「脳卒中のリハビリ、どこまで回復できる?」回復期PT18年目が教える回復の流れと実践ポイント

回復期リハビリの仕事

✍️ この記事を書いた人

回復期リハビリ病院勤務・現役理学療法士(PT歴18年)

🏅 脳卒中認定理学療法士 | 🫁 3学会合同呼吸療法認定士
学会発表・論文投稿経験あり。脳卒中患者さんのリハビリに18年間向き合い続けてきた経験をもとに、正確でわかりやすい情報をお届けします。

「脳卒中になったら、どんなリハビリをするの?」「どのくらいで回復するの?」

ご本人や家族から、こんな声をよく聞きます。脳卒中は突然やってくる病気ですが、適切なリハビリを継続することで、多くの方が日常生活の機能を回復できます

この記事では、脳卒中リハビリの全体像を、現場で18年間患者さんと向き合ってきた理学療法士が、国内外の論文・ガイドラインをもとにわかりやすく解説します。

🧠 脳卒中とは?まずは基本を押さえよう

脳卒中とは、脳の血管が詰まったり(脳梗塞)、破れたり(脳出血・くも膜下出血)することで、脳の一部が傷つく病気です。

日本では2011年の推計で年間約22万人(再発を含めると約30万人)が新たに発症し[1]、現在も約188万人の患者さんが治療・リハビリを受けています[2]。高齢化が進む日本では、依然として主要な疾患のひとつです。

また、世界規模では2016年時点で約1,370万人が脳卒中を新規発症したと報告されており[3]、脳卒中は世界的にも重大な公衆衛生問題となっています。

📋 病型の種類と特徴

病型 割合 主な原因 特徴
脳梗塞 約70〜80% 血管の詰まり 最も多い。高血圧・心房細動が主因
脳出血 約15〜20% 血管の破れ 高血圧が主因。深部出血が多い
くも膜下出血 約5〜10% 脳動脈瘤の破裂 激しい頭痛で発症。緊急手術が必要

※ 病型割合は国内外の疫学調査に基づく概算です[1][3]

⚡ 脳卒中でどんな症状が出る?

脳のどこが傷ついたかによって、現れる症状は異なります。代表的なものをご紹介します。

🔴 運動麻痺(片側の手足が動かしにくい)

脳から手足に命令を伝える「錐体路(すいたいろ)」という神経の通り道が傷つくことで起こります。この神経は延髄(脳の下の部分)で約90%が反対側へ交叉するため[4]左脳の病変では右半身、右脳の病変では左半身に麻痺が出ます。これが脳卒中で「反対側に麻痺が出る」理由です。

🔵 高次脳機能障害(見えにくい障害)

運動麻痺と並んで、脳卒中後に多いのが「高次脳機能障害」です。外から見えにくいため、周囲に理解されにくいのが特徴です。米国心臓協会(AHA)/米国脳卒中協会(ASA)のガイドラインでも、これらの障害の評価と対応が重要事項として明記されています[5]

  • 失語症:言葉が出にくい、聞いても理解できない(左脳損傷に多い)
  • 半側空間無視:片側(多くは左側)のものが見えているのに気づかない
  • 遂行機能障害:物事の計画・段取りが難しくなる
  • 注意障害:集中力が低下し、ミスが増える

⏱️ 回復のしくみとリハビリの「黄金期」

回復はいつまで続く?

脳卒中後の回復には「自然回復」という生物学的な力が働きます。特に発症後1〜3ヶ月が最も回復が著しい時期とされており、回復期リハビリテーション病棟(以下、回復期リハ病棟)での集中的なリハビリが重要です[6]。その後も6ヶ月〜1年かけて緩やかに改善が続きます。

日本の回復期リハ病棟における脳血管疾患患者の割合は全入棟患者の約43.8%を占め[6]、平均在院日数は約81.6日とされています[7]

発症〜2週

急性期治療
(命を守る)

🏃

〜3ヶ月

回復期リハ
(黄金期!)

