この記事を書いた人:とっち
回復期リハビリテーション病院に勤務する理学療法士(経験18年目)。脳卒中専門理学療法士および三学会合同呼吸療法認定士の資格を保有し、学会発表・論文投稿の経験もあります。日々の臨床で多くの患者さんの「歩く力」を支える中で得た知見を、できるだけわかりやすくお伝えします。
正直に言うと、わたし自身も新人のころ、スクワットをかなり雑にやっていた時期があります。「とりあえず膝を曲げて立ち上がればいいんでしょ」くらいの認識で、毎日20回こなしていたんですが、3か月続けてもほとんど脚が変わった感じがしなくて。
当時は「自分、筋トレ向いてないのかな」と思っていたんですが、後から勉強し直して気づいたんですよね。フォームが悪いと、鍛えたい筋肉にほぼ刺激が入っていないことがある、って。
これ、患者さんを見ていてもよく感じます。スクワットを自己流でずっとやってきた方が来られると、動作を見た瞬間に「あ、これは太ももに効いてないな」とわかることが多いんです。18年やってると、なんとなくそういうのが見えてくる。
この記事では、そういう「なんとなくやってるスクワット」を、ちゃんと効くスクワットに変えるためのポイントをまとめています。特別な器具もいりません。まずは読んでみてください。
下肢の筋トレ完全ガイド|スクワットの正しいやり方を理学療法士が解説
「年齢とともに、階段の上り下りがつらくなった」「最近、つまずきやすくなった気がする」——そんな変化を感じたことはありませんか?その原因の多くは、下肢(脚・お尻)の筋力低下です。
下肢の筋トレといえば「スクワット」が代表的ですが、実は正しいやり方を知らないまま行っている方も少なくありません。間違ったフォームで続けると、膝や腰を痛めてしまうこともあります。
この記事では、回復期リハビリ病院で日々患者さんの運動指導を行っている理学療法士の視点から、科学的根拠に基づいたスクワットの正しいやり方と、安全に続けるためのポイントを詳しく解説します。
📋 現場からのエピソード
「立ち上がるだけなのに、こんなに大変になるなんて思わなかった。」
退院前のリハビリ中、ある80代の女性患者さんがぽつりと話してくださいました。
その方は、トイレから立ち上がるたびに手をつかないと立てず、「このまま家で生活できるだろうか」と不安を抱えていました。
評価では5回立ち上がりテストに21秒を要し、大腿四頭筋や大殿筋の筋力低下が目立っていました。
そこで、椅子からの立ち座り運動を中心としたスクワット練習を開始。最初は週3回、1日5回×2セットから始め、疲労や膝の痛みを確認しながら少しずつ回数を増やしていきました。
約2か月後には5回立ち上がりテストは21秒から14秒まで改善し、トイレでの立ち上がりもスムーズになりました。
退院前には、
「孫と出かけるのが怖くなくなりました。」
と笑顔で話してくださった姿が今でも印象に残っています。
もちろん、この改善はスクワットだけによるものではありません。歩行練習やバランス練習など、日々のリハビリ全体の積み重ねがあってこその結果です。
それでも、この患者さんを通して改めて感じたのは、スクワットは単に脚を鍛える運動ではなく、「立つ」「座る」という毎日の動作そのものを支えるトレーニングだということでした。
私はスクワットを指導するとき、「筋肉をつけるための運動」と説明するだけではありません。
**「トイレから立つ」「椅子から立ち上がる」「外出先で安心して動く」ための練習なんですよ。**
そうお伝えすると、運動の意味をイメージしやすくなり、自主トレーニングにも前向きに取り組んでくださる方が多いと感じています。
※プライバシー保護のため、症例内容は一部変更・再構成しています。
なぜスクワットが「下肢の筋トレ」として最適なのか

スクワットは「しゃがむ」「立ち上がる」という、私たちが日常生活で何度も繰り返している動作そのものです。この動作には、主に以下の筋肉が関わっています。
| 部位 | 筋肉名 | 主な役割 |
