理学療法士がヘルニアになった話|腰痛が治らない本当の理由と股関節・下肢筋力の重要性

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回復期リハビリ専門 理学療法士

🏥 回復期リハ病院 18年目
🧠 脳卒中認定理学療法士
🌬️ 3学会合同呼吸療法認定士
📝 学会発表・論文投稿経験あり

正確で安全な医療情報の発信を重視しています。リハビリ・健康・セルフケアについて、現場のリアルを踏まえてわかりやすくお伝えします。

「腰痛持ちだから仕方ない」「また痛めてしまった」——そう思いながら、ずっと腰痛と付き合い続けていませんか?

実は私自身、身長184cm・体重84kgの元野球部員でありながら、理学療法士として働くなかで腰椎椎間板ヘルニアを経験しました。「体力と腕力があれば大丈夫」と過信していた私が、なぜ腰を壊したのか——その答えは「股関節と下肢筋力の使い方」にありました。

この記事では、理学療法士の視点から腰痛が起こるメカニズム・慢性化する理由・そして正しい体の使い方を、国内外の先行研究をもとにできるだけわかりやすく解説します。

📋 この記事でわかること

  1. 腰痛の本当の原因は「腰だけ」ではない
  2. 重い物を持つと腰に何が起きるのか(てこの原理)
  3. 「股関節・下肢筋力」が使えないと腰が壊れる理由
  4. 慢性腰痛で筋肉が「休めなくなる」メカニズム
  5. 腹圧=天然のコルセットの正しい使い方
  6. MRI異常と痛みは必ずしも一致しない
  7. 今日からできる腰痛予防5つのポイント
  8. よくある質問(Q&A)

① 腰痛の本当の原因は「腰だけ」ではない

腰が痛いからといって、原因が腰だけにあるとは限りません。腰痛を引き起こす要因は多岐にわたり、現在の研究では「生物・心理・社会モデル(biopsychosocial model)」で捉えることが主流となっています。

2023年にThe Lancet Rheumatologyに掲載されたGlobal Burden of Disease Study 2021によると、2020年時点で世界の腰痛患者数は約6億1900万人に上り、腰痛は障害の原因として世界第1位であると報告されています[1]。さらに2050年には8億4300万人に増加すると予測されています。

🦵

股関節の硬さ

🧍

不良姿勢

💨

呼吸の乱れ

😓

ストレス・疲労

🛋️

長時間の座位

💪

下肢筋力の低下

2018年にThe Lancetに掲載されたHartvigsenらのシリーズ論文は、腰痛が単なる筋骨格系の問題ではなく、心理的・社会的・職業的・生活習慣的な要因が複合的に絡み合っていることを示しており、生物・心理・社会モデルに基づいた包括的な評価と治療が推奨されています[2]

同年の別論文(Fosterら、2018)でも、腰痛の予防と治療においては身体的介入だけでなく、心理的サポートや生活環境の調整を含む多角的なアプローチが有効であることが示されています[3]

② 重い物を持つと腰に何が起きるのか

荷物を持ち上げる動作は、腰に非常に大きな力が加わる場面です。特に次の3条件が重なると、腰への負担は急激に増加します。

⚠️ 腰への負担が特に大きくなる3つの条件

1️⃣
前かがみ姿勢——腰椎への圧迫・せん断力が増大する
2️⃣
ひねり動作(回旋)——椎間板・靱帯に複合的な負荷がかかる
3️⃣
体から離して持つ——てこの原理で腰の筋肉への負荷が数倍になる

💡 てこの原理とは?

腕を伸ばして荷物を持つと「重い」と感じますよね。腰でも同じことが起きています。荷物が体から遠いほど、腰の筋肉はより強い力を出し続けなければならず、疲労・椎間板圧迫・靱帯への過負荷につながります。これはバイオメカニクス(生体力学)の基本原理であり、脊椎への圧迫力(compressive force)は姿勢と荷物の位置に大きく依存します[4]

✅ 良い持ち方 vs ❌ 悪い持ち方

❌ 腰に負担がかかる持ち方

  • 前かがみで腰だけを使う
  • 荷物を体から離して持つ
  • 腰をひねって向きを変える
  • 息を止めて力む
  • 膝を伸ばしたまま持ち上げる

✅ 腰への負担を減らす持ち方

  • 荷物を体に近づけて持つ
  • 股関節と膝を曲げて使う
  • 足ごと向きを変える(ピボット)
  • 呼吸しながら持ち上げる
  • 下肢全体で力を発揮する

