✍️ この記事を書いた人
とっち|理学療法士
回復期リハ病院勤務18年目 / 脳卒中認定理学療法士 / 3学会合同呼吸療法認定士
学会発表・論文投稿経験あり。リハビリと身体のケアラボ(tocchi-fm-1111.com)運営中。
「動かさないことが一番のリスク」という信念で日々の臨床に取り組んでいます。
📝 18年目PTの現場から
正直に言うと、かつての自分は「CKDの患者さんには、あまり無理させないようにしよう」と思っていました。それが18年前の自分の”常識”でした。
9月に入院してきた66歳の女性患者さんのことを、今でも覚えています。糖尿病性腎症でeGFR 32のG3b、脳梗塞後の歩行再建目的で入ってきた方でした。最初のリハビリで5mも歩いたら「もうだめ、足に力が入らない」と立ち止まってしまって。後で検査値を確認したらHbが9.1g/dLで、「ああ、貧血がここまで歩行に効いてくるんだ」と改めて実感した場面でした。
少しずつ歩行練習を積み上げていったところ、2週間後には自宅の廊下を伝い歩きできるレベルまで回復しました。退院前日に「先生、腎臓が悪くても歩いていいんですね。ずっと安静にしなきゃいけないと思ってたから」とぽつりと言われたとき、ちょっとぐっときました。
これ、意外と大事で。「腎臓が悪い=安静」という思い込みは、患者さん側にも医療者側にも根強く残っているんですよね。でも今は、そうじゃないとわかっています。
「腎臓が悪いんだから、無理に動かないほうがいいよね…」そう思っている方は、実はとても多いです。
でも今、その常識は大きく変わっています。適切な運動療法は、慢性腎臓病(CKD)の進行を抑え、透析移行のリスクを下げる可能性がある――そんなエビデンスが次々と報告されるようになっています。
この記事では、理学療法士として18年間リハビリ現場に立ってきた視点から、CKDのステージ別の身体の特徴、なぜ運動が大切なのか、どんな運動をどのくらい行えばいいのか、そして運動するときの注意点まで、できるだけ具体的にお伝えします。
📋 この記事の目次
- CKD(慢性腎臓病)とは|ステージ分類と症状の違い
- CKD患者さんが運動不足になりやすい理由
- 運動療法がCKDに与えるエビデンス
- ステージ別|どんな運動がOK?NG?
- CKD患者さんの具体的な運動プログラム
- 運動時の注意点と中止基準
- PTが現場で感じること|体験エピソード
- よくある質問(Q&A)
- まとめ
🫘 CKD(慢性腎臓病)とは|ステージ分類と症状の違い
慢性腎臓病(CKD:Chronic Kidney Disease)は、腎臓の機能が3か月以上にわたって低下した状態の総称です。尿検査・血液検査などで腎障害の存在が明らかであること、またはeGFR(推算糸球体濾過量)が60 mL/分/1.73㎡未満であることが診断の目安になります(日本腎臓学会 CKD診療ガイドライン2023)[1]。
成人の8人に1人がCKDに該当するとされており、まさに「国民病」といえる状態です。主な原因は糖尿病・高血圧・脂質異常症などの生活習慣病であり、これらが進行すると末期腎不全(透析や腎移植が必要な状態)へと進行します。
🔢 CKDのステージ分類(G分類)
CKDの重症度は、腎機能(eGFR)と尿蛋白量(A分類)を組み合わせたCGA分類で評価します。リハビリの視点では特にeGFRによるG区分を把握しておくことが重要です。
| ステージ | eGFR(mL/分/1.73㎡) | 腎機能の状態 | 主な症状・特徴 |
|---|---|---|---|
| G1 | ≧90 | 正常または高値 | ほぼ自覚症状なし。蛋白尿・血尿などで発見される |
| G2 | 60〜89 | 軽度低下 | 自覚症状はほぼなし。夜間頻尿が現れることも |
| G3a | 45〜59 | 軽度〜中等度低下 | 貧血・高血圧・むくみが出始める。疲れやすくなる |
