SERIES #63 | 運動器・介護予防
ロコモって何?
理学療法士が教える
「動ける身体」を守るための知識
〜 4,590万人が当てはまるかもしれない”見えない危機”を正しく知る 〜
この記事を書いた人
とっち|理学療法士
🏥 回復期リハビリ病院勤務18年目
🎓 脳卒中認定理学療法士 / 3学会合同呼吸療法認定士
📝 学会発表・論文投稿経験あり
💻 ブログ「リハビリと身体のケアラボ」運営
「最近、階段が少しつらくなってきた」「つまずくことが増えた気がする」「長く歩くのが億劫になった」……そんな変化、もしかしたら ロコモティブシンドローム(ロコモ) のサインかもしれません。
ロコモは”急に来る”ものではなく、気づかないうちに少しずつ進行します。そして気づいたときには、要介護直前——ということも珍しくありません。
この記事では、回復期リハ病棟で18年にわたり患者さんと向き合ってきた理学療法士の視点から、ロコモの正体・判定方法・予防トレーニングまで、できるだけ分かりやすく・でも専門的な深みを持ってお伝えします。
📋 この記事でわかること
- ロコモティブシンドロームとは何か(定義・背景)
- ロコモはなぜ起こるのか(原因とメカニズム)
- ロコモ度1・2・3の違いと自己チェック法
- フレイル・サルコペニアとの違い
- 理学療法士が教える「ロコトレ」の正しいやり方
- 日常生活でできるロコモ予防の習慣
- 病院・クリニックに行くべきサイン
🦴 ロコモティブシンドロームとは?
ロコモティブシンドローム(Locomotive Syndrome)とは、骨・関節・筋肉・椎間板・神経などの「運動器」が障害を受けることで、立つ・歩くなどの 移動機能が低下した状態 を指します。2007年に日本整形外科学会が提唱した概念で、日本語では「運動器症候群」とも呼ばれます[1]。
💡 「ロコモティブ」は「移動の」という意味。 英語で列車のことを “locomotive”(ロコモティブ)と言いますが、これは「動かす=loco」「場所=motive」が語源。つまり「身体を動かして移動する能力が損なわれた状態」がロコモです。
日本整形外科学会の調査によれば、ロコモ度1以上(ロコモの疑いあり)と判定される人は全国で約4,590万人と推計されています[1]。これは日本の成人人口の約半数近くに相当する数字であり、高齢化が進む日本において、もっとも重要な健康課題の一つです。
推計(ロコモ度テスト調査より)
4,590万人
ロコモ度1以上と判定されると推計される日本人の数[1]
🔍 ロコモはなぜ起こるのか?原因とメカニズム
ロコモを引き起こす原因は大きく2つに分類されます。
① 運動器そのものの疾患
| 部位 | 主な疾患 | 影響 |
|---|---|---|
| 骨 | 骨粗しょう症(推計1,300万人)、椎体骨折 | 転倒で骨折・背中の曲がり・痛み |
| 関節 | 変形性膝関節症(推計2,530万人)、変形性股関節症 | 歩行時痛・関節変形・歩幅縮小 |
| 脊柱 | 変形性腰椎症(推計2,790万人)、脊柱管狭窄症 | 腰痛・下肢しびれ・間欠性跛行 |
| 筋肉 | サルコペニア(加齢性筋肉減少症) | 筋力低下・転倒リスク上昇 |
※推計患者数はROAD研究(Yoshimura N, et al. J Bone Miner Metab. 2009)[2]より
② 加齢による運動器の衰え(機能低下)
明確な疾患がなくても、加齢だけで運動器は少しずつ機能低下します。以下のような変化が複合的に絡み合います。
- 💪
筋量・筋力の低下:30代から始まり、60代以降は年1〜2%ずつ低下するとも言われる - ⚖️
バランス能力の低下:感覚・神経系の老化により転倒しやすくなる - 🦴
骨密度の低下:特に閉経後の女性は急激に低下しやすい - 🧠
中枢神経・反応速度の低下:転倒時の「とっさの対応」が遅くなる - 🚶
活動量の低下による悪循環:痛みや疲れで動かなくなる→さらに衰えるという負のスパイラル
⚠️ ロコモは「高齢者だけの問題」ではありません。 早いケースでは 40代からロコモの兆候が現れることもあり、2025年度からは後期高齢者支援金の制度指標にもロコモ対策が追加されるなど、社会全体の重要課題として位置づけられています[3]。
📊 ロコモ度1・2・3 ── あなたはどの段階?
