とっち|理学療法士
🏥 回復期リハビリテーション病院 勤務18年目
🧠 脳卒中認定理学療法士
🫁 3学会合同呼吸療法認定士
📝 学会発表・論文投稿経験あり
毎日、膝の痛みを抱える入院患者さんのリハビリに携わっています。「膝が痛くて何もできない」という声に、現場目線でお答えします。
「膝が痛いから筋トレは無理」――そう思ってる方、正直けっこう多いんですよね。リハ室でも毎日のように聞きます。
ちょっと聞いてみたいんですが、「膝に触れない=何もできない」って思っていませんか?
実はこれ、18年間リハビリの現場にいて、ずっと感じてきた誤解でして。膝の周りには、膝そのものをほぼ動かさなくても鍛えられる筋肉がいくつもあります。お尻の横、ふくらはぎ、太ももの裏……そういった筋肉を地道に鍛えていくと、膝への負担が減って、結果的に痛みが和らぐことがあるんです。
教科書に書いてあることというより、患者さんと一緒に積み重ねてきた実感として、そう思っています。
膝痛があっても鍛えられる筋肉とは?
理学療法士が教える”膝を守る”筋トレ完全ガイド
公開日:2025年 | 著者:とっち(理学療法士)
「膝が痛いから筋トレはできない」――そう思っていませんか?
実は膝に直接負担をかけなくても鍛えられる筋肉はたくさんあります。しかも、それらを鍛えることで膝の痛みが和らぐ可能性があるのです。
回復期リハ病院で18年間、膝痛や変形性膝関節症の患者さんと向き合ってきた理学療法士として、エビデンスと現場経験の両面からわかりやすく解説します。
📋 この記事の目次
- なぜ「膝痛でも筋トレが必要」なのか
- 膝に負担をかけずに鍛えられる5つの筋肉
- 各筋肉の具体的なトレーニング方法
- やってはいけない動作・注意点
- Q&A
- 自宅トレーニングにおすすめのアイテム
- まとめ
① なぜ「膝痛でも筋トレが必要」なのか
膝の痛みがあると、「安静にしていれば治る」と考えがちです。しかし現在の整形外科・リハビリのガイドラインでは、適切な運動療法が変形性膝関節症(膝OA)の保存的治療として強く推奨されています※1。
膝関節を支える筋肉が衰えると、軟骨や靭帯への負担が増大し、痛みや変形が進行しやすくなります。筋肉は”天然のサポーター”。鍛えることで膝を内外から安定させることができます。
重要なのは、「膝関節を直接曲げ伸ばしする運動」だけが筋トレではないという点です。お尻・股関節まわり・ふくらはぎなど、膝から離れた部位を鍛えることで間接的に膝を守ることができます。
② 膝に負担をかけずに鍛えられる5つの筋肉
以下の5つの筋肉は、膝関節に過度なストレスをかけずにトレーニングできるうえ、膝の安定性や痛み軽減に直接的・間接的に貢献します。
🦵 ① 中殿筋(ちゅうでんきん)
場所:お尻の横(腰骨の外側)
役割:片脚立ちや歩行時に骨盤・膝を安定させる”縁の下の力持ち”
中殿筋が弱いと、歩行時に膝が内側に入る(ニーイン)現象が起きやすくなり、膝への側方ストレスが増大します。系統的レビューでは、股関節外転筋の強化が膝OAの疼痛・機能改善に寄与することが報告されています※2。膝を曲げ伸ばしする動作がほぼ不要で、寝たまま・立ったまま鍛えられる優秀な筋肉です。
🍑 ② 大殿筋(だいでんきん)
場所:お尻全体
役割:股関節を伸ばす・歩行の推進力・膝を”後ろ”から支える
大殿筋が機能することで、歩行中の膝前部にかかるストレスが分散されます。「股関節と膝周囲の両方を鍛えるほうが、膝単独の強化より痛みと活動性の改善に優れる」というメタ分析の結果も報告されています※3。ブリッジ運動は膝をほとんど曲げずに行えるため安心感があります。
🏃 ③ ハムストリングス(大腿二頭筋・半腱様筋・半膜様筋)
場所:太ももの裏側
役割:膝関節の前後安定・立ち上がり動作のサポート
大腿四頭筋(太もも前)とハムストリングス(太もも後ろ)の筋力バランスが崩れると、膝関節への異常なストレスが生じます。立ち上がり時の痛みがある方では、ハムストリングスを鍛えることで症状が改善するケースが現場でもみられます※4。腹臥位(うつ伏せ)での膝屈曲運動で安全に鍛えられます。
👣 ④ 下腿三頭筋(かたいさんとうきん)/ふくらはぎ
場所:ふくらはぎ(腓腹筋・ヒラメ筋)
役割:歩行時の蹴り出し・転倒予防・下肢の血行促進
ふくらはぎは「第二の心臓」とも呼ばれ、静脈血のポンプ機能を担います。カーフレイズ(踵上げ)は立った状態で膝をほぼ曲げずに実施でき、膝OAの方でも取り組みやすいトレーニングです。転倒予防の観点からも重要な筋肉で、日本の変形性膝関節症診療ガイドライン2023でも下肢全体の筋力強化が推奨されています※1。
🧱 ⑤ 体幹(腹横筋・多裂筋などのインナーマッスル)
場所:お腹・腰まわりの深部筋
役割:全身の土台・歩行バランスの安定・膝への代償的負担を減らす
体幹が弱いと重心がぶれやすく、歩行のたびに膝へのストレスが増加します。ドローイン(腹部を引き込む呼吸練習)やダイアゴナル(四つ這いで対角の手足を上げる運動)は、膝関節への直接負担がほとんどなく実施できます。
📊 5つの筋肉と膝への影響まとめ
| 筋肉名 | 部位 | 膝への効果 | 難易度 |
|---|---|---|---|
| 中殿筋 | お尻の横 | 歩行時の膝の横ぶれ防止 | ★☆☆ |
| 大殿筋 | お尻全体 | 膝前部ストレスの分散 | ★☆☆ |
| ハムストリングス | 太もも裏 | 膝の前後安定・立ち上がり補助 | ★★☆ |
| 下腿三頭筋 | ふくらはぎ | 歩行推進力・転倒予防 | ★☆☆ |
| 体幹インナー | 腹部・腰部深部 | 重心安定・膝への間接ストレス軽減 | ★☆☆ |
③ 各筋肉の具体的なトレーニング方法
🦵 中殿筋|サイドライイング・ヒップアブダクション(横向き脚上げ)
やり方
- 横向きに寝て、下の足を軽く曲げて安定させる
- 上の足をまっすぐ伸ばし、ゆっくり30〜40cm上げる(つま先を少し下に向けると中殿筋が強調される)
- 3秒キープ→ゆっくり下ろす
- 左右10〜15回×2〜3セット
💡 慣れてきたら足首に重り(アンクルウェイト)を巻いて負荷を増やすとより効果的です

