人工呼吸器離脱後のリハビリ|PICS・ICU-AWを回復期の視点から解説

セルフケア・リハビリ

✍️ この記事を書いた人

とっち|理学療法士(PT歴18年)

回復期リハビリテーション病院勤務/脳卒中認定理学療法士3学会合同呼吸療法認定士
学会発表・論文投稿経験あり。人工呼吸器離脱後に回復期へ転院してくる患者さんのリハビリに日々関わりながら、急性期〜回復期の橋渡し情報をお届けしています。

ICUを退院した患者さんの64%にPICS(集中治療後症候群)が残る——この数字、初めて論文で見たとき、正直「そんなに?」って声が出そうになりました。

人工呼吸器が外れて、命の危機を乗り越えたんだから、あとは体力を戻すだけ。なんとなくそういうイメージを持っていた時期が、自分にもあったんですよね。でも実際に回復期で受け入れてみると、現実は全然ちがう。筋力も落ちてる、記憶もあやしい、夜中に怖い夢で目が覚める、食べる気力もない——そういう患者さんが、思っていた以上に多い。

「ICUを出たらゴール」じゃなくて、「ICUを出てからがスタート」なんです。

この記事では、人工呼吸器を外した後に体の中で何が起きているのか、そして回復期のリハビリでどう関わっていけばいいのかを、現場で18年積み上げてきた視点でまとめました。リハビリ職員の方はもちろん、ご家族の方にも読んでもらえると嬉しいです。

人工呼吸器離脱後のリハビリ|回復期の視点から理学療法士が解説

「人工呼吸器が外れたのに、なぜこんなに力が入らないのか」「歩けると思っていたのに立つことすらできない」——ICUで生死をさまよい、ようやく人工呼吸器を外した患者さんが回復期病棟に転院してくるとき、そのからだはしばしば想像をはるかに超えた機能低下を呈しています。

この記事では、人工呼吸器離脱後(抜管後・気管切開孔閉鎖後)のリハビリテーションを、主に回復期病棟で受け入れる側の視点から解説します。対象読者はリハビリ専門職(PT・OT・ST)および看護師・医師を想定していますが、患者家族にも参考になるよう専門用語には解説を添えています。

⚠️ この記事は、急性期を脱した後の亜急性期〜回復期に焦点を当てた内容です。急性期ICUでの人工呼吸管理プロトコルについては別記事をご参照ください。

📋 この記事でわかること

  • 人工呼吸器のモードの種類と「離脱(ウィーニング)」の流れ
  • 離脱後に残存する身体問題の全体像(PICS・ICU-AW)
  • 回復期で実施する評価の視点と具体的ツール
  • フェーズ別リハビリアプローチ(呼吸機能・筋力・ADL・精神面)
  • 呼吸器モード別にリハビリで意識すべきポイント
  • 現場エピソードと退院に向けた多職種連携

🫁 まず知っておきたい:人工呼吸器のモードと「離脱」の流れ

リハビリ職員が回復期で受け入れる患者さんの中には、気管切開管理の状態で転院してくるケースも少なくありません。転院サマリーに記載された換気モードを読み解けると、患者さんの「現在地」がよりよく把握できます。ここでは主要なモードと離脱過程を整理します。

🔷 換気モードの大分類:「強制」か「自発」か

人工呼吸器のモードは大きく、①強制換気(CMV系)②補助換気(SIMV)③自発呼吸主体(CPAP/PSV)の3系統に分類されます。

モード名 自発呼吸の扱い 主な適応状態 離脱段階
VCV-A/C
従量式調節換気
自発呼吸がなくても設定回数で強制送気。自発があれば同期して補助。 呼吸ドライブがほぼない急性期重症 ⬛ 最初期
PCV-A/C
従圧式調節換気
圧を一定に保ちながら強制送気。肺保護換気で使用頻度高い。 ARDS・肺コンプライアンス低下例 ⬛ 最初期
SIMV
同期間欠的強制換気
最低回数の強制換気を保証しつつ自発呼吸も許容。自発時にPSを付加できる。 自発呼吸が出始めた離脱移行期 🟡 移行期
PSV
圧サポート換気
自発呼吸を感知して一定の圧でサポート。換気回数は患者次第。 自発呼吸がある程度安定してきた段階 🟢 離脱近し
CPAP
持続気道陽圧
呼吸補助は行わず気道内圧のみ維持。呼吸は完全に患者の自発に依存。 SBT(離脱トライアル)・抜管直前 ✅ 抜管前

