お尻の筋肉(大殿筋)を鍛えるメリットと方法|理学療法士が解説

セルフケア・リハビリ

👤 この記事を書いた人:とっち

回復期リハビリテーション病院に勤務する理学療法士(経験18年目)。脳卒中専門理学療法士および三学会合同呼吸療法認定士の資格を保有。学会発表・論文投稿の経験あり。地域のフレイル予防活動(サロン訪問・体操指導)にも取り組んでいます。

ちょっと聞いてみたいんですが、「お尻の筋肉」って、意識したことありますか?
歩くとき、立ち上がるとき、階段を上るとき——実はお尻の筋肉って、そのぜんぶで働いているはずなんです。でも、ほとんどの人は使っている感覚がほぼゼロ、というか、そもそも意識したことすらない、というのが正直なところで。
これ、患者さんだけじゃなくて、健康な方でも同じだったりします。リハビリの現場で「お尻を締めてください」と声をかけると、「……お尻ってどこですか?」と返ってきたこと、一度や二度じゃないんですよね。
お尻の筋肉(大殿筋)は、体の中でもかなり大きな筋肉なのに、日常生活でなかなか”ちゃんと使われない”部位でして。その分、気づかないうちに弱くなりやすい。この記事では、そんな大殿筋を鍛えることのメリットと、自宅でできる方法を現場目線で解説します。

お尻の筋肉(大殿筋)を鍛えるメリットと方法|理学療法士が解説

「最近、お尻が垂れてきた気がする」「歩くとすぐに疲れる」「腰が痛い」——もしこんな悩みをお持ちなら、その原因のひとつは大殿筋(だいでんきん)の筋力低下かもしれません。

大殿筋はお尻にある人体最大級の筋肉で、姿勢の保持や歩行、立ち上がりなど、日常生活のあらゆる動作に関わっています。この記事では、回復期リハビリ病院で18年間、多くの患者さんの歩行・動作改善に携わってきた理学療法士の視点から、大殿筋を鍛えるメリットと、安全で効果的なトレーニング方法をエビデンスに基づいて解説します。

💡 臨床エピソード
「脚の筋力はあるのに、なぜか歩くとふらつく。」

そんな患者さんに出会うことがあります。

ある70代の女性は、転倒を繰り返したことをきっかけに回復期リハビリ病棟へ入院されました。入院時はT字杖を使用し、10m歩行には16秒を要していました。方向転換ではふらつきが目立ち、「また転ぶんじゃないかと思うと怖い」と不安を口にされていました。

歩行を詳しく観察すると、麻痺は認めませんでしたが、股関節を後ろへ伸ばす動きが十分ではなく、大殿筋(お尻の筋肉)がうまく働いていない様子がみられました。立ち上がる場面でも膝に頼る動きが中心で、お尻の筋肉を十分に使えていない状態でした。

そこで、大殿筋を意識した立ち上がり練習やブリッジ運動をリハビリに取り入れ、自主トレーニングとしても継続していただきました。

約3週間後には10m歩行は16秒から12秒へ改善し、TUGも18秒から13秒まで短縮しました。

「前より足が前に出る感じがする。」

「歩くのが怖くなくなりました。」

そう笑顔で話してくださった姿が今でも印象に残っています。

もちろん、この改善は大殿筋のトレーニングだけによるものではなく、歩行練習やバランス練習など、リハビリ全体の積み重ねによる結果だと考えられます。

この経験以来、私は転倒リスクを評価するとき、膝周囲の筋力だけでなく、大殿筋がしっかり働いているかも必ず確認するようにしています。

歩く力は、太ももの筋肉だけで決まるものではありません。

普段あまり意識しないお尻の筋肉も、立ち上がる・歩く・転ばないための大切な役割を担っています。

※プライバシー保護のため、症例内容は一部変更・再構成しています。

大殿筋とはどんな筋肉?

大殿筋はお尻の表面を覆う、体の中でも特に大きく強い筋肉のひとつです。骨盤と大腿骨(太ももの骨)を結びつけており、主な働きは以下の通りです。

大殿筋の主な働き 関わる動作
股関節の伸展(脚を後ろに振る) 歩行・走行・階段昇降
骨盤の安定化 立位姿勢の保持・腰への負担軽減
体を支える土台 立ち上がり・しゃがみ込み

大殿筋は日常生活の中であまり強く使われる機会が少ないため、加齢や運動不足によって筋力が低下しやすい部位とされています[1]。痛みなどの自覚症状が出にくいため、気づかないうちに筋力が落ち、姿勢の崩れや歩行の不安定さにつながることも少なくありません[1]

大殿筋を鍛える3つのメリット

① 腰痛の予防・改善につながる

「お尻の筋力低下が腰痛の原因の一つになる」という指摘があります[2]。股関節の動きを支える大殿筋がしっかり働くことで、日常動作の中で腰にかかる負担が軽減され、腰痛の予防・改善につながると考えられています[2]