③ 股関節・下肢筋力が使えないと腰が壊れる——私自身の経験から

📖 筆者の実体験

私は身長184cm・体重84kgで、学生時代は野球部に所属しており体力には自信がありました。理学療法士として働き始めてからも、重たい患者さんの移乗介助を続けてきました。「腕力でなんとかなる」と過信していた私は、ある日、自分と同じ体重の患者さんを移乗しようとした際に腰椎椎間板ヘルニアを発症してしまいました。

痛みで動けなくなって初めて気づきました。私は長年、腰と腕だけで患者さんを動かしていた。股関節をしっかり使う・下肢の大きな筋肉で力を発生させる——こうした基本的なことが、自分自身にはできていなかったのです。「知っているつもり」と「実際にできている」は、まったく別のことだと痛感しました。

なぜ「股関節と下肢」が重要なのか

前かがみの動作は、本来「腰・骨盤・股関節」が協調して行うものです(腰骨盤リズム:lumbo-pelvic rhythm)。しかし次のような状態があると、股関節がうまく動かせなくなります。

  • ×
    股関節の柔軟性低下——ハムストリングス(太ももの裏)や殿筋が硬くなっている
  • ×
    下肢筋力の低下——大腿四頭筋・大殿筋など下肢の大きな筋群が弱い
  • ×
    長時間の座位——股関節周囲筋の機能が低下し、動作パターンが変化する

こうした状態では股関節で動きを吸収できず、腰がすべての負担を引き受けることになります。これが繰り返されることで椎間板への過大な圧迫・せん断力が蓄積し、椎間板ヘルニアや筋疲労・慢性腰痛へとつながっていきます[4]

比較項目 股関節を使えている 腰だけで曲がる
前かがみの動き 股関節から前傾、背中は比較的まっすぐ 腰だけ丸まる、背中が大きく湾曲
腰への負担 下肢・殿部に分散される 腰椎・椎間板に集中
リスク 低い ヘルニア・筋疲労のリスク大

④ 慢性腰痛で筋肉が「休めなくなる」メカニズム

健康な状態では、前かがみになると腰の筋肉(脊柱起立筋など)は一時的にリラックスします。これを「屈曲弛緩現象(flexion-relaxation phenomenon:FRP)」と呼びます。

💡 屈曲弛緩現象とは?(研究より)

Colloca & Hinrichs(2005)の文献レビューによると、立位から前かがみになる際、健常者では腰部脊柱起立筋の筋電図(EMG)活動が80〜90%の体幹屈曲角度付近で消失する(myoelectric silence)ことが確認されています。これが腰の筋肉の”リセット機能”です[5]

しかし慢性腰痛の方では、この現象が起こりにくくなっています。Garces Rodríguezら(2024)のEMGを用いた研究では、慢性腰痛患者は健常者と比べて多裂筋・腰部脊柱起立筋の屈曲弛緩比(FRR)が有意に低下しており、前かがみになっても筋肉が緊張し続けることが示されています[6]

筋肉が休めない

血流低下・疲労

だるさ・重さ

痛みの慢性化

動かすのが怖くなる

「ずっと腰が張っている」「休んでいても腰が重い」という方は、この状態になっている可能性があります。これは単純な筋力不足ではなく、「筋肉をうまくオフにできない状態」であり、運動療法や動作指導による再学習が重要です。

⑤ 腹圧=天然のコルセットとは

腰痛予防として「腹筋を鍛えましょう」とよく言われますが、重要なのは「鍛えること」より「うまく使えること(協調性)」です。

腰を安定させるためには、以下の4つの筋群が協調して働く必要があります。これらが生み出す腹腔内圧(Intra-Abdominal Pressure:IAP)が、腰椎を内側から支える「天然のコルセット」として機能します。

☁️

横隔膜

呼吸の主役。腹腔の上蓋として腹圧を作る

🎗️

腹横筋

腹部のコルセット。最深層の腹筋

🪑

骨盤底筋

底蓋として腹圧を支える

🔩

多裂筋

椎骨を直接支える背部深層筋

Hodges & Gandevia(2000)の研究では、横隔膜が呼吸機能と腹腔内圧(腹圧)の生成に同時に関与していることが明らかにされています。横隔膜は四肢や体幹の動きに先行して活動し、腰椎の安定化に寄与します[7]

さらにHodgesら(2003)の動物実験(ブタを用いた研究)では、横隔膜・腹横筋の収縮によって腹腔内圧が高まると、腰椎の椎体間剛性(intervertebral stiffness)が有意に増大することが確認されています。これは腹圧が腰椎安定化の物理的メカニズムとして機能していることを示す根拠となっています[8]

