✍️ この記事を書いた人
とっち|理学療法士 × 回復期リハ病院18年目
🏥 回復期リハビリテーション病院勤務(専門:脳卒中・整形疾患リハビリ)
🎓 脳卒中認定理学療法士 / 3学会合同呼吸療法認定士
📝 学会発表・論文投稿経験あり|臨床の現場から正確な情報を発信しています
正直に言うと、股関節症の患者さんのリハビリって、最初のころは「とにかく筋トレしてもらえばいい」くらいに思っていたんですよね。18年前の自分に言い聞かせたいくらいです。
転機になったのは、入職6年目の秋。THA(人工股関節置換術)術後の50代の女性患者さんを担当していたとき。歩行練習で廊下を1往復20mこなせるようになってきたのに、なぜか退院前の最終評価で10m歩行が思ったより伸びない。不思議に思ってよく動作を見ていたら、ふと気づいたんです。「あれ、この人、骨盤が後ろに倒れながら歩いてる」って。
聞いてみると、術前から10年以上、痛みをかばう歩き方が体に染みついていたみたいで。「こうやって歩いてきたから、もうこれが普通なんです」と静かに言われたとき、ちょっと胸に刺さりました。筋力は戻っていても、動き方のクセがそのまま残っている。筋トレだけじゃ全然足りなかったんだ、と気づいた瞬間でした。
それからは、股関節症のリハビリで「どう歩くか」を最初から伝えるようにしています。術後じゃなくて、もっと前の段階から。この記事を読んで、同じことに気づいてもらえたら嬉しいです。
「脚の付け根がズキズキして、朝の一歩目が怖い」「長く歩くと股関節がだるくなってくる」……そんな悩みを抱えていませんか? それは変形性股関節症(こかんせつしょう)のサインかもしれません。
変形性股関節症は日本国内に推定120万〜510万人いるとされる、決して珍しくない疾患です(日本整形外科学会診療ガイドライン委員会, 2024)。患者の約9割が女性で、40〜50代から症状が現れ始めることが多いのが特徴。でも、正しい知識とセルフケアさえあれば、痛みをコントロールしながら日常生活を維持できる可能性があります。
この記事では、回復期リハビリ病院で18年間、股関節術後の患者さんとも向き合ってきた理学療法士の視点から、病期の見方・進行度・手術の適応・日常のセルフケア・正しい歩き方まで、エビデンスをもとにわかりやすく解説します。
📋 この記事でわかること
- 変形性股関節症とは? 原因と症状
- 病期(進行度)の分類と各ステージの特徴
- 手術の種類と適応のタイミング
- 自宅でできるセルフケア・運動療法
- PTが教える「股関節にやさしい歩き方」
- 日常生活の工夫と注意点
🦴 変形性股関節症とは? 原因と症状を理解しよう
股関節は、骨盤の寛骨臼(かんこつきゅう)と大腿骨の骨頭(こっとう)がはまり合ったボールジョイント構造をしており、私たちが立つ・歩く・座るあらゆる動作の要となっています。
変形性股関節症は、この関節の軟骨がすり減り・変性することで骨同士の摩擦が増え、痛みや可動域制限が生じる疾患です。欧米では肥満による一次性が多いですが、日本では臼蓋形成不全(寛骨臼が浅い)や発育性股関節脱臼の後遺症など「二次性」が全体の約80%を占めるとされています。
⚠️ こんな症状が出たら要注意
- 歩き始めや立ち上がりに脚の付け根(鼠径部)が痛む
- 片脚立ちや階段昇降がつらくなってきた
- 靴下が履きにくい・足の爪が切りづらくなった
- 長く歩くと脚全体がだるく重くなる
- 歩行時にトレンデレンブルグ徴候(骨盤が傾く)が出ている
📊 進行度を知る|4つの病期分類
変形性股関節症は、レントゲン所見をもとに下記の4段階(前股関節症・初期・進行期・末期)に分類されます(日本整形外科学会)。病期によって保存療法と手術療法の選択が変わるため、まず自分がどの段階にいるかを把握することが重要です。
| 病期 | 関節の状態 | 主な症状 | 治療の方向性 |
|---|---|---|---|
| 前股関節症 | 軟骨はほぼ正常。臼蓋形成不全など形態異常のみ | 症状なし〜軽い違和感 | 筋力強化・体重管理・生活指導が中心 |