日本整形外科学会は2020年に、ロコモの重症度を 3段階(ロコモ度1・2・3)で判定する基準を定めています[4]。
筋力・バランス力の低下が始まっている状態
移動機能の低下が始まっているが、日常生活への明らかな支障はまだない段階
移動機能低下が進み、自立生活困難のリスクが高い状態
日常生活に支障が出始め、介護リスクが高まっている段階
移動機能低下により社会参加に支障をきたしている状態
身体的フレイルに相当し、整形外科専門医への受診が推奨される段階
🧪 自分でできる!ロコチェック7項目
日本整形外科学会が公式に提供する 「ロコチェック」 は、7項目のうち 1つでも当てはまればロコモの疑いありとされます[5]。
ロコチェック 7項目(1つでも該当→ロコモの疑い)
- ☑ ① 片脚立ちで靴下がはけない
- ☑ ② 家の中でつまずいたり滑ったりする
- ☑ ③ 階段を上るのに手すりが必要だ
- ☑ ④ 家のやや重い仕事(掃除機かけ・布団の上げ下ろしなど)が困難だ
- ☑ ⑤ 2kgほどの買い物(牛乳パック2本程度)をして持ち帰るのが困難だ
- ☑ ⑥ 15分くらい続けて歩くことができない
- ☑ ⑦ 横断歩道を青信号で渡りきれない
🔄 ロコモ・フレイル・サルコペニアの違いを整理する
この3つの言葉は関連しており、混同されやすいです。理学療法士として明確に説明します。
| 概念 | 定義の中心 | 提唱 | 主なリスク |
|---|---|---|---|
| ロコモ | 運動器の障害による移動機能低下 | 日本整形外科学会 | 転倒・骨折・要介護 |
| フレイル | 身体・精神・社会的な予備能力の低下 | Fried(2001)ら | 要介護・死亡 |
| サルコペニア | 加齢による筋量・筋力・身体機能の低下 | Rosenberg(1989) | 転倒・ADL低下・死亡 |
📌 専門的ポイント:ロコモはフレイルより 人生の早い段階から始まる と言われています。ロコモが進行し、身体能力の低下が顕著になったものが身体的フレイルに相当します。つまり「ロコモ→(進行)→身体的フレイル」という流れで捉えると理解しやすいです[6]。サルコペニアはロコモを引き起こす最大の要因の一つです。
🏥 理学療法士の現場から:「まさか自分が」という患者さんたち
── とっちの現場エピソード
回復期リハ病棟では、転倒による大腿骨骨折や脊椎骨折で入院してくる方が後を絶ちません。話を聞くと、「最近は少し歩くのが遅くなっていた」「階段が億劫で、ずっと避けていた」という方がほとんどです。
ある70代の女性患者さんは、「まさか自分がそんな状態だとは思っていなかった」とおっしゃっていました。玄関の段差でつまずいた時に、咄嗟に手が出なかった——と。バランス反応の低下こそ、まさにロコモが静かに進行していたサインでした。
「自分はまだ大丈夫」という思い込みが、実は最大のリスクかもしれない。 それを実感する場面が、18年の臨床で数えきれないほどありました。
🏋️ ロコトレ:理学療法士が解説する正しいやり方
ロコモ予防・改善のための運動として、日本整形外科学会(ロコモチャレンジ!推進協議会)が推奨しているのが 「ロコトレ(ロコモーショントレーニング)」 です。基本はたった2種類の運動ですが、正しいフォームで継続することが重要です[7]。
💡 ロコトレプラス:さらに効果を高めたい方へ
| 種目 | 主な効果 | 回数目安 |
|---|---|---|
| ヒールレイズ | ふくらはぎ(腓腹筋・ヒラメ筋)強化、静脈還流促進 | 10〜20回 × 3セット |
| フロントランジ | 下肢柔軟性・筋力・バランス向上 | 左右10回 × 2セット |
| 腹筋運動(ドローイン含む) | 体幹安定性向上、腰痛予防 | 5〜10秒保持 × 10回 |
| ウォーキング | 全身の持久力・心肺機能改善 | 1日30分(分割でも可) |
🩺 理学療法士からのワンポイント:ロコトレは「量より継続」が鉄則です。毎日2〜3セット続けることで、少しずつ運動器の機能が改善されます。また、運動に加えて たんぱく質(体重1kgあたり1.0〜1.2g/日) の十分な摂取が筋力維持に不可欠です。運動だけ、栄養だけでは不十分で、両輪が大切です。
☀️ ロコモ予防のための日常生活習慣
トレーニングだけでなく、日常生活全体を「運動器にやさしく」「活動量が維持できる」ものに整えることが重要です。
🚶
意識的に歩く機会を増やす
エレベーターより階段、車より徒歩を選ぶ小さな積み重ねが、運動器の維持につながります。目標は 1日8,000歩 が一つの目安ですが、今の歩数の+10〜20%増から始めても効果があります。
🥩
毎食「たんぱく質」を意識する
肉・魚・卵・大豆製品・乳製品をバランスよく。高齢になるほど消化・吸収効率が落ちるため、意識的に摂る必要があります。1食あたり20〜30gを目標に。
☀️
日光を浴びてビタミンDを補う
ビタミンDは骨の健康だけでなく、筋力維持にも重要。1日15〜30分の日光浴が推奨されます。日照が少ない冬や、外出機会が少ない方はサプリメントも選択肢の一つです。
🏠
転倒しにくい環境を整える
廊下・玄関・浴室の段差解消、手すりの設置、夜間の足元照明など。転倒予防は「治療」ではなく「環境整備」から始まります。
