SERIES #63 | 運動器・介護予防
ロコモって何?
理学療法士が教える
「動ける身体」を守るための知識
〜 4,590万人が当てはまるかもしれない”見えない危機”を正しく知る 〜
4,590万人——この数字、初めて聞いたとき正直「え、そんなに?」ってなりました。日本の成人人口の、ほぼ半分ですよ。「ロコモ」って言葉、最近よく聞くようになりましたが、実際にどれだけの人が当てはまるのか、ちゃんと知ってる人って意外と少ないんですよね。
病棟でも「ロコモって何ですか?」って聞かれることが今でもあります。リハビリが必要になってから知る、というパターンがほとんどで、それがずっと気になっていました。
ロコモは「高齢者が突然なるもの」じゃなくて、40代くらいからじわじわ進んでいくものなんです。気づきにくいから厄介で。だからこそ、症状が出る前に「ロコモってこういうことか」とイメージをつかんでおくことが大事だと思っています。この記事では、そのあたりをできるだけ分かりやすく書きました。
この記事を書いた人
とっち|理学療法士
🏥 回復期リハビリ病院勤務18年目
🎓 脳卒中認定理学療法士 / 3学会合同呼吸療法認定士
📝 学会発表・論文投稿経験あり
💻 ブログ「リハビリと身体のケアラボ」運営
「最近、階段が少しつらくなってきた」「つまずくことが増えた気がする」「長く歩くのが億劫になった」……そんな変化、もしかしたら ロコモティブシンドローム(ロコモ) のサインかもしれません。
ロコモは”急に来る”ものではなく、気づかないうちに少しずつ進行します。そして気づいたときには、要介護直前——ということも珍しくありません。
この記事では、回復期リハ病棟で18年にわたり患者さんと向き合ってきた理学療法士の視点から、ロコモの正体・判定方法・予防トレーニングまで、できるだけ分かりやすく・でも専門的な深みを持ってお伝えします。
📋 この記事でわかること
- ロコモティブシンドロームとは何か(定義・背景)
- ロコモはなぜ起こるのか(原因とメカニズム)
- ロコモ度1・2・3の違いと自己チェック法
- フレイル・サルコペニアとの違い
- 理学療法士が教える「ロコトレ」の正しいやり方
- 日常生活でできるロコモ予防の習慣
- 病院・クリニックに行くべきサイン
🦴 ロコモティブシンドロームとは?

ロコモティブシンドローム(Locomotive Syndrome)とは、骨・関節・筋肉・椎間板・神経などの「運動器」が障害を受けることで、立つ・歩くなどの 移動機能が低下した状態 を指します。2007年に日本整形外科学会が提唱した概念で、日本語では「運動器症候群」とも呼ばれます[1]。
💡 「ロコモティブ」は「移動の」という意味。 英語で列車のことを “locomotive”(ロコモティブ)と言いますが、これは「動かす=loco」「場所=motive」が語源。つまり「身体を動かして移動する能力が損なわれた状態」がロコモです。
日本整形外科学会の調査によれば、ロコモ度1以上(ロコモの疑いあり)と判定される人は全国で約4,590万人と推計されています[1]。これは日本の成人人口の約半数近くに相当する数字であり、高齢化が進む日本において、もっとも重要な健康課題の一つです。
推計(ロコモ度テスト調査より)
4,590万人
ロコモ度1以上と判定されると推計される日本人の数[1]
🔍 ロコモはなぜ起こるのか?原因とメカニズム
ロコモを引き起こす原因は大きく2つに分類されます。
① 運動器そのものの疾患
| 部位 | 主な疾患 | 影響 |
|---|---|---|
| 骨 | 骨粗しょう症(推計1,300万人)、椎体骨折 | 転倒で骨折・背中の曲がり・痛み |
| 関節 | 変形性膝関節症(推計2,530万人)、変形性股関節症 | 歩行時痛・関節変形・歩幅縮小 |
| 脊柱 | 変形性腰椎症(推計2,790万人)、脊柱管狭窄症 | 腰痛・下肢しびれ・間欠性跛行 |
| 筋肉 | サルコペニア(加齢性筋肉減少症) | 筋力低下・転倒リスク上昇 |
※推計患者数はROAD研究(Yoshimura N, et al. J Bone Miner Metab. 2009)[2]より
② 加齢による運動器の衰え(機能低下)
明確な疾患がなくても、加齢だけで運動器は少しずつ機能低下します。以下のような変化が複合的に絡み合います。
- 💪
筋量・筋力の低下:30代から始まり、60代以降は年1〜2%ずつ低下するとも言われる - ⚖️
バランス能力の低下:感覚・神経系の老化により転倒しやすくなる - 🦴
骨密度の低下:特に閉経後の女性は急激に低下しやすい - 🧠
中枢神経・反応速度の低下:転倒時の「とっさの対応」が遅くなる - 🚶
活動量の低下による悪循環:痛みや疲れで動かなくなる→さらに衰えるという負のスパイラル
⚠️ ロコモは「高齢者だけの問題」ではありません。 早いケースでは 40代からロコモの兆候が現れることもあり、2025年度からは後期高齢者支援金の制度指標にもロコモ対策が追加されるなど、社会全体の重要課題として位置づけられています[3]。
📊 ロコモ度1・2・3 ── あなたはどの段階?