✅ 正しい腹圧の高め方

息を止めて力むのではなく、鼻から息を吸いながらお腹を軽く引き込み、吐きながら動作を行うようにします。呼吸と腹圧の協調が腰椎の安定につながります。「腹筋を鍛えたのに改善しない」という方の多くは、この協調運動ができていないことが一因と考えられます。

⑥ MRI異常と痛みは必ずしも一致しない

腰痛でMRIを撮ると、ヘルニア・椎間板変性・脊柱管狭窄・骨の変形などが見つかることがあります。しかし、これが「腰痛の原因」と直結するとは限りません。

📊 研究が示していること(Brinjikjiら 2015)

Brinjikjiら(2015)による33研究・3110名を対象とした系統的レビューでは、症状のない(無症候性)人においても、MRI上の脊椎変性所見が年齢とともに高頻度に確認されたと報告されています[9]

年代 椎間板変性 椎間板膨隆 椎間板突出
20代 37% 30% 29%
40代 68% 50% 43%
60代 88% 69% 50%
80代 96% 84%

※無症候性(痛みのない)集団におけるMRI上の変性所見の割合(Brinjikji et al., 2015より)

つまり、「画像で異常が見つかった=それが痛みの直接原因」とは言えないことも多いのです。同著者らによる別のレビュー(2015年)でも、椎間板変性の有病率は腰痛患者で非患者より高い傾向はあるものの、画像所見のみで痛みの程度は説明できないとしています[10]

※ MRI検査は重要な検査です。特に「下肢のしびれや麻痺」「排尿・排便障害」がある場合は、速やかに医療機関を受診してください。画像所見の解釈は必ず医師が総合的に行うものです。

⑦ 今日からできる腰痛予防5つのポイント

1

荷物は体に近づけて持つ

荷物が体から遠いほど、てこの原理で腰への負担は増大します。できる限り体に密着させて持ちましょう。

2

股関節と膝を使って曲がる(スクワット動作)

前かがみになるときは腰だけでなく、股関節と膝を曲げて下肢の大きな筋肉(大殿筋・大腿四頭筋)で力を出す意識を持ちましょう。

3

向きを変えるときは体ごと動かす

腰をひねりながら持ち上げるのは最も危険な動作のひとつです。足を踏み出して、体全体で向きを変えましょう。

4

呼吸を止めない・腹圧を活用する

呼吸と腹圧は腰の安定に直結します(Hodgesら 2003)[8]。息を止めて踏ん張る習慣は、腹圧の協調を崩す原因になります。

5

過度な安静を避け、適度に動き続ける

Haydenらのコクランレビュー(2021)では、慢性腰痛に対する運動療法が疼痛・機能障害の改善に有効であることが示されています[11]。急性期以降は安静にしすぎず、無理のない範囲で体を動かすことが大切です。

⑧ よくある質問(Q&A)

Q
腰痛があっても運動していいの?

A:急性期(痛みが強い発症直後)を除けば、適度な運動は推奨されます。コクランレビュー(Hayden et al., 2021)によると、運動療法は慢性腰痛患者における疼痛と機能制限の改善に有効であることが示されています[11]。ウォーキングや水中歩行など、腰への負担が少ない運動から始めるとよいでしょう。ただし、下肢のしびれ・麻痺・排尿障害がある場合は必ず医療機関に相談してください。

Q
コルセットは使い続けていいの?

A:コルセットは急性期の痛みを和らげるために有効ですが、長期的な使用は体幹深部筋群(特に腹横筋・多裂筋)の機能低下を招く可能性があります。「痛みがひいてきたら少しずつコルセットなしでも動けるよう練習する」という段階的な移行が理想的です。使用方法については医師・理学療法士にご相談ください。

まとめ

腰痛のポイントを整理すると

  • 腰痛は「腰だけ」が原因ではなく、股関節・下肢筋力・呼吸・ストレスなどが複合的に関与する(Hartvigsen et al., 2018)[2]
  • 重い物を持つ際は「てこの原理」「股関節の使い方」「下肢で力を出すこと」が重要
  • 慢性腰痛では屈曲弛緩現象が消失し、筋肉が「休めない状態」になることがある(Colloca & Hinrichs, 2005)[5]
  • 腹圧(天然のコルセット)は「呼吸との協調」が鍵(Hodges et al., 2003)[8]
  • MRI異常と痛みは必ずしも一致しない。無症候でも変性所見は高頻度(Brinjikji et al., 2015)[9]
  • 適度な運動療法は慢性腰痛の疼痛・機能改善に有効(Hayden et al., 2021)[11]

私自身がヘルニアを経験してから、「知識だけでなく実際に体でできているか」が腰を守る上でいかに重要かを痛感しています。腰痛を繰り返している方、朝から腰が重い方、重い物を持つのが怖い方——ぜひ今日から体の使い方を意識してみてください。

