🩺 この記事を書いた人
理学療法士・とっち
回復期リハビリテーション病院 勤務18年目
🏅 脳卒中認定理学療法士
🏅 3学会合同呼吸療法認定士
学会発表・論文投稿経験あり
「リハビリと身体のケアラボ」運営
日本人の変形性股関節症、実は80〜90%以上が「臼蓋形成不全」という骨盤の形の問題を背景に発症しているって知っていましたか?この数字、最初に知ったとき正直けっこう驚きまして。欧米だと肥満や加齢が主な原因として語られることが多いんですが、日本人はそもそも股関節の「形」から不利な構造を持って生まれてくる方が多いんですよね。
だから「年をとったから仕方ない」「太ったせいだ」で片付けてしまうのは、ちょっと違う話でして。18年間、回復期リハビリ病棟で股関節の手術後の患者さんと向き合ってきた経験から言うと、骨の形を変えることはできなくても、筋肉の使い方や日常の動き方を変えることで、痛みや歩き方はじゅうぶん変わります。この記事では、そのあたりをできるだけ現場目線でお伝えしていきます。
股関節が痛い…それ変形性股関節症かも|理学療法士が解説する原因と対策
「立ち上がるときに脚の付け根がズキッとする」「歩き始めに股関節が痛くて、しばらく歩くとマシになる」——こんな症状に心当たりはありませんか?それは変形性股関節症(へんけいせいこかんせつしょう)のサインかもしれません。
回復期リハビリテーション病院で18年間、数多くの股関節疾患の患者さんのリハビリに携わってきました。本記事では、理学療法士の視点から変形性股関節症の本当の原因と、自宅でできる安全なセルフケアについて詳しく解説します。
⚠️ご注意
本記事は一般的な情報提供を目的としており、診断や治療を行うものではありません。痛みが強い場合や、症状が悪化する場合は、早めに医療機関(整形外科など)を受診してください。
変形性股関節症とは?

股関節は、骨盤側の「臼蓋(きゅうがい)」というくぼみと、大腿骨側の「大腿骨頭(だいたいこっとう)」という丸い部分が組み合わさってできている関節です。この関節の表面は軟骨というクッションで覆われており、滑らかな動きを支えています。
変形性股関節症は、この軟骨が徐々にすり減り、関節に炎症や変形が生じることで痛みや動きの制限が起こる病気です[1]。進行すると、骨同士が直接こすれ合うようになり、骨棘(こつきょく)という骨のとげのような変化が生じることもあります。
| 病期 | 主な特徴 |
|---|---|
| 前期 | 関節の隙間がわずかに狭くなる程度。痛みは軽度か無症状 |
| 初期 | 立ち上がりや歩き始めに痛みが出やすい |
| 進行期 | 関節の隙間がかなり狭くなり、痛みが持続しやすい |
| 末期 | 骨同士が接触し、可動域制限や強い痛みが出現 |
なぜ起こるの?主な原因
①臼蓋形成不全(きゅうがいけいせいふぜん)
日本人の変形性股関節症の大きな特徴は、骨盤側のくぼみ(臼蓋)が浅い「臼蓋形成不全」を背景に発症するケースが非常に多いことです[1]。臼蓋が浅いと、大腿骨頭を覆う面積が少なくなり、関節にかかる圧力が一部に集中しやすくなります。その結果、軟骨が早期にすり減りやすくなると考えられています。
②加齢による軟骨の変化
年齢とともに軟骨の弾力性や水分量が変化し、衝撃を吸収する力が低下していきます。これに体重や日常的な負荷が加わることで、徐々に軟骨の変性が進んでいきます。
③筋力低下と歩き方の影響
股関節を支える筋肉、特に骨盤を横から支える中殿筋(ちゅうでんきん)や、太もも前面の大腿四頭筋の筋力が低下すると、歩行時に股関節への負担が偏りやすくなります[2]。これが痛みの悪化や、歩くたびに骨盤が左右に揺れる「トレンデレンブルグ歩行」のような特徴的な歩き方の原因になることもあります。
④体重の影響
体重が増えると、歩行時に股関節へかかる負荷も増加します。体重管理は、股関節への負担を減らすうえで重要な要素の一つです。
🏥 現場での実体験 〜「年だから仕方ない」をあきらめなかった患者さん〜
歩き方には、その人の身体の状態がよく表れます。
私は股関節に痛みを訴える患者さんを担当するとき、まず歩いている姿をじっくり観察します。
以前担当した60代の女性も、「股関節が痛いのは年齢のせいだから仕方ない」と話されていました。
しかし歩行を見ていると、片脚で立った瞬間に骨盤が大きく左右へ傾くトレンデレンブルグ歩行がみられました。
