✍️ この記事を書いた人
回復期リハビリテーション病棟勤務18年目の理学療法士
🏥 回復期リハビリテーション病院勤務(18年目)
🎓 脳卒中認定理学療法士
🫁 3学会合同呼吸療法認定士
📄 学会発表・論文投稿経験あり
正確で安全な医療情報の発信を大切にしています。
回復期リハビリテーション病棟で患者さんが一生懸命リハビリに取り組んでいる姿を、私は18年間見続けてきました。
しかし現場で感じているのは、「頑張るだけでは足りない現実がある」ということです。その見えない壁の一つが、低栄養です。
実は、回復期リハビリ病棟の患者さんの約半数が低栄養状態にあるという研究報告があります[1][2]。栄養が足りていないまま運動を続けることで、リハビリ効果が出ないどころか、むしろ身体が弱っていくケースさえあるのです。
この記事では、現場の理学療法士として「低栄養がリハビリにどう影響するか」「どう評価して、どう対処するか」を、一般の方にもわかる言葉でお伝えします。
📖 この記事でわかること
- 低栄養とはどういう状態か(「痩せている」だけじゃない)
- 回復期病棟に低栄養患者が多い理由
- 低栄養のままリハビリを続けると何が起きるか
- 国際的な評価基準「GLIM基準」の読み方
- 現場で気づける低栄養のサイン
- チームで取り組む栄養管理の実際
低栄養とはどういう状態か?「痩せ」だけでは判断できない
「低栄養」と聞くと、ガリガリに痩せ細った状態を想像する方が多いかもしれません。でも医学的には、見た目とは関係なく低栄養になっていることがよくあります。
低栄養とは、「身体が必要とするエネルギーやたんぱく質などの栄養素が不足し、身体の機能や組成(筋肉量・脂肪量など)に悪影響が出ている状態」のことをいいます[3]。
⚠️ 見落としがちなポイント
高齢者ではBMI(体格指数)が正常範囲内でも、体重がほとんど変わっていなくても、骨格筋量(筋肉の量)が著しく低下しているケースが非常に多く存在します。外見からの判断が難しいのが低栄養の特徴です[2]。
低栄養が身体に引き起こすこと
栄養が不足した身体は、エネルギーを補うために筋肉のたんぱく質を分解し始めます。これが積み重なると、次のような問題が起きてきます[2]。
- 💪 筋力の低下
- 🚶 歩行能力の低下
- 😓 疲れやすくなる(易疲労性)
- 🏠 日常生活動作(ADL)の低下
- ⚠️ 転倒・骨折のリスク増加
- 🦠 感染症にかかりやすくなる
- 🩹 床ずれ(褥瘡)が治りにくくなる
これらはすべて、リハビリの進行そのものを妨げる要因になります。
回復期リハビリ病棟の患者さんの約半数が低栄養——これは特別な話ではない
回復期病棟患者の
低栄養率(複数研究より)
高齢者リハビリ施設での
低栄養率(MNA分類)
回復期でリハビリ中に
低栄養状態にある
Nishioka らの研究(2015年)では、日本の9つのリハビリテーション病院に入院した230名の高齢患者を対象に調査した結果、GNRI(高齢者栄養リスク指数)で43.5%が低栄養と診断されました[1]。さらに、若林(2011年)の報告では高齢者リハビリ施設での低栄養率は50.5%にのぼり、一般病院(38.7%)より有意に高いことが示されています[2]。
これは「特別な患者さんだけの話」ではなく、日常的に存在する問題です。
なぜ低栄養になりやすいのか:4つの背景
🦴 骨折患者(高リスク)[4]
- 大腿骨近位部骨折後に低栄養リスクが上昇
- 術後の侵襲と痛みによる食欲低下
- 安静期間中の急速な筋萎縮
- 低栄養はADL改善・在宅復帰率に影響
🧠 脳卒中患者(高リスク)[5]
- 嚥下障害(飲み込みにくさ)による摂取量低下
- 麻痺で食事動作が困難
- 高次脳機能障害・抑うつの影響
- 麻痺側の急速な筋萎縮(脳卒中後サルコペニア)
👴 高齢者全般(背景リスク)
- 入院前からのフレイル・サルコペニア
- 義歯の不具合・噛む力の低下
- 食欲低下・味覚の変化
🔄 入院環境による悪化
- 動かないと食欲も落ちる
- 炎症・手術により筋肉が分解されやすい
- 病院食の摂取量が上がらない
「悪循環」に陥りやすい
低栄養の「悪循環」サイクル
低下
→
低下
→
不足
→
低下
↩
このサイクルが繰り返されることで低栄養が急速に進行する
「低栄養のままリハビリを頑張る」ことの危険性
ここがこの記事で最もお伝えしたいポイントです。
「動けば良くなる」——これはリハビリの大原則ですが、栄養が足りていない状態での過剰な運動は、逆効果になる場合があります。若林(2011年)はこの考え方を「No nutrition care, no rehabilitation(栄養ケアなくしてリハビリなし)」という言葉で表現しています[2]。
⚠️ 重要:低栄養状態での過剰なリハビリのリスク
低栄養状態では、運動によって消費するエネルギーが、食事で摂れるエネルギーを上回ることがあります。その場合、身体はさらに筋肉のたんぱく質を分解してエネルギーを補おうとします。結果として、リハビリを頑張れば頑張るほど筋肉が減っていくという逆説的な状態が起こりえます[2]。
現場で気づけるサイン:こんな状態が続いていたら要注意
