👤 この記事を書いた人:とっち
回復期リハビリテーション病院に勤務する理学療法士(経験18年)。脳卒中専門理学療法士・3学会合同呼吸療法認定士の資格を保有し、学会発表・論文投稿の経験もあります。日々の臨床現場で、患者さんの「ちょっとした体調変化」に向き合いながら、エビデンスに基づいたリハビリ・健康情報をブログ「リハビリと身体のケアラボ」で発信しています。
ちょっと聞いてほしい数字があるんですが——筋肉の約75〜80%って、実は「水分」でできているんですよね。
これ、初めてちゃんと意識したとき、正直けっこう衝撃でした。「筋肉=タンパク質」というイメージが強くて、水分のことなんてほとんど考えてなかったんです。でも現場で18年やってきて、じわじわと分かってきたのが「水が足りていない患者さんは、なぜかリハビリの伸びが悪い」という現実でして。
検査値に異常があるわけでも、栄養状態が極端に悪いわけでもない。なのに訓練中の踏ん張りが弱い、筋力が戻りにくい。そういうケースを振り返ると、水分摂取が極端に少なかったことが後から見えてくることが、何度もありました。
筋トレの効果って、トレーニングの中身だけじゃなくて「体の環境づくり」が思った以上に大事なんですよね。今回はその中でも見落とされがちな「水分補給」について、現場目線で書いてみます。
筋トレと水分補給|脱水が筋力に与える影響を理学療法士が解説
「筋トレ中は水を飲まない方が集中できる」「のどが渇いてから飲めばいい」——そんな考え方、実は筋力やトレーニング効果にとって大きな損失につながっているかもしれません。
今回は筋トレシリーズの一環として、水分補給と筋力の関係について、最新の研究知見と、回復期リハビリ病院での臨床経験を交えながら解説していきます。
🏥 現場でのエピソード
「なぜ急に歩くのが遅くなったんだろう。」
リハビリを続けている患者さんの歩行能力が少しずつ低下したとき、私たちはその原因を一つずつ探していきます。
以前、回復期病棟で関わった70代の男性患者さんもその一人でした。夏場のリハビリ中、「最近、足の踏み込みに力が入らない」と話されるようになり、10m歩行は入院当初の13秒から、数日かけて16秒まで低下していました。
バイタルサインや採血データ、栄養状態には大きな異常はなく、はじめは原因がはっきりしませんでした。
そこで詳しくお話を伺うと、「トイレが近くなるのが嫌で、水をあまり飲まないようにしている」と打ち明けてくださいました。
看護師や管理栄養士と情報を共有し、水分を摂るタイミングや1日の飲水量を一緒に見直しました。
約1週間後には、「前より足に力が入る気がする」と話されるようになり、10m歩行も14秒まで改善しました。
もちろん、この変化が水分摂取だけによるものとは言い切れません。継続したリハビリや体調の変化など、さまざまな要因が重なった結果と考えられます。
この経験以来、私は夏場に歩行能力や活動量の低下がみられたとき、筋力や栄養状態だけでなく、飲水状況も必ず確認するようにしています。
高齢者では、脱水があっても強い喉の渇きを感じないことがあります。そのため、「なんとなく力が入らない」「疲れやすい」といった変化として現れることも少なくありません。
リハビリでは運動や栄養に目が向きがちですが、水分も身体を動かすための大切な要素です。
「最近、暑くなってから疲れやすい」と感じるときは、水分摂取が十分かどうかを一度振り返ってみることも大切だと、この患者さんから教えていただきました。
※プライバシー保護のため、症例内容は一部変更・再構成しています。
脱水はなぜ筋力に影響するのか

「脱水」と聞くと、熱中症や持久力の低下を思い浮かべる方が多いと思いますが、筋力発揮そのものにも複数のメカニズムで影響を与えることが指摘されています。
① 筋細胞内の水分量とタンパク質合成
筋肉は約75〜80%が水分で構成されています。筋細胞内の水分量が低下すると、筋タンパク質の合成シグナル(mTOR経路)が抑制される可能性があることが示されています[1]。筋トレの効果を最大限に引き出すためには、トレーニング刺激だけでなく、その後の合成プロセスを支える水分環境も重要だと考えられます。
② 血液循環と酸素・栄養の運搬効率