評価では、中殿筋の筋力はMMT3レベルまで低下しており、10m歩行には約14秒を要していました。
「スーパーを1周すると股関節が痛くなってしまう。」
そんな日常生活での困りごとも教えてくださいました。
そこで、中殿筋を中心とした筋力トレーニングと歩行指導を開始しました。最初は横向きでの脚上げ運動も10回続けるのがやっとでしたが、ご自宅でも自主トレーニングを継続していただきました。
約3か月後には中殿筋筋力はMMT4まで改善し、10m歩行も11秒へ短縮しました。
何より印象的だったのは、
「スーパーで歩いていても、前ほど股関節が気にならなくなりました。」
という笑顔での一言でした。
もちろん、股関節の痛みの原因は変形性股関節症だけではなく、炎症や腰椎疾患などさまざまです。また、中殿筋を鍛えればすべての股関節痛が改善するわけでもありません。
それでも、この患者さんを担当して改めて感じたことがあります。
痛みだけを見ていては、本当の原因は見えてこないことがあるということです。
筋力はどうか。
歩き方はどうか。
骨盤は安定しているか。
そうした全体を評価することで、「年齢のせい」と思われていた症状にも改善の糸口が見つかることがあります。
歩き方は、身体からのメッセージです。
だから私は今日も、患者さんの一歩一歩を大切に観察しています。
※プライバシー保護のため、症例内容は一部変更・再構成しています。
🗣️ 18年目だから言えること:「痛くなければ動かせばいい」は危険だった
これは少し失敗談に近い話なのだが、リハビリ経験10年目くらいの頃、70代の女性患者さんを担当したことがある。人工股関節置換術後のリハビリで、術後の経過はとても順調だった。
あるとき、「股関節はもう痛くないから、なんでも動かしていいよね」とにこにこしながら言ってきた。そのまましゃがんで床のものを拾おうとしていたのを見て、私はとっさに止めた——が、正直そこまで深く考えていなかったのも事実だ。
術後の脱臼肢位(股関節を深く曲げたり内側にひねったりする動き)については毎日説明していたのに、患者さんの頭の中では「痛みがない=もう大丈夫」に変換されていた。痛みのない動作にこそ見えないリスクが潜んでいる——そのことを患者さん目線で実感したのは、実はこの経験がきっかけだ。
変形性股関節症の方も同じで、「痛くない動き」が必ずしも「安全な動き」ではないことがある。特に臼蓋形成不全がある方は、軟骨への負担がかかっていても症状として出にくい場合もある。痛みだけを判断基準にしないこと、これは今でも患者さんに必ず伝えるようにしている。
こんな症状に注意
- 立ち上がるときや歩き始めに脚の付け根が痛む
- 長時間歩くと股関節がだるくなる、痛みが増す
- 靴下を履く、足の爪を切るなどの動作がしにくい
- 階段の昇り降りで痛みが出る
- 歩くときに左右に体が揺れる感じがある
これらの症状が続く場合は、自己判断せず、整形外科を受診してレントゲン検査などで現在の関節の状態を確認することをおすすめします。
今日からできるセルフケア
診療ガイドラインでも、運動療法は保存療法の中心的な位置づけとされています[3]。ここでは、自宅で取り入れやすいセルフケアを紹介します。
①中殿筋トレーニング
📝 やり方
- 横向きに寝て、上体を伸ばす
- 腰が動かないように注意しながら、上側の脚を真上にゆっくり持ち上げる
- ゆっくり下ろす。1日20回程度を目安に行う[2]

※脚を上げ過ぎると中殿筋ではなく腰の力で上げてしまうことがあるため、無理のない高さで行いましょう。
②大腿四頭筋トレーニング
📝 やり方
-
- 椅子に座り、片方の膝をゆっくり伸ばす
- 5秒間保持してからゆっくり下ろす
- 左右交互に10回程度繰り返す

※膝を支える太もも前面の筋肉を鍛えることで、股関節への負担を分散させる効果が期待できます。
③股関節周囲のストレッチ
股関節周りの筋肉が硬くなると、関節の動きが制限され、痛みにつながりやすくなります[4]。痛みのない範囲で、股関節を優しく動かすストレッチを毎日続けることが大切です。痛みが強いときは無理をせず、心地よい伸びを感じる程度にとどめましょう。

⚠️注意したいこと
臼蓋形成不全がある方の場合、過度な開脚ストレッチや深いスクワットは関節に強い負担をかけ、軟骨の変性を進める可能性があるとも言われています[4]。トレーニングを始める際は、まず筋力強化を中心とし、痛みが強い動きは避けるようにしましょう。