日本整形外科学会は2020年に、ロコモの重症度を 3段階(ロコモ度1・2・3)で判定する基準を定めています[4]。
筋力・バランス力の低下が始まっている状態
移動機能の低下が始まっているが、日常生活への明らかな支障はまだない段階
移動機能低下が進み、自立生活困難のリスクが高い状態
日常生活に支障が出始め、介護リスクが高まっている段階
移動機能低下により社会参加に支障をきたしている状態
身体的フレイルに相当し、整形外科専門医への受診が推奨される段階
🧪 自分でできる!ロコチェック7項目
日本整形外科学会が公式に提供する 「ロコチェック」 は、7項目のうち 1つでも当てはまればロコモの疑いありとされます[5]。
ロコチェック 7項目(1つでも該当→ロコモの疑い)
- ☑ ① 片脚立ちで靴下がはけない
- ☑ ② 家の中でつまずいたり滑ったりする
- ☑ ③ 階段を上るのに手すりが必要だ
- ☑ ④ 家のやや重い仕事(掃除機かけ・布団の上げ下ろしなど)が困難だ
- ☑ ⑤ 2kgほどの買い物(牛乳パック2本程度)をして持ち帰るのが困難だ
- ☑ ⑥ 15分くらい続けて歩くことができない
- ☑ ⑦ 横断歩道を青信号で渡りきれない
🔄 ロコモ・フレイル・サルコペニアの違いを整理する
この3つの言葉は関連しており、混同されやすいです。理学療法士として明確に説明します。
| 概念 | 定義の中心 | 提唱 | 主なリスク |
|---|---|---|---|
| ロコモ | 運動器の障害による移動機能低下 | 日本整形外科学会 | 転倒・骨折・要介護 |
| フレイル | 身体・精神・社会的な予備能力の低下 | Fried(2001)ら | 要介護・死亡 |
| サルコペニア | 加齢による筋量・筋力・身体機能の低下 | Rosenberg(1989) | 転倒・ADL低下・死亡 |
📌 専門的ポイント:ロコモはフレイルより 人生の早い段階から始まる と言われています。ロコモが進行し、身体能力の低下が顕著になったものが身体的フレイルに相当します。つまり「ロコモ→(進行)→身体的フレイル」という流れで捉えると理解しやすいです[6]。サルコペニアはロコモを引き起こす最大の要因の一つです。
🏥 理学療法士の現場から:「まさか自分が」という患者さんたち
── とっちの現場エピソード
老化は、ある日突然始まるわけではありません。
昨日より少し歩くのが遅くなる。
階段を使うのが面倒になる。
重い荷物を持つのを避けるようになる。
そんな小さな変化が積み重なり、気づかないうちに身体は少しずつ衰えていきます。
回復期リハビリ病棟には、転倒による大腿骨近位部骨折や脊椎圧迫骨折で入院される方が数多くいらっしゃいます。
患者さんにお話を伺うと、「最近は歩くのが遅くなっていた」「階段はできるだけ使わないようにしていた」と振り返られることが少なくありません。
以前担当した70代の女性も、その一人でした。
玄関のわずかな段差につまずき、そのまま転倒して骨折。退院前に当時のことを振り返りながら、
「まさか自分がこんな状態だったとは思っていませんでした。」
と静かに話してくださいました。
さらに印象に残っているのは、
「転びそうになったのに、とっさに手が出なかった。」
という言葉です。
筋力だけではありません。
バランス反応や素早く身体を立て直す力も、少しずつ低下していたのかもしれません。
もちろん、転倒には段差や履物、体調などさまざまな要因が関係します。
しかし18年間、回復期リハビリの現場で患者さんと向き合ってきて感じるのは、転倒の前には小さなサインが隠れていることが多いということです。
歩く速度が少し遅くなった。
外出する機会が減った。
階段を避けるようになった。
もし思い当たることがあるなら、それは身体からの大切なメッセージかもしれません。
「自分はまだ大丈夫。」
その思い込みこそが、ロコモティブシンドローム(運動器症候群)を見逃す原因になることがあります。