📌 VCVとPCVの違い(よく混乱するポイント)

VCVは量(一回換気量)を固定して送気するため換気量が安定する一方、気道内圧が変動します。PCVは圧を固定するため肺への圧損傷(バロトラウマ)リスクを抑えやすい反面、換気量が呼吸抵抗・コンプライアンスにより変動します。回復期では転院サマリーに「VCV/PCV」どちらが使用されていたかが記されており、元の病態を推測する手がかりになります。

🔷 離脱(ウィーニング)とSBTの流れ

人工呼吸器を外す過程を「ウィーニング(weaning)」と呼びます。離脱はただ機械を止めるだけでなく、自発呼吸トライアル(SBT:Spontaneous Breathing Trial)という評価を経て判断されます1

📋 SBT(自発呼吸トライアル)の概要

方法:CPAP(5cmH₂O)またはTピース(回路から外して自発呼吸だけにする)で30分〜2時間観察

成功基準:SpO₂ ≧85〜90% / PaO₂ ≧50mmHg / 呼吸回数 <35回/分 / 血行動態安定 / 過度な呼吸補助筋使用なし

SBT前:自発覚醒トライアル(SAT)で鎮静薬を中止し、意識状態を確認する

失敗時:元の設定に戻し、24時間後に再評価

なお、最近のウィーニングプロトコルでは「SIMV→CPAP」のようにステップを経るのではなく、A/CからCPAP/SBTに直接移行する方法が主流になっています。SIMVを長く使うとウィーニング期間が延長することが示されているためです1

気管切開を行った長期人工呼吸器装着患者(おおむね3週間以上)の場合は、Tピースを用いて離脱時間を1時間→2時間→4時間と計画的に延ばしていく「段階的離脱訓練」が行われます。こういった患者が回復期に転院してくることもあり、転院時にまだカニューレが入っているケースも存在します。

🧠 離脱後に起きていること:PICSとICU-AWを理解する

人工呼吸器が外れても、患者さんのからだには複雑な後遺症が残ります。これをPICS(Post Intensive Care Syndrome:集中治療後症候群)と呼びます。わが国におけるICU入室6ヶ月後のPICS頻度は64%という報告もあり2、回復期で受け入れる多くの患者さんがこれに該当します。

🔷 PICSの3領域:身体・認知・精神

💪
身体機能障害
四肢筋力低下(ICU-AW)、呼吸筋力低下、易疲労性、関節拘縮、嚥下障害、栄養障害
🧠
認知機能障害
記憶障害、注意障害、実行機能障害、視空間認知障害(年齢に関わらず発症)
😰
精神機能障害
うつ・不安・PTSD。ICU体験(痛み・挿管・せん妄)がフラッシュバックとして残ることも

🔷 ICU-AW(ICU獲得性筋力低下)の病態

ICU-AW(ICU-acquired weakness)は、PICSの中でも特に理学療法士が直接介入する機会が多い病態です。重篤な疾患による高度炎症・長期臥床・鎮静薬・神経筋遮断薬などが複合的に作用し、急性の左右対称性・びまん性の四肢筋力低下を引き起こします3

ICU-AWはその病態から3つに分類されます。

分類 病態 予後の特徴
CIM(重症疾患多発ミオパチー) 筋細胞内のミオシン(筋収縮タンパク)が減少。特に速筋線維(Type II)が障害を受けやすい。 数週〜数ヶ月で回復可能なことが多い
CIP(重症疾患多発ニューロパチー) 高度炎症に伴う末梢神経の微小循環障害。神経軸索障害を生じる。 年単位で後遺症が残ることあり(予後不良)
CINM(重症疾患多発ニューロミオパチー) CIPとCIMが合併。最も多く見られる型とされる。 混在し予後はさまざま

⚠️ リハビリ職員が知っておくべき重要ポイント

CIPとCIMは臨床的に区別が難しく、神経電気生理学的検査(筋電図・神経伝導検査)や筋生検で鑑別します。CIMは回復可能ですが、CIPは後遺症が残るリスクが高いため、転院サマリーで「CIP疑い」の記載がある場合は回復目標の設定を慎重に行う必要があります3

