心疾患がある人の筋トレ|理学療法士が教える注意点

セルフケア・リハビリ

🩺 この記事を書いた人:とっち

回復期リハビリテーション病院に勤務する理学療法士(経験18年目)。脳卒中専門理学療法士、三学会合同呼吸療法認定士の資格を保有。学会発表・論文投稿の経験もあり、エビデンスに基づいたリハビリ情報を発信しています。

心疾患がある人の筋トレ|理学療法士が教える注意点

「心臓が悪いから筋トレなんて怖くてできない」——心臓リハビリの現場でこのような言葉を、私は何度も聞いてきました。しかし実は、適切な方法で行う筋力トレーニング(レジスタンストレーニング)は、心疾患をお持ちの方の体力維持・QOL向上にとても役立つことが、最新の研究でも示されています。

この記事では、心疾患がある方が筋トレを行う際に「絶対に知っておきたい注意点」を、理学療法士の視点から分かりやすく解説します。

⚠️ご注意:この記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、診断や治療を代替するものではありません。心疾患のある方が運動を始める際は、必ず主治医や心臓リハビリテーションの専門スタッフの指導を受けてください。

心疾患があっても筋トレは「できる」時代に

かつては「心臓が悪い人は安静第一」という考え方が一般的でした。しかし現在では、症状が安定していれば、適切な強度のレジスタンストレーニングは心疾患患者さんにとって有用であるという見解が広く受け入れられています[1]

2023年に発表された米国心臓協会(AHA)の科学的声明では、レジスタンストレーニングは筋肉量・筋力の維持・改善だけでなく、心血管疾患そのものや心血管リスク因子(血圧・血糖・脂質など)に対しても有益な効果をもたらすと結論づけられています[2]

また、冠動脈疾患の心臓リハビリにおいて、レジスタンストレーニングと有酸素運動を組み合わせた複合プログラムは、有酸素運動のみの場合と比べて、運動耐容能(peak VO2)・生活の質(QOL)・筋力・心機能(左室駆出率)でより大きな改善を示したという報告もあります[3]

💡筋トレが心疾患の方に良い理由

効果 内容
筋肉量の維持・向上 息切れの大きな原因である筋量低下を防ぐ
血糖・脂質の改善 糖代謝が改善し、生活習慣病リスクを軽減
起立性低血圧の予防 立ちくらみ・ふらつきの予防につながる
日常生活動作(ADL)の維持 階段昇降・買い物などの動作が楽になる

筋トレを始める前に必須の確認事項

①必ず医師の許可を得る

心疾患患者さんがレジスタンストレーニングを開始するには、まず主治医の許可が必要です。特に入院中や退院直後は、自己判断での筋トレは避けるべきとされています[4]。心不全の場合も、薬物療法によって症状がコントロールされ、安定した状態であることが運動療法の前提条件となります[5]

②有酸素運動との組み合わせを優先する

心臓リハビリの基本は、ウォーキングやエアロバイクなどの有酸素運動です。筋トレはあくまで「有酸素運動を補完する位置づけ」として、軽い負荷から取り入れていくのが現場での一般的な流れです[6]。先に有酸素運動のセッション、あるいは少なくとも10分間の全身ウォームアップを行うことが推奨されています[7]

血圧・心拍をチェックしながら行う重要性

ここが今回最も伝えたいポイントです。心疾患がある方の筋トレは、「血圧やバイタルサインを測定しながら、積極期(症状が安定し、活動量を増やしていく段階)に行うこと」が非常に大切です。

📋現場で実際に行っているチェックポイント

  • 運動前・運動後の血圧・脈拍を必ず測定する
  • 収縮期血圧が安全な範囲(目安として120〜130mmHg未満にコントロールされた状態)であることを確認する[7]
  • 運動中はSpO2(酸素飽和度)や自覚的な息切れ・疲労感も同時に観察する
  • 体重の急激な増加、自覚症状の悪化があれば運動を中止する[7]

私が回復期病棟で心疾患を合併された患者さんを担当する際も、筋トレ前後で必ず血圧・脈拍を測定し、その日の体調によって負荷量を調整しています。ある日、いつもと同じメニューでも血圧の上昇反応が普段より大きかった方がいて、その日は負荷を一段階下げて様子を見たところ、翌日には通常通りの反応に戻ったということがありました。このように「数値で確認しながら、その日の状態に合わせて調整する」ことが、安全に継続するうえで欠かせないと実感しています。

