この記事を書いた人:とっち
回復期リハビリテーション病院に勤務する理学療法士(経験18年目)。脳卒中専門理学療法士、三学会合同呼吸療法認定士の資格を保有し、学会発表・論文投稿の経験もあります。臨床現場での経験をもとに、根拠に基づいたリハビリ・健康情報を発信しています。
理学療法士になったばかりの頃、私も「体幹を鍛える=腹筋を鍛える」だと思ってました。患者さんに腹筋運動を指導して、なんとなく「これで腰が安定するはず」と信じていたんです。
でも当然うまくいかなくて。腰痛の方に頑張って腹直筋を鍛えてもらっても、なかなか症状が変わらない。今思えば当たり前で、腰を守るのに本当に必要な筋肉は、もっと深いところにあったんですよね。
そこから勉強し直して、腹横筋とか多裂筋とか、いわゆる「インナーマッスル」の大事さをちゃんと理解するようになりました。体幹って、表面の筋肉だけじゃないんです。この記事では、18年間リハビリ現場で積み上げてきた経験をもとに、体幹トレーニングの本当のしくみと効果的なやり方をお伝えしていきます。
体幹トレーニングの効果と正しい方法|理学療法士が解説
「体幹トレーニング」という言葉は、スポーツ選手だけでなく一般の方の間でもすっかり定着しました。腰痛予防、姿勢改善、ダイエット…様々な効果が期待されていますが、「結局どの筋肉を、どうやって鍛えればいいの?」という疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。
この記事では、回復期リハビリ病院で18年間、脳卒中後の方から高齢者の腰痛まで多くの患者さんと向き合ってきた理学療法士の視点から、体幹トレーニングの本当の効果と、安全で効果的なやり方をエビデンスに基づいて解説します。
📌 こんな方におすすめ
- 慢性的な腰痛に悩んでいる方
- 姿勢が悪いと感じている方
- 転倒予防のために体幹を強化したい高齢者の方・ご家族
- 「体幹トレ=腹筋」だと思っている方
体幹(コア)とは何か?インナーマッスルとの違い

「体幹」とは、頭・両手・両足を除いた胴体部分のことを指します。よく「体幹=腹筋」というイメージを持たれがちですが、実際にはお腹だけでなく、背中・腰・骨盤周りまで含む広い範囲の筋肉群を指す言葉です。
体幹を構成する筋肉は、大きく2つのグループに分けられます。
| 分類 | 代表的な筋肉 | 主な役割 |
|---|---|---|
| グローバル筋(表層) | 腹直筋、脊柱起立筋、大殿筋など | 大きな力を発揮する、姿勢を大きく動かす |
| ローカル筋(深層・インナーマッスル) | 腹横筋、多裂筋、骨盤底筋群など | 関節・脊柱を安定させる、姿勢を保持する |
腰痛予防という観点では、特にこの「ローカル筋(インナーマッスル)」、なかでも腹横筋や多裂筋と呼ばれる深層の筋肉が重要な役割を果たすと考えられています[1]。これらの筋肉は腰椎を内側からコルセットのように支え、過度な負担を防ぐ働きを担っています。
💡 ポイント
腹筋運動(クランチなど)でバキバキに割れた腹直筋を作ることと、体幹を安定させて腰痛を防ぐことは、必ずしも同じではありません。「見た目」と「機能」は別物として考える必要があります。
体幹トレーニングで期待できる効果
① 腰痛の軽減・予防
腰痛の原因は非常に多岐にわたり、画像検査をしても明確な原因が特定できないケースも少なくありません。そうした「原因不明の腰痛(非特異的腰痛)」に対して、体幹深層筋を中心としたトレーニングは、腰椎の安定性を高めることで症状の緩和につながる可能性が示されています[1]。
② 姿勢の改善
体幹の筋力が低下すると、骨盤が後傾したり、上半身が前方に倒れやすくなったりすることで、いわゆる「猫背」や円背(えんぱい:背中が丸くなった状態)の姿勢につながりやすくなります。特に高齢者では、股関節屈曲を担う大腰筋や、背中を伸ばす脊柱起立筋の機能低下が、円背傾向と関連していると指摘されています[2]。
③ バランス能力の向上・転倒予防
歩行時や立ち上がり動作の際、体幹が不安定だと全身のバランスが崩れやすくなります。体幹トレーニングは座位・立位の安定性を高め、結果として転倒リスクの低減に寄与すると考えられています[2]。
④ 基礎代謝の向上
体幹を含む筋肉量が増加すると基礎代謝が高まり、エネルギー消費量の増加につながる可能性があります[1]。ダイエット目的で体幹トレーニングを取り入れる方が多いのも、このような背景があります。
理学療法士おすすめ|自宅でできる体幹トレーニング