👟
靴選びにこだわる
滑りにくいソール・かかとがしっかりした靴は転倒予防に直結。サンダルやスリッパでの外出は特に危険です。
❓ よくある質問(Q&A)
🏥 こんなサインは整形外科へ
次のような症状がある場合は、セルフケアだけでなく医療機関への受診をお勧めします
- 🚨 転倒してから痛みが続く、または激しい
- 🚨 歩いていると片脚や両脚がしびれて休まないと歩けない(間欠性跛行)
- 🚨 急に歩けなくなった、または歩行が著しく不安定になった
- 🚨 背中が急に曲がった・身長が著しく低下した
- 🚨 ロコモチェックで複数項目に該当し、日常生活に支障が出ている
🛒 ロコモ予防に役立つアイテム
理学療法士の視点から、ロコモ予防・改善に役立つと考えられる商品をご紹介します。ご自身の状態に合わせてご活用ください。
PICK UP 01
バランスディスク 2個セット(空気入れ付き)
座面に置くだけで体幹・バランス筋を刺激できる定番アイテム。2個セットなので、立位での片脚立ち練習の補助や、椅子に置いてのながらトレーニングにも使えます。空気量を調整することで負荷を変えられ、ロコトレの「片脚立ち」のステップアップ用としても活用しやすい一品です。
PICK UP 02
オムロン 体重体組成計 KRD-608T2-W
体重だけでなく体脂肪率・骨格筋率などを約4秒の自動測定で記録できるモデル。Bluetoothでアプリと連携でき、前回からの増減差も表示されるため、ロコモ予防のための筋肉量モニタリングに最適です。50g単位の高精度測定で、運動・栄養介入の効果を客観的に確認できます。
PICK UP 03
エンジョイプロテイン 700g(森永乳業クリニコ)
乳清たんぱく質とBCAA(バリン・ロイシン・イソロイシン)を配合した栄養機能食品。無味無臭でお味噌汁やお粥など普段の料理に混ぜて使えるため、「プロテインの味が苦手」という高齢の方にも取り入れやすいのが特徴です。介護・栄養補助の現場でも使われている実績があり、現場で働く理学療法士としても安心して紹介できる商品です。
PICK UP 04
シチズン 歩数計 TW310-RD(大文字・見やすいタイプ)
大きな文字表示で見やすく、ストラップ付きでベルトにつけられるシンプル設計。3D加速度センサーで約10万歩まで計測可能、前日メモリー機能で「昨日より歩けたか」が一目で分かります。スマホ操作が苦手な方や高齢の親御さんへのプレゼントにも適した、軽量・コンパクトな1台です。
📝 まとめ
この記事のポイントを整理します
- ✅ ロコモは「運動器の障害による移動機能の低下」で、約4,590万人が該当すると推定される
- ✅ ロコモ度1〜3の3段階があり、ロコモ度3は整形外科専門医への受診が推奨される
- ✅ ロコモは高齢者だけでなく40代から始まりうる。早期発見・早期予防が重要
- ✅ ロコトレ(片脚立ち+スクワット)が公式に推奨される予防・改善運動
- ✅ 運動と栄養(特にたんぱく質・ビタミンD)の両輪が予防の基本
- ✅ 日常の転倒リスクを減らす「環境整備」も重要な予防策
ロコモは「気づいたら進んでいた」という性質があります。でも、正しく知って・正しく動き始めることで、進行を遅らせたり、改善したりすることは十分に可能です。この記事が、あなたや大切な人の「動ける身体」を守るきっかけになれば嬉しいです。
📚 参考文献
- 日本整形外科学会, 日本運動器科学会 監修. ロコモティブシンドローム診療ガイド 2021. 文光堂, 2021, p.20.
- Yoshimura N, et al. Prevalence of knee osteoarthritis, lumbar spondylosis, and osteoporosis in Japanese men and women: the research on osteoarthritis/osteoporosis against disability study. J Bone Miner Metab. 2009;27(5):620-628.
- JMDC STORIES. ロコモティブシンドロームとは?いま保険者が知っておきたい基礎知識. 2025.
- 日本整形外科学会. ロコモティブシンドロームの臨床判断値改訂(ロコモ度3追加). 2020.
- 健康長寿ネット. ロコモティブシンドロームの診断. 2024年2月更新. https://www.tyojyu.or.jp/
- 全国ストップ・ザ・ロコモ協議会. ロコモ度テストと臨床判断値. https://sloc.or.jp/
- 日本整形外科学会 ロコモONLINE. ロコトレ(ロコモーショントレーニング). https://locomo-joa.jp/check/locotre
⚠️ 免責事項:本記事は一般的な健康情報の提供を目的としており、特定の疾病の診断・治療・予防を意図するものではありません。個々の症状や状態については、必ず医師・理学療法士等の専門家にご相談ください。本記事の情報を参考にした結果に関して、著者および当ブログは責任を負いかねます。





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