🖊️ この記事を書いた人
理学療法士「とっち」
回復期リハビリテーション病院 勤務18年目
脳卒中専門理学療法士/3学会合同呼吸療法認定士
学会発表・論文投稿経験あり
現場での経験をもとに、根拠に基づいたリハビリ・健康情報を発信しています。
糖尿病の患者さんって、リハビリ現場でも本当に多くて。うちの病院の入院患者さんを見ていると、何らかのかたちで血糖の問題を抱えている方が3〜4割近くいる印象なんですよね。骨折や脳卒中がメインの病名であっても、「実は糖尿病も持っていて」という方がかなり多い。
で、そういう患者さんに「運動してください」と伝えると、だいたい「ウォーキングですよね?」って返ってくるんです。もちろんウォーキングも悪くはないんですが、正直に言うと、それだけだとちょっと物足りなくて。筋トレを組み合わせると血糖コントロールへの効果がぐっと変わってくる、というのを現場で何度も経験してきました。
今日はその話を、できるだけわかりやすく書いていこうと思います。
「健診で血糖値が高いと言われたけれど、運動と言われてもどこから始めればいいかわからない」「ウォーキングだけで本当に効果があるの?」——こうした疑問を持つ方は少なくありません。回復期リハビリテーション病院で18年間、糖尿病を合併する患者さんのリハビリにも数多く関わってきましたが、運動の「質」と「量」を正しく理解しているかどうかで、血糖コントロールの結果が大きく変わることを実感しています。
この記事では、糖尿病の方にとって筋トレ(レジスタンストレーニング)がなぜ重要なのか、どのくらいの強度・頻度で行うとよいのかを、最新のエビデンスをもとに理学療法士の視点で解説します。
糖尿病に運動が必要な理由

2型糖尿病は、インスリンの分泌が不足したり、インスリンが効きにくくなる「インスリン抵抗性」が背景にある病気です。筋肉は体内で最も多くの糖を取り込む組織であり、筋肉量や筋肉の質が血糖コントロールに直結します。
2023年のAHA(米国心臓協会)の科学的声明では、レジスタンストレーニングが筋肉量・筋力の維持・改善だけでなく、心血管疾患やそのリスク因子に対しても有益な効果をもたらすことが示されています[1]。糖尿病は心血管疾患のリスクを高めるため、この点は非常に重要です。
また、2型糖尿病患者を対象とした複数のメタ分析では、レジスタンストレーニングが血糖値・脂質・血圧などの改善に補助療法として有効であることが報告されています[2]。一方で、どのくらいの強度が最も効果的かについては、まだ議論が続いている段階です[2]。
💡 ポイント
運動による血糖値改善のメカニズムは、運動中・運動後に筋肉が血液中の糖を取り込みやすくなることに加え、長期的には筋肉量そのものが増えることで「糖の受け皿」が大きくなることにあります。
筋肉のタイプと血糖コントロールの関係
骨格筋には、大きく分けて「遅筋(赤筋)」と「速筋(白筋)」の2種類があります。
| 特徴 | 遅筋(TypeI) | 速筋(TypeII) |
|---|---|---|
| エネルギー代謝 | 脂質・酸化系 | 糖質・解糖系 |
| 疲労耐性 | 高い | 低い |
| 加齢による萎縮 | 保たれやすい | 優先的に萎縮 |
速筋(TypeII線維)は加齢とともに優先的に萎縮しやすく、これがサルコペニア(筋肉量の減少)の主な原因とされています。速筋は糖を主なエネルギー源として使うため、この筋肉が減ることは血糖コントロールにとって不利に働きます。レジスタンストレーニングはこの速筋に効果的に刺激を入れられる運動です。
具体的にどんな筋トレをすればいい?