ここからは、回復期リハビリ病院でも実際に指導している、自宅で安全に取り組める体幹トレーニングを紹介します。どれも特別な器具は不要で、無理な負荷をかけずに行えるものです。
① ドローイン(腹横筋トレーニング)
- 仰向けに寝て、両膝を立てる
- 大きく息を吸い、お腹を膨らませる
- 口からゆっくり息を吐きながら、お腹を背中に引き込むようにへこませる
- その状態を10秒程度キープし、自然な呼吸を続ける
回数の目安:5〜10回×1〜2セット

② 背伸び運動(多裂筋・脊柱起立筋)
- 椅子に座る、または立った状態で行う
- 両手を頭上に伸ばし、体全体を上に引き伸ばすように背伸びをする
- 5秒程度キープしてゆっくり戻す
回数の目安:10回×2セット
うつ伏せが難しい高齢者でも安全に背面の筋肉を刺激できる方法として報告されています[3]。

③ ダイアゴナル(四つ這いバランス)
- 四つ這いの姿勢になる
- 右手と左足を、体が一直線になるようにゆっくり伸ばす
- 5秒程度キープし、元に戻す
- 反対側(左手・右足)も同様に行う
回数の目安:左右交互に10回
腹横筋・脊柱起立筋・大殿筋など、複数の体幹筋を同時に働かせることができます[3]。背中が反りすぎないように注意しましょう。

⚠️ 注意点
・トレーニング中に痛みが出る場合は中止してください
・呼吸を止めずに行うことが大切です(息こらえは血圧上昇のリスクがあります)
・反り腰になりすぎる動作は腰への負担が増すため避けましょう
現場での実体験:体幹トレーニングで変わった患者さんの一例
「腰が痛いのに腹筋なんて無理。」
腰痛のある方から、このような声を聞くことは少なくありません。
ある70代の患者さんも、慢性的な腰痛でリハビリを受けていました。「腹筋」と聞くと、クランチのような激しい運動を思い浮かべ、「腰が痛いのにできるはずがない」と不安そうな表情をされていました。
評価では体幹筋の活動が十分ではなく、立ち上がるたびに腰へ過度な負担がかかっている状態でした。
そこで、まずはベッド上で行えるドローインから開始し、痛みのない範囲で腹横筋を「使う感覚」を身につけていただくことにしました。
自主トレーニングとして1日10回を3セット続けていただいたところ、約2週間後には立ち上がり時の腰痛はNRS7/10から4/10まで軽減。10m歩行も18秒から14秒へ改善し、
「立ち上がるときの腰の負担が減った気がします。」
と話してくださいました。
もちろん、この改善はドローインだけによるものではなく、日々のリハビリや活動量の増加など、さまざまな要因が重なった結果だと考えられます。
この経験を通して改めて感じたのは、腰痛のある方に必要なのは、最初から負荷の高い腹筋運動ではないということです。
まずは体幹の筋肉を正しく使えるようになること。
その積み重ねが姿勢や動作を安定させ、腰への負担を減らす第一歩になります。
「腹筋=きつい運動」と思われがちですが、身体の状態に合わせた小さな運動から始めることが、無理なく続けるための大切なポイントだと感じています。
※プライバシー保護のため、症例内容は一部変更・再構成しています。
18年目のPTが正直に話す:体幹トレーニングが「効かなかった」ケース
入職して3〜4年目の頃の話です。当時の私は「体幹を鍛えれば腰痛は改善する」という考えをそれなりに信じていて、腰痛を抱えた患者さんにはとにかくドローインとダイアゴナルを組み合わせたメニューを提供していました。
ある日、60代前半の男性患者さんを担当しました。椎間板ヘルニアの既往があり、「昔からずっと腰が痛い」とのことでした。3週間ほど体幹トレーニング中心のアプローチを続けたのですが、正直なところほとんど変化がなかったんです。本人も「先生、これ続けてる意味ありますか?」と、苦笑いしながら聞いてきました。あの表情は今でも覚えています。
後から振り返ると、その方の腰痛は体幹筋力の不足というより、股関節の可動域の制限と臀筋の機能低下が主な原因でした。体幹トレーニング自体は間違っていなかったけれど、そこから始めるのが正しかったかどうかは別の話でした。順番が違ったんです。
アプローチを股関節周囲の柔軟性改善と大殿筋への刺激に切り替えたところ、2週間もしないうちに「なんか歩くのが楽になった気がする」という言葉が出てきました。
体幹トレーニングは確かに効果があります。ただ、それが「今この人に一番必要なアプローチか」は別に考える必要があります。18年経った今でも、「体幹トレ=万能」という思い込みには気をつけるようにしています。体幹の安定性は重要ですが、それを支える股関節や足部の機能あってこそ、なんです。
Q&A:よくある質問
Q1. 体幹トレーニングは毎日やってもいいですか?