🍑 大殿筋|ヒップリフト(ブリッジ運動)
やり方
- 仰向けに寝て両膝を軽く立てる(膝の角度は90度未満で痛みのない範囲に調整)
- お腹に力を入れ、お尻をゆっくり持ち上げる(肩〜膝が一直線になるまで)
- 3秒キープ→ゆっくり下ろす
- 10〜15回×2〜3セット
⚠️ 膝が痛む場合は脚を少し伸ばし気味にして試してみてください。ヨガマットの上で行うと床の硬さが和らぎます

🏃 ハムストリングス|プローン・ヒールカール(うつ伏せ膝屈曲)
やり方
- うつ伏せになり、両手は顔の下か体側に置く
- 片方の膝をゆっくり曲げ、かかとをお尻に近づける(90度程度まで)
- 3秒キープ→ゆっくり下ろす
- 左右10〜15回×2〜3セット
💡 トレーニングチューブを足首に巻くと適度な抵抗が加えられます

👣 下腿三頭筋|カーフレイズ(踵上げ)
やり方
- 椅子の背やカウンターに軽く手を添えて立つ
- かかとをゆっくり持ち上げ、つま先立ちになる
- 2〜3秒キープ→ゆっくり下ろす
- 15〜20回×2〜3セット
💡 座ったまま行う「シーテッドカーフレイズ」でも効果があります。膝が痛い方は座位で試してみましょう
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🧱 体幹インナー|ドローイン+ダイアゴナル
【ドローイン】
-
- 仰向けに寝て膝を立てる
- 鼻からゆっくり息を吸いながら、おへそを背骨に向けて引き込む
- その状態で10〜20秒、呼吸を続ける
- 10回×2セット