だから私は、転倒してから身体を鍛えるのではなく、転倒する前に身体の変化へ気づくことが何より大切だと考えています。
未来の自分のために、今日の一歩を大切にしてほしい。
18年間の臨床を通して、そう強く感じています。
※プライバシー保護のため、症例内容は一部変更・再構成しています。
── とっちの現場エピソード(18年目のリアル)
冬の話だ。11月の末、外来リハビリを担当していた68歳の男性Aさんが、「今日はちょっと足が重くて」と言いながらリハビリ室に入ってきた。確か先週も同じことを言っていた。
ロコモ度テストの結果はロコモ度1。でも所見を見ると、開眼片脚立ちが左右とも12秒程度しか保てない。68歳の平均より明らかに低い数字だった。「週1回リハビリに来てるし大丈夫だろう」と、正直そのとき自分も少し気を抜いていた。
ところが2週間後。奥さんから電話が入った。「夜中にトイレに行こうとして転んで、今朝整形外科に連れて行ったら大腿骨頸部骨折だったんです」と。
……あのバランスデータを見ていたのに、「様子を見ましょう」で終わらせていた。ロコモ度の数字だけを見て、夜中のトイレという生活の場面まで想像できていなかった。心底、悔しかった。
ロコモの怖さは、「テストの数字」と「実際の生活リスク」のギャップにある。18年やっていても、こういう後悔が積み重なる。だから自分は「もっと早く知ってほしい」と思いながら書いている。
🏋️ ロコトレ:理学療法士が解説する正しいやり方
ロコモ予防・改善のための運動として、日本整形外科学会(ロコモチャレンジ!推進協議会)が推奨しているのが 「ロコトレ(ロコモーショントレーニング)」 です。基本はたった2種類の運動ですが、正しいフォームで継続することが重要です[7]。
💡 ロコトレプラス:さらに効果を高めたい方へ
| 種目 | 主な効果 | 回数目安 |
|---|---|---|
| ヒールレイズ | ふくらはぎ(腓腹筋・ヒラメ筋)強化、静脈還流促進 | 10〜20回 × 3セット |
| フロントランジ | 下肢柔軟性・筋力・バランス向上 | 左右10回 × 2セット |
| 腹筋運動(ドローイン含む) | 体幹安定性向上、腰痛予防 | 5〜10秒保持 × 10回 |
| ウォーキング | 全身の持久力・心肺機能改善 | 1日30分(分割でも可) |
🩺 理学療法士からのワンポイント:ロコトレは「量より継続」が鉄則です。毎日2〜3セット続けることで、少しずつ運動器の機能が改善されます。また、運動に加えて たんぱく質(体重1kgあたり1.0〜1.2g/日) の十分な摂取が筋力維持に不可欠です。運動だけ、栄養だけでは不十分で、両輪が大切です。
☀️ ロコモ予防のための日常生活習慣
トレーニングだけでなく、日常生活全体を「運動器にやさしく」「活動量が維持できる」ものに整えることが重要です。
🚶
意識的に歩く機会を増やす
エレベーターより階段、車より徒歩を選ぶ小さな積み重ねが、運動器の維持につながります。目標は 1日8,000歩 が一つの目安ですが、今の歩数の+10〜20%増から始めても効果があります。
🥩
毎食「たんぱく質」を意識する
肉・魚・卵・大豆製品・乳製品をバランスよく。高齢になるほど消化・吸収効率が落ちるため、意識的に摂る必要があります。1食あたり20〜30gを目標に。
☀️
日光を浴びてビタミンDを補う
ビタミンDは骨の健康だけでなく、筋力維持にも重要。1日15〜30分の日光浴が推奨されます。日照が少ない冬や、外出機会が少ない方はサプリメントも選択肢の一つです。
🏠
転倒しにくい環境を整える
廊下・玄関・浴室の段差解消、手すりの設置、夜間の足元照明など。転倒予防は「治療」ではなく「環境整備」から始まります。
👟
靴選びにこだわる
滑りにくいソール・かかとがしっかりした靴は転倒予防に直結。サンダルやスリッパでの外出は特に危険です。
❓ よくある質問(Q&A)
🏥 こんなサインは整形外科へ