ICU-AWは敗血症・多臓器不全・長期人工呼吸器管理を要した重症患者の約半数に発症するとされ4、人工呼吸期間の延長・ICU滞在日数増加・死亡率の上昇とも関連しています。有効な治療法は確立しておらず、予防と早期リハビリテーションが最大の介入手段です。

📊 回復期での評価:何を・どのツールで測るか

転院直後の評価は、リハビリの方向性を決める上で最も重要なプロセスです。人工呼吸器離脱後の患者さんには、一般的な呼吸リハビリの評価に加え、ICU-AW・PICS・嚥下障害・認知機能・栄養状態など多角的な視点が必要です5

評価領域 主な評価ツール・方法 ポイント・注意点
呼吸機能 SpO₂・呼吸数・呼吸パターン観察・mMRC(息切れスケール)・6分間歩行試験(状態が安定してから) 転院直後は6MWTが実施できないことも多い。まず安静時・労作時のSpO₂推移から始める。
筋力(ICU-AW評価) MRC-ss(Medical Research Council sum score):6筋群(肩・肘・手・股・膝・足)を両側6段階で評価(0〜60点) 48点未満がICU-AWの診断基準。意識状態の影響を受けるため、まず意識・指示理解を確認。
ADL Barthel Index(BI)・FIM 呼吸困難の程度がADL評価に反映されにくいため、動作時のSpO₂・呼吸補助筋使用の観察を組み合わせる。
嚥下機能 RSST(反復唾液嚥下試験)・水飲みテスト・VE/VF(嚥下内視鏡/造影) 長期挿管・気管切開歴がある場合は喉頭感覚低下・声帯障害のリスクがある。STとの連携必須。
認知・精神 MMSE / MoCA(認知)・PHQ-9(うつ)・PCL-5(PTSD) ICUでのせん妄体験がPTSDの背景になることがある。「ICUでの記憶は?」など穏やかに確認。
栄養状態 体重・BMI・アルブミン・Hb・握力・下腿周囲長 低栄養はリハビリ効果を大幅に損なう。管理栄養士との情報共有を転院直後から行う。

🏥 フェーズ別リハビリアプローチ:回復期での実践

回復期転院後のリハビリは、患者の状態に応じて3つのフェーズに分けて考えると整理しやすいです。

Phase 1|転院直後〜安定期(0〜2週):全身状態の把握と段階的離床

🎯 目標:ベッドサイドから座位・立位へ。呼吸観察と並行した段階的離床

  • 体位ドレナージ・徒手排痰:転院直後は気道分泌物が多いことがある。吸引前後のSpO₂変化を確認しながら実施。
  • 呼吸法指導(口すぼめ呼吸・腹式呼吸):意識状態が許せば早期から導入。
  • ROM訓練・ポジショニング:長期臥床で関節拘縮が生じている場合が多い。特に足関節・股関節に注意。
  • 端座位・立位練習:離床時は必ず心拍数・血圧・SpO₂を継続モニタリング。収縮期血圧の急落(起立性低血圧)に注意。
  • 酸素流量の確認:HOT(在宅酸素)導入前の患者では、離床時の酸素流量変更の指示を医師から得ておく。

Phase 2|活動拡大期(2〜6週):筋力・運動耐容能の再構築

🎯 目標:歩行自立・ADL改善・呼吸同調動作の獲得

  • 段階的な筋力トレーニング:ICU-AWでは特に下肢の近位筋(大腿四頭筋・臀筋群)が低下している。ベッドサイドからのSLR・座位での膝伸展→平行棒での立位→歩行補助具へと段階的に負荷を上げる。
  • 有酸素運動:エルゴメーター(自転車)は立位歩行が難しい段階でも実施できるため有用。ボルグスケール11〜13(「やや楽〜やや苦しい」)を目安に調整。
  • 呼吸同調歩行法:吸う:吐く=1:2(2歩で吸い4歩で吐く)のリズムで歩行。慣れない間は「いちにっ、さん・し・ごっ・ろく」と声かけしながら実施。
  • エネルギー節約技術(ECT):更衣・入浴など息切れを伴うADLでの呼吸と動作の組み合わせ方を指導。OTとの協働が重要。
  • 吸気筋トレーニング(IMT):必要に応じてPOWERbreathe等の器具を使用。呼吸筋疲労がある時期は慎重に。