【ダイアゴナル(四つ這い対角上げ)】
- 四つ這いになり、体幹を安定させる
- 右手と左足をゆっくり水平に上げ、3秒キープ
- 左右交互に10回×2セット

🏥 現場エピソード|「膝が痛くて動けない」から変わった患者さん
「膝が痛いなら、膝だけ鍛えればいい。」
そう思われる方は少なくありません。
しかし、回復期リハビリ病棟で患者さんと関わる中で、必ずしもそうとは限らない場面を何度も経験してきました。
ある70代の女性は、変形性膝関節症による強い膝痛があり、入院当初の疼痛はNRS8/10、10m歩行には20秒以上を要していました。5回立ち上がりテストも24秒で、「膝が痛いから動きたくない」と話されていました。
膝を曲げ伸ばしする運動には抵抗があったため、まずは仰向けでのブリッジ運動と、横向きでの股関節外転運動から開始しました。膝への負担が少ない運動だったこともあり、「これなら続けられる」と前向きに取り組んでくださいました。
その後も無理のない範囲で運動を継続した結果、約3週間後には疼痛はNRS8/10から4/10まで軽減。10m歩行は20秒以上から14秒へ、5回立ち上がりテストも24秒から17秒まで改善しました。
院内では手すりを使いながら自立して歩けるようになり、
「前より膝を気にせず歩けるようになった。」
と笑顔で話してくださったことが印象に残っています。
もちろん、この改善は股関節の運動だけによるものではなく、歩行練習や日々の活動量の増加など、リハビリ全体の積み重ねによる結果です。
それでも、この患者さんを通して改めて感じたのは、「膝が痛い=膝ばかり鍛える」ではないということでした。
股関節周囲や体幹の筋力を高めることで膝への負担が軽減し、結果として痛みや歩行能力の改善につながることを、私は臨床で何度も経験しています。
痛みがある部位だけを見るのではなく、その周囲の筋肉や動きにも目を向けることが、改善への近道になることは少なくありません。
※プライバシー保護のため、症例内容は一部変更・再構成しています。
⚠️ 失敗談|「頑張ってくれてる患者さん」を追い込んでしまった話
18年目になってもまだやらかすことがあります。去年の秋のことです。
担当していた75歳の男性患者さんは、変形性膝関節症と軽度のサルコペニアが重なっていて、入院から2週間でブリッジも横向き脚上げもずいぶん安定してきていました。「調子いいですよ、先生」と毎回笑顔で言ってくれるので、こちらも少し欲が出てしまいました。アンクルウェイト500gを追加してもいいかな、と。
翌日、リハ室に来たその方の顔色が明らかにちがいました。「昨日の夜から膝の外側がズキズキして……」。触ると腸脛靭帯のあたりに熱感。中殿筋の横向き脚上げで、股関節外側へのテンションが想定以上にかかっていたようでした。膝痛があるから膝はそっとしていたのに、周辺筋への過負荷という形で炎症を起こしてしまったのです。
患者さんに謝ると、「でも先生が毎日来てくれてるから頑張れてるんですよ」と言ってくれました。その一言が余計に刺さりました。信頼に応えようとして、逆に負担をかけてしまった。
膝に負担をかけない運動だからといって、「安全」と「なんでもあり」は別の話です。増量するタイミングは、患者さんの笑顔ではなく、動作の質と翌日の状態で判断する——改めてそう思い直した出来事でした。
④ やってはいけない動作・注意点
⚠️ 膝痛のある方が避けるべき動作・状況
- 膝が腫れている・熱をもっているとき:急性炎症が生じているサインです。運動は控えて医療機関を受診してください
- 深いスクワット(膝90度以上の屈曲):膝関節内圧が急激に高まり、軟骨ダメージが増大するリスクがあります
- 痛みをこらえて行うすべての運動:「少し張る」程度は問題ありませんが、鋭い痛みは要注意サインです
- いきなり高負荷・高回数から始める:筋肉・腱への過負荷は炎症を招きます。必ず低負荷・低回数から始めましょう
大切な原則は、「痛みが増強しない範囲で継続する」こと。痛みのスケール(0〜10のNRS)で運動中・後に5以上になる場合は負荷を落とすか、専門家に相談することを強くお勧めします。
⑤ よくある質問(Q&A)
- 日本整形外科学会・日本変形性関節症学会(編).変形性膝関節症診療ガイドライン2023.南江堂,2023.
- Thomas DT, et al. Hip abductor strengthening in patients diagnosed with knee osteoarthritis – a systematic review and meta-analysis. BMC Musculoskelet Disord. 2022;23(1):622.
- Willy RW, et al. Hip and Knee Strengthening Is More Effective Than Knee Strengthening Alone for Reducing Pain and Improving Activity in Individuals With Patellofemoral Pain: A Systematic Review With Meta-analysis. J Orthop Sports Phys Ther. 2019;49(9):672-685.
- Mahmoud WS, et al. Radiological and clinical outcomes of concurrent hamstring stretching with quadriceps strengthening in patients with knee osteoarthritis: a randomized clinical trial. Isokinetics and Exercise Science. 2023;31(2):137-147. doi:10.3233/IES-220056
- Liao CD, et al. The Effect of Resistance Training on the Rehabilitation of Elderly Patients with Sarcopenia: A Meta-Analysis. Int J Environ Res Public Health. 2022;19(23):15491. doi:10.3390/ijerph192315491
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