| 初期股関節症 | 関節裂隙(すき間)が少し狭くなり始める | 歩き始めの痛み・疲労感 | 保存療法。若い場合は骨切り術も検討 |
| 進行期股関節症 | 軟骨の広範な摩耗・骨棘・骨嚢胞が形成 | 痛みが最も強い。歩行困難になることも | 手術療法(THA)が検討される時期 |
| 末期股関節症 | 軟骨がほぼ消失。骨同士が接触 | 日常生活に大きな支障。安静時痛・夜間痛も | THA(人工股関節全置換術)が適応 |
💡 ポイント:痛みが最も強いのは「進行期」で、末期になると骨が安定化して逆に痛みが弱まることがあります。「痛みが急に消えた」からといって安心せず、必ず整形外科を受診してください。
🏥 手術の種類と適応のタイミング
変形性股関節症の手術には大きく2種類あります。年齢・病期・患者さんの希望をもとに整形外科医と相談して決定します。
① 関節温存手術(骨切り術)
自分自身の関節を残しながら、骨の位置関係を変えることで関節への負担を分散・軽減する手術です。前股関節症〜進行期で軟骨が比較的残っており、おおむね40歳代くらいまでの方が適応となります。主な術式には以下があります。
- 棚形成術:寛骨臼のかぶりが浅い部分に骨を継ぎ足し、骨頭の被覆面積を増やす
- 寛骨臼回転骨切り術(RAO):骨盤側の骨を切って回転させ、骨頭全体をしっかりカバーする
- 大腿骨骨切り術:大腿骨側の角度を変えて荷重分散を改善する
関節温存術は骨の癒合(くっつき)に時間がかかるため、入院・リハビリ期間が長くなる傾向があります。ただし、自分の関節を温存できる最大のメリットがあります。
② 人工股関節全置換術(THA)
傷んだ股関節を金属・セラミック・ポリエチレン製の人工関節に置き換える手術です。進行期〜末期、または保存療法で改善しない場合に適応とされます。
✅ THAの手術適応の目安
- 保存療法を続けても痛みで日常生活に大きな支障がある
- 夜間痛・安静時痛が出現している
- 痛みにより活動性が著しく低下している
- X線で進行期〜末期の変形が認められる
近年は人工関節の耐用年数が20年以上に延長しており、若い方でもTHAを選択するケースが増えています。術後のリハビリは非常に重要で、適切なリハビリにより多くの方が術後1〜3か月で日常生活に戻ることができます。
⚠️ 手術時期を逃さないために:進行期になると関節温存手術の適応が狭まります。「まだ我慢できる」と放置しすぎると選択肢が限られてしまいます。痛みや機能低下を感じたら、早めに整形外科を受診することが大切です。
💬 現場からのエピソード
3年くらい前の冬のことで、今でもよく覚えています。THA術後10日目のAさん(67歳・女性)、廊下での歩行練習を1日2回、合計40mほどこなせるようになってきた時期でした。毎日少しずつ表情が柔らかくなっていくのが見ていてわかって、こっちも嬉しかったんですよね。
ある朝のリハビリ中に、「先生、もう痛くないんです。こんなにスパッと消えるとは思いませんでした」と言われて、目に少し涙をためていた。「よかった」と思った半分、「あーでもこれが術後10日目か」という感覚もあった。
でもその直後に「3年、ずっと我慢してたんです。もっと早く来ればよかった」って続いたんです。歩行をよく見ると、健側の膝が外に逃げて、骨盤がドタドタと落ちるパターンが抜けなかった。聞けば10年以上、痛みをかばう歩き方をしてきたという。退院前の評価で「もう少し伸びるかと思ったのに」と首をひねったあの感覚、今ならはっきり言語化できます。筋力は戻っていても、動き方のクセはリハビリでしか治せない。それも、できれば術前から始めないと間に合わないことが多いんですよね。
🏃 自宅でできるセルフケア・運動療法
変形性股関節症診療ガイドライン2024(改訂第3版)でも、運動療法は保存療法の核心であり、疼痛軽減・機能改善のエビデンスが蓄積されています。以下の運動は前股関節症〜初期〜進行期の方に特に有効です。
