か月後に「続けていますよ」と報告を受けると、とても嬉しくなります。
ある70代の女性は、骨粗しょう症による腰椎圧迫骨折で回復期リハビリ病棟へ入院されました。入院当初は病棟内を歩くのも不安定で、5回立ち上がりテストは22秒、片脚立位は右2秒・左1秒しか保持できませんでした。
リハビリを続けた結果、退院時には歩行器なしで病棟内を移動できるまで回復しました。しかし、ご本人は「また転んで骨折するのが怖い」「家ではあまり動かないと思う」と不安も口にされていました。
そこで退院時には、椅子スクワット10回×2セットとカーフレイズ20回を、自宅で無理のない範囲で続けるようお伝えしました。
約4か月後、地域の介護予防教室で偶然お会いした際、「最初の2週間はサボっていたけど、娘に言われて続けるようになったのよ」と笑いながら話してくださいました。
その場で簡単に評価すると、5回立ち上がりテストは22秒から15秒まで改善し、片脚立位も左右とも5秒以上保持できるようになっていました。
「階段を上る時に前ほど膝に力が入らない感じがなくなった。」
「去年は2回転んだけど、今年はまだ転んでいない。」
そんな言葉を聞けたことが、とても印象に残っています。
もちろん、この変化は筋トレだけによるものではありません。日常生活での活動量や生活環境など、さまざまな要因が影響していると考えられます。
それでも、この患者さんを通して改めて感じたのは、**特別な運動ではなくても、続けることが身体を変える力になる**ということでした。
退院後も運動を習慣として続けることは簡単ではありません。しかし、1日数分の積み重ねが、転倒予防や身体機能の維持につながる可能性があります。
臨床で患者さんと関わる中で、その大切さを改めて実感した出来事でした。
※プライバシー保護のため、症例内容は一部変更・再構成しています。
7. よくある質問(Q&A)
8. まとめ
- 転倒は「骨折→入院→要介護」の連鎖を引き起こす高齢者の重大リスク
- 転倒予防に最も効果的な要素のひとつが下肢の筋力トレーニング
- 特に重要な筋肉は「大腿四頭筋」「大殿筋・中殿筋」「ふくらはぎ」「前脛骨筋」の4群
- 椅子スクワット・脚の外開き・カーフレイズ・つま先上げ・ミニスクワットの5種目が効果的
- 週2〜3回、最低8週間の継続が効果を引き出すカギ
- 80代でも効果は十分に期待できる。「遅すぎる」ことはない
転倒予防のための筋トレは、特別な器具も広いスペースも不要です。テレビを見ながらのつま先上げ、キッチンに立ちながらのカーフレイズなど、日常のすき間に少しずつ組み込むことから始めてみましょう。
「転ばない体」は、毎日の小さな積み重ねから作られます。
- 高齢者に筋トレは必要か?理学療法士が解説【Vol.1】
- サルコペニア予防に効く筋トレ5選【Vol.2】
参考文献
- 厚生労働省. 令和4年 国民生活基礎調査の概況. 2024. https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa22/index.html
- Kondo A et al. Estimated expenditures for hip fractures using merged healthcare insurance data for individuals aged ≥75 years and long-term care insurance claims data in Japan. Arch Osteoporos 2018;13(1):29. doi:10.1007/s11657-018-0444-6
- Fabian HC et al. Mechanism-Driven Strategies for Reducing Fall Risk in the Elderly: A Multidisciplinary Review of Exercise Interventions. Healthcare 2024;12(23):2394. doi:10.3390/healthcare12232394
- Zhou Y et al. Effects of resistance training on muscle strength and physical function in older women with sarcopenia: a systematic review and meta-analysis. Front Public Health 2026;13:1487560. doi:10.3389/fpubh.2025.1487560
- Li S et al. Low Intensity Resistance Training with Blood Flow Restriction on Fall Resistance in Middle-Aged and Older Adults: A Meta-Analysis. Int J Environ Res Public Health 2023;20(6):4723. doi:10.3390/ijerph20064723
- 厚生労働省. 健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023. 2024. https://www.mhlw.go.jp/content/001194020.pdf
- Lizama-Pérez R et al. Effect of sit-to-stand-based training on muscle quality in sedentary adults: a randomized controlled trial. PeerJ 2023;11:e15665. doi:10.7717/peerj.15665
- Yoshiko A, Watanabe K. Impact of home-based squat training with two-depths on lower limb muscle parameters and physical functional tests in older adults. Sci Rep 2021;11:6855. doi:10.1038/s41598-021-86030-7
- Roberts MD et al. Mechanisms of Mechanical Overload-Induced Skeletal Muscle Hypertrophy. Physiol Rev 2023;103(4):2679-2757. doi:10.1152/physrev.00009.2022
本記事は一般的な健康情報の提供を目的としており、特定の疾患の診断・治療を目的としたものではありません。身体に痛みや異常がある場合、または慢性疾患をお持ちの方は、必ず医師・理学療法士などの医療専門家にご相談のうえ、運動を開始してください。本記事の情報を参考にした行動によって生じた損害について、著者および当サイトは責任を負いかねます。
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