Phase 3|退院準備期(6週〜退院):在宅生活へのブリッジ

🎯 目標:自宅での生活イメージの具体化・セルフマネジメント能力の習得

  • 在宅環境調整:手すり設置・浴槽高さ・段差など。MSWと連携し訪問リハや介護保険申請の手続きを進める。
  • HOT(在宅酸素療法)の生活指導:酸素ボンベの取り扱い・外出時の注意点・緊急連絡先の確認。
  • 急性増悪のサイン教育:「こんなときは受診してください」という具体的な基準を患者・家族に伝える。
  • 自主トレーニング指導:退院後の運動継続計画を作成。週に何回・何分・どんな運動をするかを具体化する。
  • 精神サポート:PICSによる不安・うつが強い場合は心理士や精神科への橋渡しを検討。

⚙️ 呼吸器モード別:リハビリで意識すべきポイント

転院サマリーに記載されている「直前の呼吸器モード」から、患者さんの自発呼吸能力のレベルを読み取ることができます。リハビリ開始時の負荷設定や観察ポイントにも影響します。

📌 VCV/PCV-A/Cで離脱してきた患者

自発呼吸が弱い段階で離脱したケース。呼吸筋力が極めて低下していることが多く、座位でさえSpO₂が低下することがある。初期は完全介助での端座位から始め、呼吸数・SpO₂の変化に特に注意する。呼吸補助筋(頚部・肩の筋肉)が過剰に動員されていないかも観察のポイント。

📌 SIMV+PSVから離脱してきた患者

ある程度の自発呼吸があるが補助が必要だった段階。自発呼吸と補助の「切り替わり」に慣れていたため、完全自発呼吸になって疲れやすいことがある。特に動作後の息切れ評価(ボルグスケール)を丁寧に行い、回復にかかる時間を観察すること。

📌 CPAP/SBTを経て離脱してきた患者

離脱プロセスを順調に経たケース。自発呼吸は確立しているが、長期臥床によるデコンディショニング(全身の体力低下)が主な問題となる。早期から積極的な有酸素運動と筋力トレーニングが有効。呼吸機能よりも運動耐容能の改善に重点を置くアプローチになる。

📌 気管切開カニューレが残存して転院してきた患者

気管切開孔が残っている間は、咳嗽能力が低下していることに注意。カフ付きカニューレの場合は発声ができず、コミュニケーション手段の確保(文字盤・筆談)も重要な課題。STと密に連携し、スピーキングバルブ(Passy-Muir弁など)の導入タイミングや嚥下評価の時期について検討する。

💬 現場から:「転院してきた日、立てなかった人が歩いて退院した」

「もう動けない体になってしまった……。」

数年前、回復期病棟へ転院してこられた60代男性が、涙を流しながら話された言葉です。

重症のCOVID-19肺炎で約3か月間ICUに入院し、気管切開と長期人工呼吸器管理を受けていました。ようやく全身状態が安定し回復期病棟へ転院されましたが、Barthel Indexはほぼ0点。全身の筋力は著しく低下し、端座位になるだけでSpO₂は88%まで低下してしまう状態でした。気管切開カニューレも留置されたままで、言葉を発することすらできませんでした。

正直なところ、私自身も「本当に自宅まで戻れるだろうか」と不安を感じていました。

だからこそ、私たちは「歩けるようになること」だけを目標にはしませんでした。

まずはベッドに座ること。

次は車椅子へ移ること。

そして、自分の声で思いを伝えられること。

STと連携してスピーキングバルブを導入した日、その方が初めて小さな声で「ありがとう」と話してくださいました。

病棟にいたスタッフ全員が思わず笑顔になった、今でも忘れられない瞬間です。

その後も管理栄養士、OT、看護師、医師と何度もカンファレンスを重ねながら、栄養状態、活動量、呼吸状態を少しずつ整え、焦らず離床を進めました。

転院から約3か月後、その方はロフストランドクラッチで病棟内を自立して歩けるようになり、ご自宅へ退院されました。

この症例で私が一番学んだのは、「今の状態が、その人のゴールではない」ということです。

重症患者さんを前にすると、どうしても”今できないこと”に目が向きがちです。しかし、本当に大切なのは、「その人がどんな生活を取り戻したいのか」をチーム全員で共有し、少しずつ積み重ねていくことでした。