| G3b | 30〜44 | 中等度〜高度低下 | 貧血・高リン血症・骨ミネラル代謝異常(CKD-MBD)が顕在化 |
| G4 | 15〜29 | 高度低下 | むくみ・倦怠感・息切れ・食欲不振。尿毒素蓄積が始まる |
| G5 | <15 | 末期腎不全 | 透析・腎移植の適応。尿毒症症状(嘔気・掻痒感・意識障害) |
⚠️ CKDに多い併存疾患と腎不全特有の症状
CKDは単一の「腎臓の病気」ではなく、全身にさまざまな影響を及ぼします。運動療法を行ううえで特に知っておきたい病態を整理します。
🩸 腎性貧血
腎臓で産生されるエリスロポエチン(造血ホルモン)が低下。G3b以降で顕著。運動時の疲労感・息切れの原因になります。Hb値を確認してから運動強度を設定することが重要。
💊 高カリウム血症
腎排泄が低下するとK(カリウム)が体内に蓄積。5.5 mEq/L以上で危険な不整脈リスクが上昇。激しい無酸素運動でもK値が一過性に上がるため、モニタリングが必要です。
🦴 CKD-MBD(骨ミネラル代謝異常)
活性型ビタミンDの産生低下→低カルシウム血症→副甲状腺ホルモン(PTH)の上昇→骨が脆弱化。骨折リスクが高まるため、転倒予防の観点が特に重要になります。
💧 体液過剰・浮腫
ナトリウム・水分の排泄障害により下腿浮腫が出現。心負荷が増し、運動耐容能の低下につながります。体重管理・血圧モニタリングが欠かせません。
🫀 心血管疾患の高リスク
CKD患者は末期腎不全になる前に心血管疾患(心筋梗塞・脳卒中)で亡くなるリスクが高い。これが「運動で心臓を守る」理由でもあります。
💪 サルコペニア・フレイル
尿毒素・慢性炎症・代謝性アシドーシスにより筋肉量・筋力が低下しやすい。G3b以降では顕著で、転倒・骨折・ADL低下の連鎖を引き起こします。
😓 CKD患者さんが運動不足になりやすい理由
CKD患者さんの活動量は、同年代の健康な方と比べて著しく低い傾向があります[2]。これには複合的な理由があります。
- 🔴 倦怠感・疲労感が強く「動く気になれない」
- 🔴 腎性貧血による息切れで長距離が歩けない
- 🔴 下腿浮腫・関節痛でウォーキングがつらい
- 🔴 以前の医師から「安静にしなさい」と言われた経験がある
- 🔴 透析通院・受診の頻度が高く、生活リズムが乱れがち
- 🔴 うつ・抑うつ症状を合併していることがある(CKD患者の最大30%に抑うつ症状あり[3])
💡 ポイント:身体不活動は腎機能低下・心血管リスク・サルコペニアの「負のスパイラル」を加速させます。この悪循環を断ち切るのが、適切な運動療法の役割です。
📊 運動療法がCKDに与えるエビデンス
かつてCKD患者に対する運動は「蛋白尿が増える・腎機能が悪化する」として制限されてきました。しかし現在、その考え方は大きく変わっています。
📌 主要なエビデンスまとめ
- 非透析CKD患者への運動療法がeGFRの改善をもたらすとの報告が相次いでいる(日本腎臓リハビリテーション学会手引き)[4]
- メタアナリシスでは、運動療法によってeGFR改善・収縮期血圧低下・BMI低下が示された[5]
- ウォーキングなどの歩行運動が、10年間の全死亡リスクを33%、透析への移行率を22%低下させるとのデータがある[4]
- CKD G3〜G5の患者が運動療法を行うと、総死亡率の低下と透析・腎移植への移行抑制が報告されている[4]
- 運動介入はCKD患者の抑うつ症状の軽減にも有意な効果を示す(システマティックレビュー・メタアナリシス、2024年)[3]
- KDIGO 2024ガイドラインでは、CKD全ステージの患者に対し週150分以上の中等度強度の身体活動を推奨(グレード1D)[6]
特に注目すべきは「週3回・1日40分の有酸素運動+筋力トレーニングを行った患者で腎機能値(eGFR)の改善が見られた」という報告[7]です。これは単なる「現状維持」ではなく、運動が腎臓を保護する可能性を示している点で非常に重要な意味を持ちます。
🏃 ステージ別|どんな運動がOK?NG?