A. ドローインや背伸び運動のような軽い負荷のものであれば、毎日継続しても問題ないケースが多いです。ただし、痛みや疲労感が強い場合は休息日を設けることも大切です。体に変化を実感するまでには一般的に数週間程度かかるとされており[4]、焦らず継続することがポイントです。
Q2. 腰痛があるのに体幹トレーニングをして大丈夫ですか?
A. 腰痛の原因や状態によって、適切な運動内容は異なります。痛みが強い急性期や、しびれを伴う場合などは、自己判断でトレーニングを行うのではなく、まずは医療機関を受診し、医師や理学療法士に相談することをおすすめします。安静にすべき時期と、動いた方が良い時期があるため、専門家の評価を受けることが安全につながります。
まとめ
- 体幹とは胴体部分の筋肉全体を指し、表層の「グローバル筋」と深層の「ローカル筋(インナーマッスル)」がある
- 腰痛予防には、特に腹横筋・多裂筋といった深層筋が重要とされている
- 体幹トレーニングには、腰痛軽減・姿勢改善・バランス向上・代謝アップなどの効果が期待できる
- ドローイン・背伸び運動・ダイアゴナルなど、自宅で安全に取り組める方法から始めるのがおすすめ
- 痛みがある場合は自己判断せず、医療機関や専門家に相談することが大切
体幹トレーニングは、特別な器具がなくても、正しい知識を持っていれば誰でも安全に始められるものです。この記事を参考に、無理のない範囲で日常生活に取り入れてみてください。
【免責事項】
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の症状や疾患に対する診断・治療を保証するものではありません。記事内で紹介している運動方法は、現在の症状や既往歴によって適否が異なります。痛みやしびれなどの症状がある場合、トレーニングを開始する前に必ず医療機関を受診し、医師や理学療法士などの専門家にご相談ください。本記事の内容によって生じた結果について、当ブログは責任を負いかねます。
参考文献
- Shastri L, et al. Review of core stability exercise versus conventional exercise in the management of chronic low back pain. J Family Med Prim Care. 2023;12(3):389-398. doi: 10.4103/jfmpc.jfmpc_1506_22. PMID: 37101802. PMC10117466
- Granacher U, et al. The importance of trunk muscle strength for balance, functional performance, and fall prevention in seniors: a systematic review. Sports Med. 2013;43(7):627-41. doi: 10.1007/s40279-013-0041-1. PMID: 23568373. PubMed
- Nishimura Y, et al. Effects of arm and leg positions on lumbar multifidus muscle activity while on hands and knees or while standing. PLoS One. 2022;17(3):e0264943. doi: 10.1371/journal.pone.0264943. PMID: 35263368. PMC8903730
- Hlaing SS, et al. Effects of core stabilization exercise and strengthening exercise on proprioception, balance, muscle thickness and pain related outcomes in patients with subacute nonspecific low back pain: a randomized controlled trial. BMC Musculoskelet Disord. 2021;22(1):998. doi: 10.1186/s12891-021-04858-6. PMID: 34847915. Springer
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