回復期リハビリは、一人の力では成り立ちません。

医師、看護師、ST、OT、管理栄養士、そして患者さんとご家族。

それぞれが同じ目標に向かって支え合ってこそ、「もう一度、自宅で暮らす」という希望を実現できるのだと、この患者さんから教えていただきました。

COVID-19後に人工呼吸器管理を要した重症患者への回復期リハビリは、Barthel Indexが平均5点前後から82点以上へ向上したという症例報告もあり6、回復期での集中的なリハビリの有効性が示されています。

👥 多職種連携が鍵:回復期チームの役割分担

職種 主な役割(人工呼吸器離脱後特有の視点)
医師(呼吸器内科・リハビリ科) 運動負荷の許可・酸素流量の調整指示・気管切開閉鎖の判断・HOT処方
理学療法士(PT) 呼吸機能評価・筋力評価(MRC-ss)・段階的離床・有酸素運動・呼吸法指導・排痰介助
作業療法士(OT) ADLトレーニング・エネルギー節約技術・上肢機能訓練・認知リハビリ・在宅環境調整
言語聴覚士(ST) 嚥下評価・スピーキングバルブ導入・構音訓練・認知機能評価(高次脳機能)
看護師 気管切開ケア・吸引管理・日常的なSpO₂観察・患者教育・精神的サポート
管理栄養士 低栄養評価・経口摂取移行計画・高タンパク食指導(筋肉再建に必須)
医療ソーシャルワーカー(MSW) 介護保険申請・在宅サービス調整・訪問看護/訪問リハのコーディネート

🗒️ 18年目だから言える:「MRC-ssが47点」でも安心できなかった話

今から4年ほど前、冬の終わりごろの話です。敗血症性ショックからの長期人工呼吸器管理(約5週間)を経て、60代後半の男性が回復期に転院してきました。

転院初日にMRC-ssを測ると47点。ICU-AWの診断基準(48点未満)にはギリギリ該当しないと言えばそうなのですが、歩行評価どころか、端座位で3分も保てない状態でした。数字だけ見れば「重症の一歩手前」なのに、実際のADLはほぼ全介助。正直、この落差を上手く説明できずにいました。

焦って早期に歩行練習を取り入れようとした初日、立位で数秒後にSpO₂が84%まで急落して中断。「あー、やっぱり数字を信じすぎた」と、自分の判断を後悔しました。MRC-ssはあくまで筋力の指標であって、呼吸予備能や循環応答は別に評価しないといけない——そんな当たり前のことを、18年目でも改めて思い知らされた瞬間でした。

その後は端座位の時間を1日5分から始め、2週間かけて少しずつ離床を進めました。ご本人が転院から3週間目にはじめて病棟を数メートル歩けたとき、「なんか……足が地面についてる感じがしない」とぽつりとおっしゃった言葉が忘れられません。長期臥床で足底感覚が鈍くなっていたのです。「それ、歩き続けることで戻ってきますよ」とお伝えしたら、少し表情が緩みました。

転院から2ヶ月後、歩行器で自室まで戻れるようになって退院されました。退院の朝、「先生、最初は自分はもう歩けないと思ってたよ」とおっしゃったのが今でも頭に残っています。——きれいな回復だったとは言いません。途中で一度肺炎を再発して後退した時期もありましたし、HOTを持って帰ることになりました。でも、諦めないでいてよかったと思えた退院でした。

❓ よくある質問 Q&A

Q. 人工呼吸器を外してすぐリハビリを始めても大丈夫ですか?

抜管・離脱後の早期リハビリはエビデンスが支持しています。ただし、「安全基準を確認した上で」が前提です。SpO₂・血圧・心拍数が安定していること、著しい興奮・不穏がないこと、過度の呼吸補助筋使用がないことなどを確認してから離床を開始します。離脱直後は端座位の練習だけでもリハビリとして有意義です。過度に「安静を守る」ことが廃用の進行につながるリスクを常に意識してください7