|---|---|---|
| 太もも前面 | 大腿四頭筋 | 立ち上がる・膝を伸ばす |
| お尻 | 大殿筋 | 股関節を伸ばす・姿勢を支える |
| 太もも裏 | ハムストリングス | 股関節・膝の動きを補助 |
| ふくらはぎ | 下腿三頭筋 | バランス保持・歩行 |
これらの筋肉は、加齢とともに優先的に萎縮しやすい「速筋(タイプII線維)」を多く含んでいます。速筋は瞬発的な力を生み出す筋肉で、つまずいたときに踏ん張る、急に立ち上がるといった動作に欠かせません。[1]
筋肉が大きくなる3つのメカニズム
筋トレで筋肉が大きくなる(筋肥大)には、以下の3つの刺激が重要とされています。[1]
① 機械的張力
筋肉が引き伸ばされながら力を発揮すること。最も重要な刺激とされています。
② 代謝ストレス
運動によって筋肉内に乳酸などの代謝産物がたまることで起こる変化です。
③ 筋損傷
特に「ゆっくり下りる」動作(伸張性収縮)で生じる、筋肉のごく小さな損傷です。
このことから、スクワットでは「ゆっくり腰を下ろし、しっかり踏ん張って立ち上がる」という動作が、効率よく筋肉に刺激を与えるポイントになります。研究でも、ゆっくりとした伸張性収縮と、やや速い短縮性収縮を組み合わせたテンポが筋肥大に有効であると報告されています。[2]
正しいスクワットのやり方|ステップ解説
🟢 基本のスクワット(椅子を使った安全な方法)
STEP 1:準備姿勢
椅子の前に立ち、足は腰幅程度に開きます。つま先はやや外側に向け、椅子に座る直前のところまで腰を下ろせる位置に立ちましょう。
STEP 2:腰を下ろす
お尻を後ろに引くようなイメージで、3〜4秒かけてゆっくりと腰を下ろします。膝がつま先より前に出すぎないように注意してください。
STEP 3:椅子に軽くタッチ
お尻が椅子に軽く触れるか触れない程度まで下ろします。この時、背中はまっすぐを保ちます。
STEP 4:立ち上がる
太ももの前面とお尻に力を入れて、1〜2秒で立ち上がります。膝が伸びきる手前で完全に止めず、軽く力を残した状態で次の動作に移ると効果的です。

👉 まずは5回×2セットを目安に、週2〜3回から始めてみましょう。回数よりも「正しいフォームでゆっくり行うこと」が重要です。
やってはいけないNGフォーム
❌ 膝が内側に入る(ニーイン)
膝に余計な負担がかかり、痛みの原因になります。膝はつま先と同じ方向を向くように意識しましょう。
❌ 反動を使って勢いよく立ち上がる
筋肉への刺激が減るだけでなく、腰や膝への負担が増します。
❌ 呼吸を止める
腰を下ろすときに息を吸い、立ち上がるときに息を吐くと、血圧の急激な変動を防げます。

どのくらいの強度・頻度で行うべきか
筋肥大や筋力向上を目的とした場合、研究では以下のような目安が示されています。[2][3]
| 目的 | 回数の目安 | 頻度 |
|---|---|---|
| 筋肉量を増やす | 6〜30回を「ややきつい」と感じるところまで | 週2〜3回 |
| 日常生活の動作改善 | 5〜10回×2〜3セット | 週2〜3回 |
大切なのは「高重量でなくても、十分にきついと感じるところまで行うこと」です。自分の体重だけを使ったスクワットでも、フォームを意識して行えば、十分に大腿四頭筋やお尻の筋肉に効果的な刺激を与えることができます。[3]
✏️ 現場で気づいたこと|「ゆっくり下ろす」が一番難しい
勤務して3〜4年目くらいのころだったと思います。当時のわたしは「スクワットの指導なんて簡単」と、どこかなめてかかっていました。患者さんに「膝が痛い」と言われるたびに、「じゃあ浅くやりましょう」「足を少し広げてみましょう」と、教科書どおりの対応を繰り返していました。でも、ある70代の男性患者さんに言われた一言で、ちょっとハッとしたんです。