血液の半分以上は血漿(水分)でできており、水分不足は血液の粘度を高めて、筋肉への酸素や栄養素の運搬効率を低下させる可能性があります[1]。筋肉が十分に働くためには、酸素や栄養がスムーズに届くことが前提条件になります。
③ 電解質バランスと筋収縮
ナトリウムやカリウムといった電解質は、筋肉の収縮や神経からの信号伝達に不可欠な役割を担っています[1]。発汗によって水分とともに電解質が失われると、筋肉の収縮効率や反応速度に影響が出ることがあります。「足がつりやすい」と感じる方の中には、水分・電解質バランスの乱れが関係している場合もあります。
| 脱水率(体重比) | 想定される影響 |
|---|---|
| 1%程度 | 自覚的運動強度(しんどさの感覚)がやや上昇しはじめる[2] |
| 2%程度 | 持久的なパフォーマンスの低下が比較的明確に見られやすい[3] |
| 3%以上 | しんどさの感覚にも実質的な影響が出てくる目安とされる[2] |
※筋力やジャンプ力など持久力以外の要素への影響については、持久力ほど明確な線引きができるエビデンスはまだ十分でなく、研究によって見解が分かれている部分があります[3][4]。ただし、「影響がない」という結論ではなく、「個人差や条件によって変わりやすい」という理解が現状では適切です。
😓 18年目で気づいた「思い込み」の話
正直に言うと、私も若い頃は「脱水で筋力が落ちる」ということをそこまで真剣に考えていませんでした。熱中症対策としての水分補給、という感覚が強くて、リハビリ訓練に直結する問題だとは思っていなかったんです。
転機になったのは、経験10年目の秋ごろのことです。担当していた80代の女性患者さん(脳梗塞後、右片麻痺)が、2週間ほどかけて少しずつ歩行が不安定になっていきました。麻痺の悪化でも、筋力低下でも、痛みでもない。訓練量も変えていない。なのに、なんかおかしい、と。
いろいろ確認するうちに、病棟スタッフから「最近ほとんど水分摂れてないんですよね、コップ半分も飲まない日が続いてて」という話が出てきました。尿量も減っていたようで、軽度の脱水が疑われる状態でした。その時点でのIN量は1日500ml前後だったと記録に残っていました。
なぜ飲まなくなったのか本人に聞くと、「飲むとトイレが近くなって、夜中に起きるのが嫌で」とのこと。転倒が怖いから夜間のトイレを減らしたい、という、患者さんなりの理由がちゃんとあったんです。その言葉を聞いた瞬間、「そこまで考えていなかった自分」が恥ずかしくなりました。
水分・排泄・睡眠・転倒リスクをひとまとめで考えて、夜間の飲水タイミングを調整しながら日中の摂取量を確保する方向で、看護師・介護士と相談して動きました。2週間後には歩行の安定性が戻って、本人も「なんか足に力が入るようになった気がする」と言ってくれました。筋トレ以前の問題として、水が足りていなかった。10年目にしてようやく、そのことを体で理解した気がします。
高齢者は脱水になりやすい
特に高齢の方は、以下のような理由から脱水に陥りやすい傾向があります[5]。
- 🔹 体内の水分量そのものが若年者より少ない(体重の約50%)
- 🔹 のどの渇きを感じる機能(口渇中枢の感受性)が低下している
- 🔹 腎臓の水分調節機能が低下している
- 🔹 トイレの回数を気にして、水分摂取を控えてしまう
- 🔹 嚥下機能の低下や食欲低下により、食事からの水分摂取量も減る
筋トレシリーズで取り上げてきたサルコペニア・フレイル予防の観点からも、水分摂取は「筋肉を育てる土台づくり」として欠かせない要素です。筋肉量が減ること自体も、体内に水分を蓄える力の低下につながるため、悪循環に陥りやすい点にも注意が必要です[5]。
筋トレ前後・運動中の水分補給の目安
💧 基本的な水分補給のタイミング
- 運動前:200〜600ml程度を目安に、運動開始前から水分を満たしておく[6]
- 運動中:のどの渇きを感じる前から、こまめに少量ずつ補給する
- 運動後:運動前後の体重減少が2%を超えないことを目安にする[6]
また、1日を通じての水分摂取も重要です。特に高齢の方は、起床時・毎食時・午前と午後の間食時・就寝前など、こまめなタイミングでコップ1杯(約200ml)程度を摂る習慣をつけることが推奨されています[5]。「のどが渇いていなくても飲む」という意識づけが、脱水予防の第一歩になります。
水だけでいい?電解質はどうする?