次のような症状がある場合は、セルフケアだけでなく医療機関への受診をお勧めします
- 🚨 転倒してから痛みが続く、または激しい
- 🚨 歩いていると片脚や両脚がしびれて休まないと歩けない(間欠性跛行)
- 🚨 急に歩けなくなった、または歩行が著しく不安定になった
- 🚨 背中が急に曲がった・身長が著しく低下した
- 🚨 ロコモチェックで複数項目に該当し、日常生活に支障が出ている
📝 まとめ
この記事のポイントを整理します
- ✅ ロコモは「運動器の障害による移動機能の低下」で、約4,590万人が該当すると推定される
- ✅ ロコモ度1〜3の3段階があり、ロコモ度3は整形外科専門医への受診が推奨される
- ✅ ロコモは高齢者だけでなく40代から始まりうる。早期発見・早期予防が重要
- ✅ ロコトレ(片脚立ち+スクワット)が公式に推奨される予防・改善運動
- ✅ 運動と栄養(特にたんぱく質・ビタミンD)の両輪が予防の基本
- ✅ 日常の転倒リスクを減らす「環境整備」も重要な予防策
ロコモは「気づいたら進んでいた」という性質があります。でも、正しく知って・正しく動き始めることで、進行を遅らせたり、改善したりすることは十分に可能です。この記事が、あなたや大切な人の「動ける身体」を守るきっかけになれば嬉しいです。
📚 参考文献
- 日本整形外科学会, 日本運動器科学会 監修. ロコモティブシンドローム診療ガイド 2021. 文光堂, 2021, p.20.
https://www.joa.or.jp/public/locomo/index.html - Yoshimura N, Muraki S, Oka H, et al. Prevalence of knee osteoarthritis, lumbar spondylosis, and osteoporosis in Japanese men and women: the research on osteoarthritis/osteoporosis against disability study. J Bone Miner Metab. 2009;27(5):620-628. doi:10.1007/s00774-009-0080-8. PMID: 19568689.
- 厚生労働省. 健康日本21(第三次)推進のための説明資料. 厚生科学審議会地域保健健康増進栄養部会, 令和5年5月.
https://www.mhlw.go.jp/content/001426890.pdf - 公益社団法人 日本整形外科学会. ロコモ度を判定する「臨床判断値」に「ロコモ度3」を追加. プレスリリース, 令和2年9月10日.
https://www.joa.or.jp/media/comment/pdf/20200911_clinical_judgment_value.pdf - 公益社団法人 日本整形外科学会 ロコモチャレンジ!推進協議会. ロコチェック(ロコモONLINE公式).
https://locomo-joa.jp/check/lococheck - 公益社団法人 日本整形外科学会 ロコモチャレンジ!推進協議会. ロコモとフレイルの関係(ロコモONLINE公式).
https://locomo-joa.jp/locomo#section05 - 公益社団法人 日本整形外科学会 ロコモチャレンジ!推進協議会. ロコトレ(ロコモーショントレーニング)(ロコモONLINE公式).
https://locomo-joa.jp/check/locotre
⚠️ 免責事項:本記事は一般的な健康情報の提供を目的としており、特定の疾病の診断・治療・予防を意図するものではありません。個々の症状や状態については、必ず医師・理学療法士等の専門家にご相談ください。本記事の情報を参考にした結果に関して、著者および当ブログは責任を負いかねます。
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