その方は大腿骨頸部骨折の術後で、筋力強化のために椅子スクワットを続けてもらっていました。週3回、毎回10回×3セット。数字だけ見れば順調でした。ところが6週間経っても、5回椅子立ち上がりテストのタイムがほとんど変わらない。おかしいなと思って横から動作を観察してみると、立ち上がりは力強いのに、腰を下ろすときにストンと落ちるように座ってしまっていました。
「先生、ゆっくり下ろすのがしんどいんですよ。立つのは頑張れるけど」
そう言われて、初めてちゃんと気づきました。筋肉への刺激という意味では、「下りる動作(伸張性収縮)」が最も重要なのに、わたしはずっと「立ち上がれているか」しか見ていなかったんです。そこで「3秒かけて下ろす」ことだけにフォーカスして指導を変えたところ、2週間後には5回テストのタイムが2.4秒縮まりました。
スクワットの効果が出ない、という方の動作をよく観察すると、「下ろし方が雑」なケースは意外と多いです。回数をこなすよりも、下ろす速さを意識するだけで変わることがあります。
膝が痛い人はどうすればいい?
「スクワットをしたいけれど、膝が痛くてできない」という方も多くいらっしゃいます。その場合は、以下のような工夫がおすすめです。
- 腰を下ろす深さを浅くする(膝を曲げる角度を小さくする)
- 椅子からの立ち座り動作だけに絞る
- 壁に手をついて支えながら行う
- 痛みが続く場合は、自己判断で続けず、医療機関を受診しましょう
よくある質問(Q&A)
Q1. スクワットは毎日やってもいいですか?
A. 筋肉には休息も必要なため、同じ部位を毎日強い負荷で行うことは推奨されません。ただし、日常生活レベルの軽いスクワット(立ち座り動作)であれば、毎日行っても問題ない場合が多いです。筋肉痛が強く残っているときは、無理せず休みましょう。
Q2. 効果が出るまでどのくらいかかりますか?
A. 個人差はありますが、研究では8週間程度の継続トレーニングで筋肉や身体機能に変化が見られ始めることが報告されています。[4] まずは2〜3か月を目安に、無理のない範囲で継続することをおすすめします。
まとめ
- 下肢の筋トレは、加齢で衰えやすい大腿四頭筋・大殿筋を中心に鍛えることが大切
- スクワットは「ゆっくり下ろし、しっかり立ち上がる」フォームが効果的
- 膝が内側に入らないよう注意し、反動を使わず行う
- 回数より「ややきつい」と感じる強度を意識することが重要
- 膝に痛みがある場合は無理をせず、深さの調整や医療機関への相談を
下肢の筋力は、私たちの「自分の足で歩き続ける」生活を支える土台です。今日から、できる範囲で少しずつ始めてみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の疾患の診断・治療を目的としたものではありません。持病がある方、痛みが続く方は、自己判断で運動を行わず、必ず医師や理学療法士などの専門家にご相談ください。
参考文献
[1] Roberts MD et al. Mechanisms of Mechanical Overload-Induced Skeletal Muscle Hypertrophy. Physiol Rev 2023;103:2679-2757.
[2] Wolf M et al. Optimizing Resistance Training Technique for Hypertrophy. J Funct Morphol Kinesiol 2024;9(1):9.
[3] Bernardez-Vazquez R et al. Resistance Training Variables for Optimization of Muscle Hypertrophy: An Umbrella Review. Front Sport 2022.
[4] Lloyd EM et al. Slow or fast: myofibre type differences. Acta Physiol 2023;238:e14012.
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