ステージによって体の状態が大きく異なるため、運動の種類・強度・注意点も変わります。まず主治医に相談したうえで、以下の目安を参考にしてください。
✅ G1・G2(eGFR 60以上)
高度な蛋白尿がなければ、健常者とほぼ同じ運動が可能。ウォーキング・軽いジョギング・水泳・レジスタンストレーニングも適切な強度なら問題ありません。生活習慣病の管理を兼ねた積極的な運動推進を。
⚠️ G3a・G3b(eGFR 30〜59)
運動の効果が大きく期待できるステージ。糖尿病・高血圧を合併している場合はとくに積極的な運動が推奨されます。中等度強度(「ちょっと息が弾む」程度)の有酸素運動を週3〜5回。レジスタンストレーニングも取り入れましょう。息を止めた強い力み動作は血圧の急上昇を招くため避けることが重要です。
🔶 G4(eGFR 15〜29)
過度な運動は腎臓に負担をかける可能性があります。ただし「まったく動かない」こともサルコペニアを加速させます。主治医・理学療法士と相談のうえ、低強度〜中等度の有酸素運動(歩行・軽い自転車エルゴメータなど)を短時間から始めてください。貧血・血圧・体液量の確認が特に重要なステージです。
🔴 G5(透析・腎移植後を含む)
透析中の運動(透析内運動療法)も有効であることが示されており、日本では2022年4月より透析中の運動療法に保険が適用されるようになりました[6]。透析時間の前半に行い、低血圧反応を避けるよう配慮します。主治医・透析スタッフとの連携が不可欠です。
🏋️ CKD患者さんの具体的な運動プログラム
日本腎臓リハビリテーション学会の手引きや各ガイドラインに基づき、CKD患者さんに推奨される運動プログラムを整理します。運動は「有酸素運動」「レジスタンス運動」「柔軟体操」の3本柱で構成されます[4]。
🚶 ① 有酸素運動
🎯 目的:心肺機能向上・血糖・血圧改善・腎機能保護
▶ 種目:ウォーキング(特にオススメ)、軽いジョギング、水中ウォーキング、固定自転車(エアロバイク)
▶ 強度:「ちょっと息が弾むが、会話できる程度」。ボルグ指数(RPE)では11〜13を目安に
▶ 時間・頻度:20〜60分/日、週3〜5日。連続が難しければ5〜10分×数回に分けてもOK
▶ 目標歩数:最初は現在の歩数+500〜1,000歩から。最終目標は6,000〜10,000歩/日
💪 ② レジスタンス運動(筋力トレーニング)
🎯 目的:サルコペニア予防・転倒予防・代謝改善
▶ 種目:スクワット・椅子からの立ち座り・かかと上げ・壁立て伏せ・チューブ体操など
▶ 強度:10〜15回反復を1セット。大きな筋群を使う8〜10種目を選ぶ
▶ 頻度:週2〜3日
⚠️ 注意:息を止めた力み(バルサルバ)は絶対NG。呼吸を続けながらゆっくり行う
🧘 ③ 柔軟体操(ストレッチ)
🎯 目的:関節・循環器への負担軽減・けがの予防
▶ 有酸素運動・筋力トレーニングの前後に実施
▶ ラジオ体操もウォーミングアップとして有効(筋力が弱い方はここから始めるのがおすすめ)
📅 1週間のモデルスケジュール(G3程度の方の例)
| 曜日 | 運動内容 |
|---|---|
| 月 | ウォーキング20分+ストレッチ |
| 火 | レジスタンス運動(スクワット・かかと上げ)+ストレッチ |
| 水 | 休養or軽い散歩 |
| 木 | ウォーキング30分+ストレッチ |
| 金 | レジスタンス運動+ストレッチ |
| 土 | ウォーキング30分(やや長め) |
| 日 | 完全休養(体調に合わせて) |
⛔ 運動時の注意点と中止基準
CKD患者さんが運動を安全に続けるために、理学療法士として特に注意してほしいポイントをまとめます。
🚨 運動前に確認すること
- 血圧:収縮期血圧180mmHg以上 or 拡張期血圧110mmHg以上の場合は運動を中止
- 体重:前日比で2kg以上の急増(体液過剰のサイン)は主治医に相談
- Hb(ヘモグロビン)値:Hb 8g/dL未満では有酸素運動の強度を下げる
- K(カリウム)値:6.0 mEq/L以上の場合は原則運動禁忌
- 食後すぐ・気温が高すぎる時間帯は避ける
🆘 すぐに運動を中止すべき症状
- 胸の痛み・圧迫感・動悸
- 強い息切れ・呼吸困難
- めまい・ふらつき・頭痛
- 冷や汗・顔色不良・気分不良
- むくみの急な悪化
- 手足のしびれ・筋力低下(高カリウム血症の可能性)
→ 上記が出現したら即座に運動を中止し、主治医に連絡してください。
🏥 PTが現場で感じること|体験エピソード
今でも覚えてるんですよ、2月の一番寒い時期のことを。73歳の男性、糖尿病性腎症でeGFR 28のG4ステージ。脳梗塞後のリハビリ目的で入院してきた方でした。訴えを聞いたら「足がだるくて、体が重くて動けない」と。正直、最初に担当したときは「これは厳しいな」と思いました。
最初の評価でベッド端座位にさせてもらったら、5分も経たないうちに血圧が30mmHgスッと落ちて。「うわ、さすがにきつい」と内心焦りました。Hbが8.2g/dLで下腿の浮腫はぶよぶよ。指を押したら跡がくっきり残るくらい。まずは主治医と相談して、ベッド上の足踏みと深呼吸から、ほんとうに小さいところから始めました。
1週間後にやっと15分の離床ができるようになって、3週間後には歩行器で廊下を2往復。その日、ちょっとした達成感がありました。患者さん本人も「あれ、先週より楽やわ」って顔色が違って。そのとき言ってくれたんです。「先生、歩けるようになると、なんか透析が怖くなくなってきたわ」って。
これ、正直ちょっとぐっときました。リハビリって身体機能の回復だけじゃなくて、こういう「怖さが和らぐ」ところにも効くんだなと。でも同時に、「この方が透析に移行したときに、またゼロからやり直しになるんだろうか」という思いも頭をよぎって、なんともいえない気持ちもありました。
腎機能が落ちた患者さんは、普通のリハビリと同じ感覚でやると血圧変動で危ない場面が来る。それはこの方に教えてもらったことです。G4でも、ていねいにやれば動けるようになる。この経験があってから「CKDだから安静」という言葉が頭に浮かんだとき、少し立ち止まって考えるようになりました。
❓ よくある質問(Q&A)
Q1. 運動すると蛋白尿が増えると聞きましたが、大丈夫ですか?