- リハビリ後に極端な疲労を訴える
- 歩行練習のあとに食事の量が減っている
- 運動しているのに筋力が増えない・むしろ落ちている
- 体重が少しずつ減り続けている
- 以前より休憩の回数が増えた
- 「最近疲れやすい」「やる気が出ない」という発言が増えた
📝 現場のエピソード(筆者の実体験)
数年前、脳梗塞後のリハビリを受けていた70代の患者さんがいました。本人はとても意欲的で、毎日積極的にリハビリに参加していましたが、2週間経っても歩行距離がほとんど伸びませんでした。
不思議に思って管理栄養士と情報共有したところ、食事摂取量が必要量の60%程度にとどまっていることが判明。リハビリ後の疲労感が強く、夕食をほとんど食べられていなかったのです。
栄養補助食品の導入と、リハビリ後の休息時間の調整を行ったところ、1週間ほどで歩行距離が伸び始めました。「栄養評価なしにリハビリ介入はありえない」——このことを強く実感した経験です。
このように、リハビリの負荷量は筋力だけでなく「患者さんが運動に耐えられる栄養状態にあるか」を踏まえて設定することが非常に重要です。
低栄養の評価基準「GLIM基準」とは?
現在、低栄養の診断にはGLIM(Global Leadership Initiative on Malnutrition)基準という国際的な診断基準が広く使われています。2019年にJensen・Cederholmらによって発表されたコンセンサスレポートで、「表現型基準」と「病因基準」を組み合わせて診断を行います[3]。
📏 表現型基準(身体の状態)
🔍 病因基準(原因となる病態)
💡 診断の考え方:「表現型基準を1つ以上」+「病因基準を1つ以上」満たすことで低栄養と診断します。つまり、どれくらい食べられているか・筋肉量は減っていないか・炎症は残っていないか——を総合的に評価することが大切です[3]。
⚠️ 「アルブミン値(Alb)だけで判断」は危険
血液検査の「アルブミン(Alb)」は栄養の指標として有名ですが、炎症や脱水の影響を強く受けるため、Albだけで栄養状態を判断することは適切ではありません。「Albが正常範囲だから問題ない」という判断は、低栄養を見逃すリスクがあります。GLIM基準では体重・筋量・摂取量・炎症を組み合わせて評価することが推奨されています[3]。
療法士こそ低栄養の「最初のサイン」に気づける
栄養管理というと「管理栄養士の仕事」というイメージがあるかもしれません。もちろん管理栄養士が中心的な役割を担います。でも回復期病棟では、毎日患者さんとリハビリを通じて関わる療法士だからこそ気づける変化があります[5]。
- 患者さんと長い時間を過ごすので、小さな変化に気づきやすい
- 歩いているときの疲れ方を直接観察できる
- 「最近食欲がなくて…」という会話が自然に生まれる
- 日々の体力・活動量の変化をリアルタイムで把握できる
こうした情報を管理栄養士・看護師・医師と共有することが、早期介入につながります。
療法士が意識して観察すべき5つのポイント
🍽️
食事摂取量の変化
「今日の食事はどうでしたか?」——この一言で患者さんの摂取量を把握できます。リハビリ後に食欲が落ちていないかも確認しましょう。
😓
疲労感・体力の変化
「最近疲れやすい」「リハビリが終わるとぐったりする」という変化は、エネルギー不足のサインかもしれません。
🚶
歩行距離・運動能力の変化
同じメニューなのに歩行距離が伸びない、休憩が増えた——これは栄養不足が運動能力の向上を妨げているサインである可能性があります。
⚖️
体重・浮腫の変化
体重が少しずつ減り続けている、または逆に浮腫(むくみ)が出ている場合も、栄養状態の悪化を示すことがあります。
💬
本人の発言・気分の変化
「何となくやる気が出ない」「食べる気がしない」——こうした言葉が増えてきたら、栄養面だけでなく心理・精神面の評価とあわせて対応を検討しましょう。
✅ ポイント
こうした小さな変化が、低栄養悪化の早期サインであることが少なくありません。気になることがあれば、すぐに管理栄養士や医師に共有することが大切です。「報告しすぎ」ということはありません。
栄養管理はチームで取り組むもの——当院の実践例
🏥
医師
低栄養の診断・GLIM評価・医学的判断(経管栄養・輸液など)
🥗
管理栄養士
必要エネルギー・たんぱく量の算出・食事内容の調整・補助食品の提案
🦺
理学・作業
療法士
日々の変化を最も観察できる職種。活動量・疲労・体力変化を把握し多職種へ共有
👩⚕️
看護師
毎日の食事摂取量記録・バイタル管理・患者さんの訴えの聴取
当院ではNST(栄養サポートチーム)が全患者に体組成評価(骨格筋量・除脂肪量・体水分量)を実施し、必要エネルギー量とたんぱく量を算出しています。その結果をもとに、多職種でリハビリ内容を調整しています[5]。
具体的な取り組み例:
- 食事摂取量が低下している患者さん → 運動負荷を一時的に軽減
- 疲労が強い患者さん → 有酸素運動の時間を短縮し、休息を確保
- 栄養補助食品を導入した後 → 体力回復を確認してから運動量を再調整
- 体重減少が続く場合 → NSTへの相談と介入強化
よくある質問(Q&A)