② 歩行が安定し、転倒予防になる

歩く・走る・階段を上るといった基本動作には、大殿筋の力が使われています[2]。大殿筋を鍛えることで一歩一歩の力強さが増し、つまずきや転倒のリスクを減らすことが期待できます[2]

📊 サルコペニア高齢者を対象とした研究では
レジスタンストレーニング(筋力トレーニング)により、握力・歩行速度・膝伸展筋力・立ち上がりテストの結果などが有意に改善したと報告されています[3]。下肢の筋力強化が、生活機能全体の改善につながる可能性を示すデータといえるでしょう。

③ 姿勢が整い、生活の質(QOL)が向上する

大殿筋は骨盤を支える重要な筋肉です。この筋力が低下すると骨盤が傾き、猫背やお腹が前に出るような姿勢の崩れにつながることがあります[2]。鍛えることで骨盤が安定した位置に保たれ、背筋が伸びた姿勢を維持しやすくなります[2]

 

💡 18年目で気づいた「お尻を使えない人」の共通点

少し恥ずかしい話をします。

PTになりたての頃、私はブリッジ運動(ヒップリフト)を「簡単なウォーミングアップ」くらいの感覚で患者さんに指示していました。「はい、お尻を上げてください」と言えば、みなさん上げてくれる。それで大殿筋が鍛えられている、と思い込んでいたのです。

気づいたのは、確か経験5〜6年目の冬のことです。ブリッジをさせながら大殿筋を触診してみたとき、「あれ、全然収縮していない」という患者さんに何人も出会いました。お尻は上がっているのに、使っているのはハムストリングス(太もも裏)と腰の筋肉ばかりで、肝心の大殿筋がほぼ休んでいる状態でした。

ある80代の男性患者さんに正直に聞いてみたことがあります。「お尻、締まってる感じしますか?」と。すると少し考えてから、「…お尻ってどこですか?」と返ってきました。悪気は一切なく、本当にどこを意識すればいいのか分からなかったようです。

それからは「上げてください」という指示をやめました。「お尻の穴をきゅっと締めながら」「太もも裏ではなく、座面に触れているお肉の部分を持ち上げるように」と伝えるようにしたところ、触診したときの収縮感が明らかに変わりました。同じ動作でも、意識のしかたひとつでまったく別のトレーニングになるんだと、そのとき改めて思い知りました。

「正しくできているかどうか」を確認せずに回数だけ積み重ねても、思うような効果につながらないことがあります。以下でご紹介するトレーニングでも、「お尻が締まっている感覚があるか」を意識しながら取り組んでみてください。

自宅でできる大殿筋トレーニング3選

筋肥大や筋力向上には、必ずしも重い負荷が必要というわけではありません。「努力量」や「適切な姿勢で十分な負荷をかけること」が重要であり、自重トレーニングでも十分な効果が期待できます[4]。以下では、自宅で安全に取り組める方法を紹介します。

① ヒップリフト(ブリッジ)

やり方

  1. 仰向けに寝て、両膝を立てる(足は腰幅程度)
  2. お尻をゆっくり持ち上げる(3〜5秒かけて)
  3. お尻を締めるように意識し、1〜2秒キープ
  4. ゆっくり下ろす

🔁 10〜15回×2〜3セットを目安に。腰を反らせすぎないよう注意しましょう。

② 椅子からの立ち上がり(チェアスタンド)

椅子からの立ち上がり動作を繰り返すトレーニングは、高齢女性において太ももの筋肉量や筋力を増大させたという報告があります[5]。臨床現場でも非常によく活用される、安全性と効果のバランスが良い方法です。

やり方

  1. 椅子に浅めに座る
  2. 足を肩幅に開き、やや前傾しながら立ち上がる
  3. ゆっくり腰を下ろし、座る直前で一度止める

🔁 5〜10回×2〜3セット。膝に手をついてもOKです。

③ ヒップエクステンション(四つ這い・立位)

脚を後ろに伸ばす動作で大殿筋を選択的に刺激できる種目です。座位や臥位でも実施可能で、離床が難しい方でも取り組みやすいトレーニングとして紹介されています[6]

やり方(立位の場合)

  1. 椅子や壁に手をついて立つ
  2. 片脚を後方にゆっくり持ち上げる(膝は軽く伸ばす)
  3. お尻の収縮を感じながら2〜3秒キープ
  4. ゆっくり戻す

🔁 各脚10〜15回×1〜3セット、週5〜7日が目安とされています[6]

トレーニングを行う際の注意点

  • 反動を使わず、ゆっくりとした動作で行う
  • 腰を反らせすぎない(腰痛がある場合は特に注意)
  • 痛みが出る場合は中止し、無理をしない
  • 持病がある方は、運動開始前に医師に相談する

よくある質問(Q&A)

Q1. 毎日やっても大丈夫ですか?

自重トレーニングであれば、毎日継続しても問題ない場合が多いです。ただし、筋肉痛が強い場合や痛みが出る場合は、1〜2日休息を取りましょう。継続期間としては、8週間程度の継続で筋機能の変化が確認されたという報告があります[5]

Q2. ヒップスラストはやった方がいいですか?