軽い筋トレや短時間の運動であれば、基本的には水やお茶で十分なケースが多いです。ただし、長時間の運動や、暑い時期で発汗量が多い場合、また高齢者で食事量・水分摂取量が低下している場合などは、電解質(ナトリウム・カリウムなど)を含む飲料が適している場合があります[6][7]。経口補水液は、脱水状態にある方や、発汗・食事摂取不足による脱水リスクが高い方に向いている飲料として位置づけられています[7]。
❓ Q&A:よくある質問
Q1. 筋トレ中はどのくらいの量の水を飲めばいいですか?
A. 明確な「正解の量」は個人差が大きく一概には言えませんが、運動前にコップ1杯程度の水分を摂り、運動中はのどの渇きを感じる前にこまめに少量ずつ補給するのが基本です。トレーニング後は、体重の変化が運動前と比べて2%以上減らないことを一つの目安にすると良いでしょう[6]。持病(心臓・腎臓疾患など)で水分制限がある方は、必ず主治医の指示に従ってください。
Q2. 高齢の家族が水分を摂りたがらない場合、どうすればいいですか?
A. 「のどが渇いていなくても飲む」という習慣づけがポイントです。コップ1杯ずつ、起床時・毎食時・間食時・就寝前など決まったタイミングで飲む習慣にすると無理なく続けやすくなります[5]。また、汁物や果物、ヨーグルトなど、食事から水分を摂れる工夫も効果的です。だるさ・ふらつき・食欲低下などのサインが見られる場合は、早めに医療機関に相談することをおすすめします。
まとめ
- 脱水は筋細胞のタンパク質合成、血流、電解質バランスなど複数の経路で筋力発揮に影響する可能性があります
- 体重比で2%を超える脱水は、特に持久的なパフォーマンスへの影響が指摘されています
- 高齢者は体内水分量の低下・口渇中枢の感受性低下などにより脱水リスクが高くなります
- 「のどが渇く前に飲む」を基本に、運動前後・1日の中でこまめな水分補給を心がけましょう
- 長時間・高強度の運動や高齢者の脱水リスクが高い場面では、電解質を含む飲料の活用も検討を
参考文献
- Judelson DA, Maresh CM, Anderson JM, et al. Hydration and muscular performance: Does fluid balance affect strength, power and high-intensity endurance? Sports Med. 2007;37(10):907-921. doi:10.2165/00007256-200737100-00006
- Deshayes TA, Pancrate T, Goulet EDB. Impact of dehydration on perceived exertion during endurance exercise: A systematic review with meta-analysis. J Exerc Sci Fit. 2022;20(3):224-235. doi:10.1016/j.jesf.2022.03.006
- Goulet EDB. Effect of exercise-induced dehydration on endurance performance: evaluating the impact of exercise protocols on outcomes using a meta-analytic procedure. Br J Sports Med. 2013;47(11):679-686. doi:10.1136/bjsports-2012-090958
- Goulet EDB. Effect of Hypohydration on Muscle Endurance, Strength, Anaerobic Power and Capacity and Vertical Jumping Ability: A Meta-Analysis. Sports Med. 2011. (Judelson et al. 2007 を更新したメタ分析。脱水と筋力・パワーの関連を定量評価)
- 厚生労働省. 健康のための水分補給. 健康長寿ネット. 公益財団法人長寿科学振興財団. https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/rounensei/dassui.html(高齢者の脱水リスク・口渇中枢機能低下に関する解説)
- Sawka MN, Burke LM, Eichner ER, et al.; American College of Sports Medicine. ACSM Position Stand: Exercise and fluid replacement. Med Sci Sports Exerc. 2007;39(2):377-390. doi:10.1249/mss.0b013e31802ca597
- World Health Organization. Oral rehydration salts: production of the new ORS. WHO/FCH/CAH/06.1. Geneva: WHO; 2006. https://www.who.int/publications/i/item/WHO-FCH-CAH-06.1(経口補水液の組成・適応に関するWHO公式文書)
免責事項:本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の治療法・診断・運動処方を推奨するものではありません。持病(心疾患・腎疾患など)をお持ちの方や、水分摂取に関して制限の指示を受けている方は、自己判断で水分量を変更せず、必ず主治医・医療従事者にご相談ください。体調に不安がある場合は、早めに医療機関を受診してください。



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