① 中殿筋トレーニング(横向き脚上げ)
なぜ大事か:中殿筋は片脚立ち時に骨盤を水平に保つ最重要筋。弱化すると歩行時に骨盤が傾き(トレンデレンブルグ)、股関節への偏った負荷が増大します。
方法:横向きに寝て、上の脚を伸ばしたまま30〜45度ほど持ち上げ3秒保持→ゆっくり下ろす。これを左右各10〜15回×2セット。痛みのない範囲で実施。
② 大腿四頭筋トレーニング(膝伸展)
なぜ大事か:歩行時の衝撃吸収に直結する大腿四頭筋を鍛えることで、股関節への圧縮力を軽減します。
方法:椅子に座り、片脚を水平に伸ばして3秒保持→ゆっくり下ろす。10〜15回×2セット。または仰向けで膝の下にタオルを入れ、膝を伸ばす等尺性収縮でも可。
③ 股関節外転ストレッチ
なぜ大事か:股関節周囲の筋肉の柔軟性を保つことで、可動域制限の進行を抑制します。
方法:椅子に座り、片方の足首を反対の膝の上に乗せ、軽く胸を張りながら前傾する。お尻の外側が伸びる感覚を20〜30秒保持。痛みが出る場合は中止。
④ 水中ウォーキング・プール歩行
浮力により股関節への荷重を大幅に軽減しながら有酸素運動・筋力訓練ができるため、変形性股関節症に特に推奨されている運動です。週2〜3回、20〜30分を目標に。
🚫 やってはいけない運動・動作
- ジョギング・ランニングなど衝撃の大きい運動
- 急に止まる・切り返す動作を含むスポーツ
- 和式トイレ・正座など股関節を強く屈曲させる姿勢
- 重い荷物を持ちながら長時間歩く
🚶 PTが教える「股関節にやさしい歩き方」|骨盤前傾で骨頭被覆率を上げる
変形性股関節症、特に臼蓋形成不全を背景に持つ方には、骨盤をやや前傾させた姿勢で歩くことが推奨されています。これは「骨頭被覆率(骨盤の屋根が骨頭をどれだけカバーしているか)」を高め、荷重が一点に集中するのを防ぐためです。
また、京都大学・建内らの研究(Tateuchi et al., Osteoarthritis and Cartilage, 2017)では、1日の歩行中に股関節にかかる「累積負荷モーメント(daily cumulative hip moment)」が大きいほど、12か月後のX線上の関節裂隙狭小化(病気の進行)と有意に関連することが示されています【1】。歩幅や一歩あたりの力学的負荷を見直すことが、疾患の進行を遅らせる可能性のある介入となりえます。
✅ 股関節にやさしい歩き方のポイント
- 骨盤をわずかに前傾させ、お腹を軽く前に出すイメージで姿勢を整える(極端な反り腰にはしない)
- 歩幅は大きくしすぎない。一歩ごとの股関節への衝撃を減らすことが大切
- つま先は正面〜やや外向きに保ち、内旋(内またがち)になる歩行を避ける
- 痛む側と反対の手に杖をつき、股関節への荷重を分散させる
- 靴は底が厚くクッション性の高いものを選ぶ。ヒールクッションの活用も有効
💡 PT目線のコメント:「骨盤前傾で歩く」は一言で言うと「軽く胸を張り、おへそを少し前に出したような姿勢」をイメージするとわかりやすいです。ただし、腰椎を過剰に反らせる必要はありません。股関節のROMや個人の体型によって最適な姿勢は異なるため、理学療法士に個別にみてもらうのが理想です。
🏠 日常生活の工夫と注意点
体重管理
股関節にかかる負荷は体重の5〜6倍とされています。体重が1kg増えると、股関節への負荷は片歩行時に約5〜6kg増えることになります。BMI25以上の方は体重の5〜7.5%の減量でも症状改善に効果があるとエビデンスで示されています。
住環境の整備
🚿 浴室
シャワーチェア設置・手すりの取り付け・浴槽をまたぐ補助グッズ
🪑 座位
座面が高めの椅子を使用(膝より股関節が高くなる高さを避ける)
🛏️ 就寝
床からの立ち上がりは負担大。ベッドを活用し、脚の間にクッションを挟む
温熱療法・痛みのセルフマネジメント