📚 参考文献

本記事は以下の査読済み論文・系統的レビューを参考に作成しています。

  1. GBD 2021 Low Back Pain Collaborators.
    Global, regional, and national burden of low back pain, 1990–2020, its attributable risk factors, and projections to 2050: a systematic analysis of the Global Burden of Disease Study 2021.
    The Lancet Rheumatology. 2023;5(6):e316–e329.
    DOI: 10.1016/S2665-9913(23)00098-X
  2. Hartvigsen J, Hancock MJ, Kongsted A, et al.
    What low back pain is and why we need to pay attention.
    The Lancet. 2018;391(10137):2356–2367.
    DOI: 10.1016/S0140-6736(18)30480-X
  3. Foster NE, Anema JR, Cherkin D, et al.
    Prevention and treatment of low back pain: evidence, challenges, and promising directions.
    The Lancet. 2018;391(10137):2368–2383.
    DOI: 10.1016/S0140-6736(18)30489-6
  4. McGill SM.
    Low Back Disorders: Evidence-Based Prevention and Rehabilitation.
    3rd ed. Human Kinetics; 2016.
    ISBN: 978-1492533658
    書籍
  5. Colloca CJ, Hinrichs RN.
    The biomechanical and clinical significance of the lumbar erector spinae flexion-relaxation phenomenon: a review of literature.
    Journal of Manipulative and Physiological Therapeutics. 2005;28(8):623–631.
    DOI: 10.1016/j.jmpt.2005.08.005
  6. Garces Rodríguez M, et al.
    Age-dependent flexion relaxation phenomenon in chronic low back pain patients.
    Frontiers in Bioengineering and Biotechnology. 2024;12:1366877.
    DOI: 10.3389/fbioe.2024.1366877
    PMC公開
  7. Hodges PW, Gandevia SC.
    Changes in intra-abdominal pressure during postural and respiratory activation of the human diaphragm.
    Journal of Applied Physiology. 2000;89(3):967–976.
    DOI: 10.1152/jappl.2000.89.3.967
  8. Hodges P, Kaigle Holm A, Holm S, et al.
    Intervertebral stiffness of the spine is increased by evoked contraction of transversus abdominis and the diaphragm: in vivo porcine studies.
    Spine. 2003;28(23):2594–2601.
    DOI: 10.1097/01.BRS.0000096676.14323.25
  9. Brinjikji W, Luetmer PH, Comstock B, et al.
    Systematic literature review of imaging features of spinal degeneration in asymptomatic populations.
    AJNR American Journal of Neuroradiology. 2015;36(4):811–816.
    DOI: 10.3174/ajnr.A4173
    931回以上引用
  10. Brinjikji W, Diehn FE, Jarvik JG, et al.
    MRI findings of disc degeneration are more prevalent in adults with low back pain than in asymptomatic controls: a systematic review and meta-analysis.
    AJNR American Journal of Neuroradiology. 2015;36(12):2394–2399.
    DOI: 10.3174/ajnr.A4498
  11. Hayden JA, Ellis J, Ogilvie R, Malmivaara A, van Tulder MW.
    Exercise therapy for chronic low back pain.
    Cochrane Database of Systematic Reviews. 2021;Issue 9. Art. No.: CD009790.
    DOI: 10.1002/14651858.CD009790.pub2
    Cochrane Review

⚠️ 免責事項

本記事は一般的な健康情報の提供を目的としており、特定の疾患の診断・治療を目的としたものではありません。腰痛の症状が強い場合、下肢のしびれ・麻痺・排尿排便障害を伴う場合は、速やかに医療機関を受診してください。本記事の情報をもとに行った行為の結果について、筆者・当ブログは一切の責任を負いかねます。治療に関するご判断は必ず医師・医療専門職にご相談ください。参考文献は記事執筆時点(2024年)の情報に基づいており、最新の研究動向と異なる場合があります。

この記事を書いた人
理学療法士 18年目
とっち

はじめまして。
「リハビリと身体のケアラボ」を運営しているtocchiです。

理学療法士として回復期リハビリテーション病院に勤務し、
臨床の現場で長くリハビリに携わっています。

1986年生まれ(40歳)。
大学卒業後から理学療法士として勤務し、現在は約18年目になります。

■ 保有資格・実績
・脳卒中認定理学療法士
・3学会合同呼吸療法認定士
・学会発表・論文投稿多数

日々の臨床では、脳血管疾患や呼吸器領域を含め、
さまざまな患者さんのリハビリに関わっています。

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