呼吸の仕方にも注意

筋肉を収縮させている最中は、息を止めずに普通に呼吸するか、力を入れるタイミングで息を吐くようにすることが推奨されています[4]。息を止めて力を入れる「いきみ」動作(バルサルバ効果)は血圧を急激に上昇させるため、心疾患のある方は特に避ける必要があります。

具体的な運動の進め方

項目 ポイント
運動様式 自重運動、ゴムチューブ、軽いダンベルなど低〜中負荷から
テンポ 2秒で上げ、4秒でゆっくり下ろす[4]
順序 大きな筋群(脚・背中など)から小さな筋群へ[4]
範囲 無理のない可動域で、痛みが出ない範囲で行う[4]
頻度 専門スタッフの指導のもと、週2〜3回程度から

糖尿病など複数の生活習慣病を合併している方も多く、こうした場合もレジスタンストレーニングは血糖・脂質・血圧の管理に対して補助的に有効であることが示されていますが、適切な強度設定については現在も研究が続けられている段階です[8]。あくまで医療者の管理下で、無理のない範囲から始めることが大切です。

Q&A:よくある質問

Q1. 自宅で血圧を測りながら筋トレしても大丈夫ですか?

A. 医師から運動療法の許可が出ており、安定した状態であれば、自宅で血圧・脈拍を確認しながら軽い運動を継続することは可能です。ただし、運動の種類・強度・頻度については、必ず事前に主治医や心臓リハビリスタッフと相談し、個別のプログラムを決めてもらうようにしましょう。

Q2. どのくらいの血圧になったら運動を中止すべきですか?

A. 一般的には、安静時の血圧が高すぎる場合や、運動中に血圧が異常に上昇・下降した場合、強い息切れ・胸痛・めまいなどの症状が出た場合は運動を中止します。具体的な数値の基準は個人差が大きいため、必ず主治医から提示される基準値に従ってください。

記事のまとめ

  • 心疾患があっても、症状が安定していれば適切な筋トレは有用
  • 開始には必ず医師の許可が必要
  • 血圧・脈拍などのバイタルを測定しながら、安定した「積極期」に進める
  • いきみ動作(息を止める)は避け、呼吸を意識する
  • 大きな筋群から小さな筋群へ、無理のない負荷から始める

セルフチェックにおすすめのアイテム

自宅で血圧や心拍を継続的にチェックする習慣をつけることは、心疾患のある方の運動管理において非常に重要です。以下のようなアイテムが活用されています。

①上腕式血圧計

医療機関でも広く使われているオシロメトリック式で、自宅での日々の血圧管理に適しています。運動前後の数値を毎日同じ条件で記録できるのが利点です。

②スマートウォッチ(血圧・心拍トレンド管理向け)

日常的に心拍数の変化を記録できるため、運動時の体調管理の補助として活用できます。通話・着信通知機能付きで日常使いもしやすいタイプです。

③血圧記録手帳

朝・夜1日2回の記録を簡単に続けられるグラフ式の手帳です。診察時に主治医へ経過を見せる際にも役立ちます。

参考文献

[1] レジスタンストレーニングの重要性|JARET 一般社団法人日本遠隔運動療法協会

[2] Paluch AE et al. Resistance Exercise Training in Individuals With and Without Cardiovascular Disease: 2023 Update. Circulation 2024;149:e217-e231.

[3] Fan T et al. Resistance training combined with aerobic exercise vs aerobic exercise alone in coronary artery disease. Front Cardiovasc Med 2021.

[4] 「心疾患患者にレジスタンストレーニングをどう行うか」Clinical and Applied Science, NPO法人Vascular Street, 2011.

[5] 心不全に対するリハビリテーション|新百合ヶ丘総合病院 医療コラム

[6] 心臓病の運動療法について|日本心臓リハビリテーション学会(JACR)

[7] 心臓リハビリテーション|函館五稜郭病院

[8] Fan T et al. Resistance Training Intensity Differences for Type 2 Diabetes. Healthcare 2023;11:440.

免責事項:本記事は一般的な情報提供を目的としており、医学的な診断・治療を目的としたものではありません。心疾患のある方が運動・筋力トレーニングを行う際は、必ず主治医や医療専門職にご相談のうえ、個別の指導を受けてください。本記事の情報により生じたいかなる結果についても、当ブログは責任を負いかねます。

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