🚶

〜6ヶ月〜1年

維持・継続期
(緩やかに改善)

🏠

退院後

生活期
(再発予防も大切)

Brunnstromステージとは?(専門用語解説)

脳卒中後の運動麻痺の回復段階を表す指標です。スウェーデンの理学療法士Signe Brunnstromが提唱したもので[8]、日本のリハビリ臨床でも広く使われています。

🔢 Brunnstromステージ(手・足・手指 各I〜VIで評価)

  • ステージI:完全な弛緩麻痺(全く動かない)
  • ステージII:わずかな動きと痙縮(つっぱり)の出現
  • ステージIII:痙縮が最も強く、共同運動パターンが出現
  • ステージIV〜V:痙縮が軽減し、分離した動きができるようになる
  • ステージVI:ほぼ正常に近い動き

数字が大きいほど回復が進んでいることを示します。

🏥 具体的にどんなリハビリをするの?

脳卒中リハビリの基本原則は「高頻度・高強度・課題特異的トレーニング」とされています[5][9]。つまり、毎日たくさん練習し、目標に合った動作を繰り返すことが脳の回復を促します。

これは「神経可塑性(しんけいかそせい)」という、脳が経験によって配線を変化させる性質に基づいています。使えばつかうほど、脳のネットワークが再構築されるのです。

🦵 歩行・移動のリハビリ

  • 早期離床・起立練習:発症早期から座る・立つ練習を開始。廃用症候群(使わないことで体が弱る)を防ぐ
  • 平行棒歩行・歩行器歩行:段階的に歩行を練習
  • トレッドミル歩行(体重支持型):ハーネスで体重を一部支えながら歩行を繰り返す。Cochraneレビューでも歩行速度・歩行能力の改善が報告されています[10]

🦾 装具療法(AFO・KAFO)

足関節装具(AFO=Ankle Foot Orthosis)は、足首を安定させて歩行を助ける道具です。Tysonらのシステマティックレビューでは、AFO装着により歩行速度・歩幅・歩行距離・歩行能力(FAC)が有意に改善することが示されています[11]

🦴 足関節装具(AFO)

歩行速度の改善量(メタ解析)

+0.24 m/s

対照治療との比較[12]

VS

⚡ 機能的電気刺激(FES)

歩行速度の改善量(メタ解析)

+0.09 m/s

対照治療との比較[12]

※ いずれも歩行速度の改善に有効。両者に有意差はなく、患者の状態に応じて選択されます[12]

✋ 上肢(手・腕)のリハビリ

  • CI療法(制約誘導運動療法):健側の手を制限して、麻痺側の手を使わざるを得ない環境をつくる。Cochraneレビューで上肢機能改善のエビデンスが示されています[13]
  • ロボット療法(上肢):繰り返し動作で脳の再編成(神経可塑性)を促す。Dickinsonらのメタ解析では、通常リハビリと比較して上肢機能の有意な改善が確認されています[14]
  • 機能的電気刺激(FES):電気刺激で麻痺した筋肉を動かす補助療法

💬 現場から:「前と同じに戻れる」という気持ちに寄り添って

現役PTからのリアルな声

脳卒中後の患者さんと関わっていると、「以前と同じように動けるはず」「リハビリをやれば完全に元通りになる」と信じていらっしゃる方がとても多いです。これは病識(自分の障害を正しく認識すること)の問題とも関わっており、高次脳機能障害の一側面でもあります。

私がよくお話しするのが、長嶋茂雄さんのエピソードです。「長嶋さんも脳卒中のリハビリを懸命に続けて、野球の解説や社会復帰をされましたよね」とお伝えすると、「そうか、あの長嶋さんでも…」と前向きになってくれる方が少なくありません。完全に元通りを目指すのではなく、今できることを最大限に伸ばすという視点の転換を、焦らず、しかし確実に伝えていくことが私たちPTの大切な役割だと感じています。退院時には「リハビリはずっと続けていいんです。ゆっくりでも、改善は続きますよ」と声をかけながら、次のステージへ送り出しています。