Q. 低栄養かどうかは自分で気づけるものですか?
体重が急に落ちてきた、疲れやすくなった、食欲がなかなか戻らないなど、「何か変だな」と感じる変化があれば早めに医師や栄養士に相談することをお勧めします。特に高齢者は自覚がないまま低栄養が進むことも多いため、ご家族からの観察も大切です。
Q. リハビリ中は何をどれくらい食べればいいですか?
必要なエネルギー量やたんぱく質量は、体重・年齢・活動量・疾患の状態によって大きく異なります。一般的なガイドラインでは、高齢者のたんぱく質摂取量として体重1kgあたり1.0〜1.5g/日が目安とされることが多いですが、具体的な量は担当の管理栄養士や医師に相談してください。自己判断での食事制限や増量は控えることをお勧めします。
まとめ:栄養評価なしに、リハビリ介入はありえない
- ✓ 回復期病棟の患者さんの43〜67%が低栄養状態にある(複数研究)
- ✓ 低栄養は「見た目の痩せ」では判断できない。骨格筋量の評価が重要
- ✓ 骨折・脳卒中患者は特に低栄養リスクが高い
- ✓ 低栄養状態での過剰なリハビリは筋肉分解を助長し、逆効果になりうる
- ✓ GLIM基準(2019)を参考に、食事摂取量・体重・筋量・炎症を総合評価する
- ✓ Alb(アルブミン)単独での評価は不十分。多角的な視点が必要
- ✓ 療法士は低栄養の早期サインを最も見つけやすい立場にある
- ✓ 「どれだけリハビリをしたか」ではなく「運動に耐えられる栄養状態か」の評価が不可欠
回復期リハビリテーション病棟では、「栄養療法と運動療法は一体」という視点が欠かせません。
患者さん・ご家族の方へ:食欲が落ちている、体重が減ってきた、リハビリ後にやたら疲れる——そうした変化に気づいたら、ぜひ担当の療法士や看護師に遠慮なく伝えてください。その一言が、より良いリハビリにつながります。
📚 参考文献
- Nishioka S, Takayama M, Watanabe M, et al. Prevalence of malnutrition in convalescent rehabilitation wards in Japan and correlation of malnutrition with ADL and discharge outcome in elderly stroke patients.
Japanese Journal of Parenteral and Enteral Nutrition(日本静脈経腸栄養学会雑誌).
2015;30(5):1145-1151.
Prevalence of malnutrition in convalescent rehabilitation wards in Japan and correlation of malnutrition with ADL and discharge outcome in elderly stroke patientsAccess full-text academic articles: J-STAGE is an online platform for Japanese academic journals. - 若林秀隆. リハビリテーションと臨床栄養(Rehabilitation and Clinical Nutrition).
日本リハビリテーション医学会誌(The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine).
2011;48(4):270-281.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrmc/48/4/48_4_270/_pdf - Jensen GL, Cederholm T, Correia MITD, et al. GLIM Criteria for the Diagnosis of Malnutrition: A Consensus Report From the Global Clinical Nutrition Community.
Journal of Parenteral and Enteral Nutrition.
2019;43(1):32-40. DOI: 10.1002/jpen.1440
/ PubMed: PMID 30175461 - 大腿骨近位部骨折患者の入院時栄養評価と日常生活動作の改善および自宅復帰率との関連性.
作業療法研究(Journal of Occupational Therapy Research).
2022;41(6):676.
大腿骨近位部骨折患者の入院時栄養評価と日常生活動作の改善および自宅復帰率との関連性J-STAGE - 若林秀隆. Rehabilitation nutrition care in convalescent rehabilitation(回復期のリハビリテーション栄養ケア).
CiNii Research.
回復期のリハビリテーション栄養管理 | CiNii Research回復期のリハビリテーションを行う高齢者には、脳卒中、大腿骨近位部骨折、廃用症候群が挙げられ、いずれの疾患においても低栄養とサルコペニアが好発する。さらに、低栄養とサルコペニアはともにリハビリテーションの転帰に悪影響を与える。つまり、回復期リ...
※ 本記事中の引用番号(例:[1])は上記の参考文献に対応しています。数値・統計データはいずれも原著論文に基づくものですが、引用の解釈は筆者によるものです。最新情報は各原著をご確認ください。
【免責事項】本記事は筆者の経験・知識および掲載の参考文献をもとに、一般的な情報提供を目的として作成しています。特定の疾患の診断・治療方針を示すものではありません。個別の症状・栄養状態についての評価・対応は、必ず担当の医師・管理栄養士・療法士等の専門家にご相談ください。



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