Q. 気管切開が残ったまま転院してきた患者さんへのリハビリで特に気をつけることは?

主に3点あります。①カフの状態確認:カフが膨らんでいる間は誤嚥防止と引き換えに発声不可。スピーキングバルブ導入可能かSTと相談。②咳嗽能力の評価:気管切開中は声門を使った有効な咳が難しい。痰が溜まりやすいためハフィングや体位排痰を指導。③スキントラブルの観察:気切部周囲の皮膚トラブルに注意し、離床時に固定テープの状態を確認。看護師との情報共有が欠かせません。

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📝 まとめ:人工呼吸器離脱後リハビリの要点

  • 人工呼吸器のモード(VCV・PCV・SIMV・PSV・CPAP)と離脱の流れ(SBT)を理解することで、回復期受け入れ時の患者状態の推測精度が上がる
  • PICS(集中治療後症候群)は身体・認知・精神の3領域にわたる後遺症群で、ICU退室後64%に見られるとの報告がある
  • ICU-AWはCIM・CIP・CINMの3型があり、CIPは後遺症が長引くため予後予測に影響する。診断基準はMRC-ss 48点未満
  • 回復期での評価は呼吸機能・筋力・ADL・嚥下・認知・精神・栄養を多角的に実施する
  • リハビリはPhase 1(安定化・端座位)→Phase 2(筋力・運動耐容能再構築)→Phase 3(退院準備)の流れで段階的に進める
  • 気管切開カニューレ残存例ではSTとの連携・スピーキングバルブ導入・咳嗽能力の支援が重要
  • 多職種チームの連携なしに回復期での成果は得られない。カンファレンスを定期的に開催し情報を共有する

次回は呼吸リハビリシリーズ#82「呼吸筋トレーニングとは?効果とやり方を解説」をお届けします。IMTの具体的なプログラムや器具の使い方について深掘りします。

📚 参考文献

  1. 日本集中治療医学会・日本呼吸療法医学会・日本クリティカルケア看護学会 3学会合同人工呼吸器離脱ワーキング. 人工呼吸器離脱に関する3学会合同プロトコル. 2015. https://www.jsicm.org/pdf/kokyuki_ridatsu1503b.pdf
  2. Inoue S, Hatakeyama J, Kondo Y, et al. Post-intensive care syndrome: its pathophysiology, prevention, and future directions. Acute Med Surg. 2019;6(3):233-246. doi:10.1002/ams2.415. PMID:31304024
  3. 日本集中治療医学会 集中治療早期リハビリテーション委員会. 重症患者リハビリテーション診療ガイドライン2023(J-ReCIP 2023). 日本集中治療医学会雑誌. 2023;30(Supplement 2). https://www.jsicm.org/pdf/JSICM_J-ReCIP2023_Vol30-Supplement2.pdf
  4. Wieske L, Dettling-Ihnenfeldt DS, Verhamme C, et al. Impact of ICU-acquired weakness on post-ICU physical functioning: a follow-up study. Crit Care. 2015;19:196. doi:10.1186/s13054-015-0937-2. PMID:25925055
  5. 高橋諒, 上月正博. 呼吸器・循環器疾患におけるADL評価. The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine. 2021;58(9):1005-1012. doi:10.2490/jjrmc.58.1005
  6. 伊藤豪司, 永井公規ほか. 回復期リハビリテーション病棟での継続的なリハビリテーションにより運動機能・ADLが改善した人工呼吸器離脱後のCOVID-19重症患者3症例. 呼吸理学療法学. 2024;3(1):41-50. doi:10.51116/kokyurigakuryohogaku.3.1_41
  7. 日本集中治療医学会 集中治療早期リハビリテーション委員会. 日本版重症患者リハビリテーション診療ガイドライン(J-ReCIP 2023)の概要と今後の展望. The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine. 2024;61(6):444-451. doi:10.2490/jjrmc.61.444

【免責事項】

本記事は一般的な医療・リハビリテーション情報の提供を目的としており、特定の疾患の診断・治療方針の決定を目的とするものではありません。患者さんへの具体的なリハビリテーション介入は、担当医の指示のもと、専門職が個々の状態を評価した上で実施してください。記事内の情報は執筆時点のものであり、最新のガイドラインや臨床研究の更新によって変更される場合があります。

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理学療法士 18年目
とっち

回復期リハビリテーション病院勤務18年目の理学療法士。
・脳卒中認定理学療法士
・3学会合同呼吸療法認定士
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