🛡️ 再発を防ぐために大切なこと

脳卒中経験者の再発リスクは依然として高く、国内外の報告では1年累積で5〜10%、5年で20〜30%程度と報告されています[6]。再発予防は、リハビリと同じくらい重要な課題です。

⚠️ 再発リスクを高める主な因子

❤️‍🔥

心房細動
(未治療)

リスク約5倍[6]

🩸

高血圧
(未コントロール)

リスク約4倍[15]

🍬

糖尿病

リスク約2倍[6]

🚬

喫煙

リスク約2倍[6]

🩺 血圧管理が最重要

高血圧は脳卒中の最大の危険因子です。大規模なコホート研究では、収縮期血圧が10mmHg上昇するごとに脳卒中リスクが約20〜25%増加すると報告されています[15]

日本高血圧学会のガイドライン(JSH2019)では、脳血管障害慢性期の降圧目標を140/90mmHg未満とし、ラクナ梗塞・脳出血・くも膜下出血ではできれば130/80mmHg未満を目指すことが推奨されています[16]

🏃 生活習慣の改善ポイント

AHA/ASAガイドラインでは、脳卒中後の二次予防として以下の生活習慣改善が推奨されています[17]

  • 運動:週150分以上の中強度有酸素運動(1日7,000〜8,000歩が目安)
  • 食事:減塩・野菜・果物中心(DASH食・地中海食が有効とされる)[17]
  • 禁煙:喫煙は脳卒中リスクを大幅に高める。禁煙支援が必須
  • 服薬:抗血栓薬・降圧薬を正しく継続する

❓ よくある質問(Q&A)

Q. 退院後もリハビリは続けた方がいいの?

A. はい、続けることが大切です。回復期病棟を退院した後も、外来リハビリや訪問リハビリを通じて機能の維持・改善を続けることができます。脳の可塑性(神経の再編成)は退院後も続くため、「退院したら終わり」ではありません[9]。主治医や担当PTと相談しながら、生活の中での継続が重要です。

Q. 装具(AFO)は一生使い続けなければいけないの?

A. 必ずしもそうではありません。最初は装具に抵抗を感じる方も多いですが、装具はあくまで「安全に歩くための道具」であり、リハビリで機能が向上すれば不要になる場合もあります[11]。一方で、長期的に使用することで歩行の安定性や生活の質が保たれるケースもあります。担当の理学療法士と一緒に、その時々の状態に応じた最適な選択を続けていくことが大切です。

📝 まとめ

脳卒中リハビリのポイント

  • 脳卒中には脳梗塞・脳出血・くも膜下出血の3タイプがある
  • 発症後1〜3ヶ月が「回復の黄金期」。この時期の集中的リハビリが重要
  • 高頻度・高強度・課題特異的なリハビリが回復を促す(神経可塑性)
  • 装具(AFO)や機能的電気刺激(FES)、CI療法など、エビデンスに基づく手段が多数ある
  • 退院後も外来・訪問リハビリによる継続が大切
  • 再発予防のために血圧管理・生活習慣の改善が不可欠
  • 「完全に元通り」ではなく「今できることを最大に」という視点の転換も回復の力になる

脳卒中のリハビリは、決してひとりで抱え込むものではありません。理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・医師・看護師などのチームで、ご本人と家族を支えています。ぜひ遠慮なく、担当スタッフに相談してみてください。