ヒップスラストは大殿筋とハムストリングスを効率的に鍛えられる種目として知られています[7]。バーベルなどを使う高負荷バージョンは筋力向上に効果的ですが、関節への負担も大きくなるため、高齢の方やフォームに不安がある方は、まずはヒップリフトや椅子からの立ち上がりなど、負荷の軽い種目から始めることをおすすめします。

★アフィリエイト部分ここ★

まとめ

  • 大殿筋は歩行・立ち上がり・姿勢保持に関わる、体の中でも重要な筋肉
  • 大殿筋を鍛えることで、腰痛予防・転倒予防・姿勢改善などのメリットが期待できる
  • ヒップリフト・椅子からの立ち上がり・ヒップエクステンションは自宅でも安全に取り組みやすい
  • 痛みがある場合は無理をせず、必要に応じて医療機関に相談を

今日からできる小さな一歩として、まずは「ヒップリフトを10回」から始めてみませんか?無理のないペースで、お尻の筋肉と上手に付き合っていきましょう。

参考文献

  1. Elzanie A, Borger J. Anatomy, Bony Pelvis and Lower Limb, Gluteus Maximus Muscle. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2023 Apr. PMID: 30855781. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK538193/
  2. Neto WK, Soares EG, Vieira TL, Aguiar R, Chola TA, Sampaio VL, Gama EF. Gluteus Maximus Activation during Common Strength and Hypertrophy Exercises: A Systematic Review. J Sports Sci Med. 2020 Feb 24;19(1):195-203. PMID: 32132843. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32132843/
  3. Zhou Y et al. Resistance training in older women with sarcopenia. Front Public Health 2026.
  4. Roberts MD et al. Mechanisms of Mechanical Overload-Induced Skeletal Muscle Hypertrophy. Physiol Rev 2023;103:2679-2757.
  5. Lizama-Perez et al. Chair stand training increases thigh muscle CSA. 2023.
  6. Bolgla LA, Uhl TL. A literature review of studies evaluating gluteus maximus and gluteus medius activation during rehabilitation exercises. Physiother Theory Pract. 2011 Jul;27(4):264-74. PMID: 22007858. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22007858/
  7. Kassiano W, Kunevaliki G, Costa B, et al. Addition of The Barbell Hip Thrust Elicits Greater Increases in Gluteus Maximus Muscle Thickness in Untrained Young Women. Int J Strength Cond. 2024;4(1). https://doi.org/10.47206/ijsc.v4i1.284
  8. Neto WK, Vieira TLK, Gama EF. The impact of resistance training on gluteus maximus hypertrophy: a systematic review and meta-analysis. Front Physiol. 2025 Apr 10;16:1542334. PMCID: PMC12018462. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40276368/

免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の症状や疾患の診断・治療を目的としたものではありません。痛みや不調がある場合、トレーニングを始める前には医師・理学療法士などの専門家にご相談ください。本記事の内容を実践される場合は、ご自身の体調や状態に応じて無理のない範囲で行ってください。

 

あわせて読みたい

下肢の筋トレ完全ガイド|スクワットの正しいやり方を理学療法士が解説
🧑‍⚕️この記事を書いた人:とっち回復期リハビリテーション病院に勤務する理学療法士(経験18年目)。脳卒中専門理学療法士および三学会合同呼吸療法認定士の資格を保有し、学会発表・論文投稿の経験もあります。日々の臨床で多くの患者さんの「歩く力」...
足首・ふくらはぎの筋トレで転倒予防|理学療法士が教える3つの運動
👤 この記事を書いた人とっち(理学療法士・回復期リハビリテーション病院 勤務18年目)脳卒中認定理学療法士/3学会合同呼吸療法認定士学会発表・論文投稿経験あり。地域のフレイル予防教室でも体操指導を行っています。65歳以上の方が1年間に転倒す...
股関節が痛い…それ変形性股関節症かも|理学療法士が解説する原因と対策
🩺 この記事を書いた人理学療法士・とっち回復期リハビリテーション病院 勤務18年目🏅 脳卒中認定理学療法士🏅 3学会合同呼吸療法認定士学会発表・論文投稿経験あり「リハビリと身体のケアラボ」運営日本人の変形性股関節症、実は80〜90%以上が「...

 

この記事を書いた人
理学療法士 18年目
とっち

回復期リハビリテーション病院勤務18年目の理学療法士。
・脳卒中認定理学療法士
・3学会合同呼吸療法認定士
査読付き論文投稿・学会発表経験を活かし、エビデンスに基づいた医療情報を一般の方にもわかりやすく発信しています。

「リハビリと身体のケアラボ」では、身体の痛み・リハビリ・介護保険・健康づくりをわかりやすく解説。より専門的な臨床・エビデンスの深掘りはnoteで発信しています。

▶ note(専門職の方向け):https://note.com/kind_badger1535

とっちをフォローする
セルフケア・リハビリ身体の仕組みと健康

コメント