慢性期の股関節痛には温熱療法(ホットパック・入浴)が血流改善・疼痛緩和に有効です(変形性股関節症診療ガイドライン2024)。急性期・炎症が強い時期はアイシングが適切です。痛みが激しい場合は非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)を整形外科で処方してもらいましょう。
❓ よくある疑問 Q&A
Q. 運動するとかえって悪化しませんか?
A. 股関節に過剰な負荷をかける運動(ジョギングなど)は避けるべきですが、適切な強度の運動療法は疼痛軽減・筋力維持に有効であることがエビデンスで示されています。「痛みが翌日も続く運動はやりすぎ」を目安に、水中ウォーキングや低負荷の筋力訓練から始めましょう。
Q. 人工股関節を入れると、どんな運動ができなくなりますか?
A. 近年の手術技術の進歩(前方アプローチなど)により、以前ほど生活制限は厳しくなくなっています。ウォーキング・水泳・自転車・ゴルフなどは推奨されることが多いですが、ジャンプ・急な方向転換・重い荷物を持つなどは避けることが一般的です。担当の整形外科医に具体的な活動制限を確認してください。
📝 まとめ
- 変形性股関節症は前股関節症→初期→進行期→末期の4段階で進行する
- 痛みが最も強いのは進行期。早めに整形外科を受診し手術時期を逃さないことが重要
- 手術には関節温存術(骨切り術)とTHA(人工股関節全置換術)があり、病期・年齢で選択する
- 運動療法(中殿筋・大腿四頭筋強化・水中歩行)は保存療法の柱であり、エビデンスが確立されている
- 骨盤をわずかに前傾させた歩行で骨頭被覆率を高め、荷重の集中を防ぐ
- 体重管理・住環境整備など日常生活全体を見直すことが長期的な痛みコントロールにつながる
📚 参考文献・資料
- Tateuchi H, Koyama Y, Akiyama H, et al. Daily cumulative hip moment is associated with radiographic progression of secondary hip osteoarthritis. Osteoarthritis and Cartilage. 2017;25(8):1291-1298. doi: 10.1016/j.joca.2017.02.796. PMID: 28232145
- 日本整形外科学会診療ガイドライン委員会/変形性股関節症診療ガイドライン策定委員会. 変形性股関節症診療ガイドライン2024(改訂第3版). 南江堂. 2024. ISBN: 9784524213771
- Tateuchi H, Ichihashi N. Gait- and postural-alignment-related prognostic factors for hip and knee osteoarthritis: Toward the prevention of osteoarthritis progression. Journal of Physical Therapy Science. 2019;31(6):469-477. PMC6599758
- 日本整形外科学会. 症状・病気をしらべる「変形性股関節症」. 公益社団法人日本整形外科学会. https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/hip_osteoarthritis.html
- 公益財団法人 長寿科学振興財団 健康長寿ネット. 変形性関節症について. https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/henkeiseikansetsushou/about.html(2024年9月10日更新)
- 日本理学療法士協会. 理学療法ハンドブック シリーズ17 変形性股関節症. 公益社団法人日本理学療法士協会. https://www.japanpt.or.jp/
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