💡2025年版ガイドラインのポイント
近年改訂された股関節OAの診療ガイドラインでは、積極的なリハビリテーションと段階的な負荷の調整、徒手療法を組み合わせたアプローチの重要性が強調されています[5]。「動かして筋力をつける」という基本的な運動療法の重要性は、今も変わらず重視されています。
❓よくある質問(Q&A)
Q1. 痛いときは安静にした方がいいですか?
A. 強い炎症がある急性期は安静が必要な場合もありますが、長期間の安静は筋力低下を招き、結果的に関節への負担を増やしてしまうことがあります。痛みの程度に応じて、医師や理学療法士と相談しながら、できる範囲で身体を動かすことが大切です。
Q2. 手術が必要かどうかは、どうやって決まるのですか?
A. レントゲン上の変形の程度だけでなく、痛みの強さや日常生活への支障の程度、運動療法などの保存療法を行った上での経過などを総合的に踏まえて、医師が判断します。気になる症状がある場合は、まず整形外科を受診して相談することをおすすめします。
まとめ
- 変形性股関節症は、股関節の軟骨がすり減ることで痛みや動きの制限が生じる病気
- 日本人では臼蓋形成不全を背景に発症するケースが多い
- 中殿筋・大腿四頭筋の筋力低下や体重の影響も関与する
- 運動療法(筋力トレーニング・ストレッチ・ウォーキング)が保存療法の中心
- 痛みが強い動きは避け、無理のない範囲で継続することが大切
- 気になる症状があれば、早めに整形外科を受診しましょう
「年だから仕方ない」と思って我慢している股関節の痛みも、適切な運動療法やセルフケアによって、変化が生まれることがあります。ご自身の体と向き合いながら、できることから少しずつ始めてみてください。
【免責事項】
本記事は理学療法士としての臨床経験および公開されている文献情報に基づき、一般的な情報提供を目的として作成しています。記載内容は診断や治療行為に代わるものではありません。症状の評価や治療方針については、必ず医療機関を受診し、医師や理学療法士などの専門家にご相談ください。
参考文献
- 日本整形外科学会・日本股関節学会 監修,日本整形外科学会診療ガイドライン委員会/変形性股関節症診療ガイドライン策定委員会 編集.変形性股関節症診療ガイドライン2024(改訂第3版).南江堂,2024.ISBN: 978-4-524-21377-1
- Semciw AI, et al. Comparison of gluteus medius muscle activity during functional tasks in individuals with and without osteoarthritis of the hip joint. Clin Biomech. 2014;29(9):1073-1078. PMID: 23911109
- Gibbs AJ, et al. Recommendations for the management of hip and knee osteoarthritis: A systematic review of clinical practice guidelines. Osteoarthritis Cartilage. 2023;31(10):1280-1292. doi: 10.1016/j.joca.2023.05.015
- 平尾利行,ほか.臼蓋形成不全による二次性変形性股関節症患者に対し理学療法を施行した際の経過分析.理学療法学,2022;49(4):289-298.doi: 10.15386/rigaku.12197
- Physiotutors. Hip Osteoarthritis: The New 2025 Clinical Practice Guideline for Physiotherapists [internet]. physiotutors.com; 2025 [cited 2025]. Available from: https://www.physiotutors.com/hip-osteoarthritis-2025-clinical-practice-guideline/
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