① 自宅でできる下肢のトレーニング
糖尿病の方には、まず大きな筋肉である下肢(太もも・お尻)を中心に動かすことをおすすめしています。下肢の筋肉量は全身の筋肉量の約半分を占めるため、効率よく糖を消費できます。
- 椅子からの立ち上がり(スクワットの代わりとして)
- 自重スクワット
- もも上げ・足踏み運動
実際に、高齢者が自宅で12週間スクワットを行った研究では、下肢の筋量・筋力・歩行速度といった身体機能が改善したことが報告されています[3]。特別な器具がなくても、自分の体重を負荷として使うだけで十分な刺激が得られます。
② 強度・頻度の目安
筋肥大や筋力向上を目的とした場合、エビデンスでは以下のような頻度・強度が推奨されています。
| 項目 | 推奨内容 |
|---|---|
| 頻度 | 週2〜3回 |
| 強度 | 「ややきつい」と感じる程度まで |
| 回数 | 1セット10〜15回程度 |
米国スポーツ医学会(ACSM)は高齢者に対して、週2回以上のレジスタンストレーニングを8〜12週以上継続することを推奨しています[4]。重要なのは、「軽い負荷でもしっかり追い込む」ことであり、必ずしも高重量の器具が必要なわけではありません。
📝 現場でのエピソード
「ウォーキングは続けているけれど、筋トレまではしていません。」
2型糖尿病の患者さんから、このようなお話を伺うことがあります。
ある70代の患者さんも、「歩くだけで十分だと思っていた」と話されていました。しかし、入院中に椅子からの立ち上がり運動を1日数回取り入れ、無理のない範囲で継続していただきました。
退院後も自宅で続けていただき、外来で経過を確認すると、歩行速度の改善に加え、HbA1cも以前より良好な値となっていました。
ご本人も、
「思っていたより簡単な運動で続けられました。」
と笑顔で話されていたことが印象に残っています。
もちろん、この変化は立ち上がり運動だけによるものではありません。食事療法や薬物療法、日常の活動量など、さまざまな要因が組み合わさった結果と考えられます。
それでも、この患者さんを通して改めて感じたのは、「特別な運動」よりも、「毎日の生活に取り入れられる運動」が継続につながるということでした。
椅子からの立ち上がり運動は、特別な器具や広い場所がなくても始められます。糖尿病の運動療法は、「頑張り続けること」よりも、「無理なく続けられること」が何より大切だと、臨床を通して実感しています。
※プライバシー保護のため、症例内容は一部変更・再構成しています。
📝 18年目のPTが経験した「やりすぎ」の失敗
入院してきた当初から意欲の高い患者さんでした。68歳の男性で、脳梗塞後のリハビリが主目的でしたが、2型糖尿病も10年来の付き合いとのこと。「先生、血糖値下げたいからもっとやりましょう」と毎回リハビリ室に来るなり言ってくる方で、こちらとしては正直ありがたい反面、少し身構えていました。
ある日の午後3時ごろ、いつも通り立ち上がり練習を15回×3セット終えたあたりで、その方の顔色がふっと変わりました。冷や汗、手の震え——すぐピンときました。低血糖です。血糖値を測ると62mg/dL。運動前が110mg/dLだったので、急激に下がっていたことになります。
「先生、なんかぼーっとする」とご本人。表情がいつもとちがって、目の焦点が定まっていませんでした。補食してもらいながら、正直、「しまった」と思いました。運動のタイミングと前回の薬の飲み方について、もっとちゃんと確認しておくべきでした。意欲があるからこそ、こちらが慎重にならないといけなかった。
それ以来、糖尿病のある患者さんのリハビリ前には、血糖値・食事摂取量・薬のタイミングの3つを必ず確認するようにしています。「運動は良いこと」は間違いないのですが、タイミングと状態確認がセットでなければ、意欲が逆にリスクになることもある——これは18年やってきて、今でも頭に刻んでいることです。
注意したいポイント
- 運動前後の血糖値の変動に注意し、低血糖症状(冷や汗・ふらつき等)が出たら中止する
- 足に傷や潰瘍がある場合は、主治医に運動の可否を確認する
- 息を止めて力む動作(高強度のいきみ)は血圧上昇につながるため避ける
- 持病やインスリン治療中の方は、運動の種類・タイミングについて主治医・理学療法士に相談する
Q&A
Q1. ウォーキングだけでは不十分なのでしょうか?
ウォーキングなどの有酸素運動も血糖コントロールに有効ですが、筋肉量の維持・増加という点では筋トレに特有の効果があります。可能であれば、有酸素運動と筋トレを組み合わせることで、より大きな効果が期待できると報告されています。
Q2. 筋トレはいつ行うのが効果的ですか?
食後の血糖値が上がりやすい時間帯(食後1〜2時間以内)に運動を取り入れると、血糖値の上昇を緩やかにする効果が期待できます。ただし、インスリンや血糖を下げる薬を使用している方は、低血糖のリスクもあるため、タイミングについて医師に相談することをおすすめします。
まとめ
- 筋肉は血糖を取り込む重要な組織であり、筋肉量・質の維持が血糖コントロールに直結する
- レジスタンストレーニングは2型糖尿病の血糖・脂質・血圧の改善に補助的に有効とされる
- 下肢を中心とした自重トレーニングで十分な効果が期待できる
- 週2〜3回、「ややきつい」と感じる程度を目安に継続することが大切
- 持病がある方は、必ず主治医や専門職に相談しながら進める
参考文献
- Paluch AE et al. Resistance Exercise Training in Individuals With and at Risk for Cardiovascular Disease: 2023 Update. Circulation. 2024;149:e217-e231. doi: 10.1161/CIR.0000000000001189
- Fan T et al. Resistance Training Intensity Differences for Type 2 Diabetes Mellitus: A Systematic Review and Meta-analysis. Healthcare. 2023;11(3):440. doi: 10.3390/healthcare11030440
- Yoshiko A, Watanabe K. Impact of home-based squat training with two-depths on lower limb muscle parameters and physical functional tests in older adults. Sci Rep. 2021;11(1):6855. doi: 10.1038/s41598-021-86030-7
- Phillips SM et al. American College of Sports Medicine Position Stand. Resistance Training Prescription for Muscle Function, Hypertrophy, and Physical Performance in Healthy Adults: An Overview of Reviews. Med Sci Sports Exerc. 2026. doi: 10.1249/MSS.0000000000003786
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の疾患の診断・治療を目的としたものではありません。糖尿病の治療を受けている方、持病をお持ちの方は、運動を開始する前に必ず主治医にご相談ください。本記事の内容を実践される際は、自己の状態に応じて無理のない範囲で行ってください。
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