📚 参考文献

  1. Feigin VL, et al. Global and regional burden of stroke during 1990–2010: findings from the Global Burden of Disease Study 2010. Lancet. 2014;383(9913):245–254. https://doi.org/10.1016/S0140-6736(13)61953-4
  2. 厚生労働省. 令和2年 患者調査. 2020. https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/20/index.html
  3. Feigin VL, et al. Global, regional, and national burden of neurological disorders, 1990–2016: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2016. Lancet Neurol. 2019;18(5):459–480. https://doi.org/10.1016/S1474-4422(18)30499-X
  4. Purves D, et al. Neuroscience. 6th ed. Sinauer Associates; 2018. Chapter 16: Upper Motor Neuron Control of the Brainstem and Spinal Cord.
  5. Winstein CJ, et al. Guidelines for Adult Stroke Rehabilitation and Recovery: A Guideline for Healthcare Professionals From the American Heart Association/American Stroke Association. Stroke. 2016;47(6):e98–e169. https://doi.org/10.1161/STR.0000000000000098
  6. 日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会. 脳卒中治療ガイドライン2021. 協和企画; 2021.
  7. 回復期リハビリテーション病棟協会. 回復期リハビリテーション病棟の現状と課題に関する調査報告書. 2022.
  8. Brunnstrom S. Movement therapy in hemiplegia: a neurophysiological approach. Harper & Row; 1970.
  9. Takeuchi N, Izumi S. Rehabilitation with poststroke motor recovery: a review with a focus on neural plasticity. Stroke Res Treat. 2013;2013:128641. https://doi.org/10.1155/2013/128641
  10. Mehrholz J, Thomas S, Elsner B. Treadmill training and body weight support for walking after stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2017;8:CD002840. https://doi.org/10.1002/14651858.CD002840.pub4
  11. Tyson SF, Kent RM. Effects of an ankle-foot orthosis on balance and walking after stroke: a systematic review and pooled meta-analysis. Arch Phys Med Rehabil. 2013;94(7):1377–1385. https://doi.org/10.1016/j.apmr.2012.12.025
  12. Prenton S, Hollands KL, Kenney LP. Functional electrical stimulation versus ankle foot orthoses for foot-drop: A meta-analysis of orthotic effects. J Rehabil Med. 2016;48(8):646–656. https://doi.org/10.2340/16501977-2123
  13. Corbetta D, Sirtori V, Castellini G, Moja L, Gatti R. Constraint-induced movement therapy for upper extremities in people with stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2015;10:CD004433. https://doi.org/10.1002/14651858.CD004433.pub3
  14. Mehrholz J, Pohl M, Platz T, Kugler J, Elsner B. Electromechanical and robot-assisted arm training for improving activities of daily living, arm function, and arm muscle strength after stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2018;9:CD006876. https://doi.org/10.1002/14651858.CD006876.pub5
  15. Lewington S, et al; Prospective Studies Collaboration. Age-specific relevance of usual blood pressure to vascular mortality: a meta-analysis of individual data for one million adults in 61 prospective studies. Lancet. 2002;360(9349):1903–1913. https://doi.org/10.1016/S0140-6736(02)11911-8
  16. 日本高血圧学会. 高血圧治療ガイドライン2019(JSH2019). ライフサイエンス出版; 2019.
  17. Kleindorfer DO, et al. 2021 Guideline for the Prevention of Stroke in Patients With Stroke and Transient Ischemic Attack: A Guideline From the American Heart Association/American Stroke Association. Stroke. 2021;52(7):e364–e467. https://doi.org/10.1161/STR.0000000000000375

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この記事を書いた人
理学療法士 18年目
とっち

はじめまして。
「リハビリと身体のケアラボ」を運営しているtocchiです。

理学療法士として回復期リハビリテーション病院に勤務し、
臨床の現場で長くリハビリに携わっています。

1986年生まれ(40歳)。
大学卒業後から理学療法士として勤務し、現在は約18年目になります。

■ 保有資格・実績
・脳卒中認定理学療法士
・3学会合同呼吸療法認定士
・学会発表・論文投稿多数

日々の臨床では、脳血管疾患や呼吸器領域を含め、
さまざまな患者さんのリハビリに関わっています。

このブログでは、
・理学療法士としてのリアルな現場の話
・リハビリの考え方や実践
・日常生活で取り入れられるセルフケア
などを中心に発信しています。

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