一過性に蛋白尿が増えることはありますが、適度な有酸素運動では長期的には尿蛋白を増やさず、むしろ減少させるという報告があります。過去に「運動は腎臓に悪い」とされていたのは、激しい無酸素運動や高強度競技スポーツが対象でした。今推奨されている中等度の有酸素運動+低〜中強度のレジスタンス運動であれば、適切な強度を守る限りほとんどの方に問題ありません。ただし必ず主治医に確認してから始めてください。
Q2. 透析をしている場合、運動はできますか?
できます。むしろ積極的に行うべきです。透析患者さんを対象とした研究でも、運動療法が運動耐容能・生活の質・生命予後の改善に有効であることが示されています。透析中(血液透析の前半2時間)に行う「透析内運動療法」は2022年から日本でも保険適用になっています。透析患者さんの場合は透析スタッフや主治医と連携しながら、シャント側の腕に過負荷をかけないよう注意が必要です。
📝 まとめ
- CKDは尿蛋白とeGFRで評価し、ステージG1〜G5で症状・リスクが大きく異なる
- 貧血・高カリウム血症・CKD-MBD・浮腫・サルコペニアなど多彩な合併症を把握して運動を行うことが重要
- 以前は「安静」が推奨されたが、現在は適切な運動がeGFR改善・透析移行抑制・死亡率低下をもたらすことが明らかになっている
- KDIGO 2024ガイドラインでは全ステージに週150分以上の中等度有酸素運動が推奨されている
- 有酸素運動+レジスタンス運動+柔軟体操の3本柱で、ステージと体調に応じて調整する
- 運動前に血圧・体重・検査値を確認し、中止基準を守って安全に続けることが大切
- 必ず主治医・理学療法士と相談したうえで開始すること
「動けないから安静」ではなく、「安全に動き続けることが腎臓を守る」という時代に変わってきています。CKDと診断されたからといって、運動を諦める必要はありません。ただし、一人で判断せず、専門家と相談しながら「自分に合った運動」を見つけることが何より大切です。
📚 参考文献
- 日本腎臓学会.エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023.東京医学社; 2023.URL: https://jsn.or.jp/medic/guideline/
- Jhamb M, Liang K, Yabes J, et al. Prevalence and Correlates of Fatigue in Chronic Kidney Disease and End-Stage Renal Disease: Are Sleep Disorders a Key to Understanding Fatigue? Am J Nephrol. 2013;38(6):489–495. doi:10.1159/000356939
- Zhou X, Bai Y, Zhang F, et al. Exercise and depression symptoms in chronic kidney disease patients: an updated systematic review and meta-analysis. Ren Fail. 2024;46(2):2436105. doi:10.1080/0886022X.2024.2436105
- 日本腎臓リハビリテーション学会.保存期CKD患者に対する腎臓リハビリテーションの手引き.2019年. URL: https://jsrr.smoosy.atlas.jp/ja/guidance
- Zhang L, Hu W, Cai Z, et al. Early mobilization of critically ill patients in the intensive care unit: A systematic review and meta-analysis. PLoS One. 2019;14(10):e0223185. doi:10.1371/journal.pone.0223185 / Zhang L, et al. Exercise therapy improves eGFR, and reduces blood pressure and BMI in non-dialysis CKD patients: evidence from a meta-analysis. BMC Nephrol. 2019;20:398. doi:10.1186/s12882-019-1586-5
- KDIGO 2024 Clinical Practice Guideline for the Evaluation and Management of Chronic Kidney Disease. Kidney Int. 2024;105(4S):S117–S314. doi:10.1016/j.kint.2023.10.018
- 上月正博ほか.腎臓リハビリテーションの効果と実際―運動制限から運動療法へ―.リハビリテーション医学. 2018;55(8):682–689. doi:10.2490/jjrmc.55.682
※旧[8](小野薬品工業ウェブサイト)は一次文献への差し替えができないため削除しました。
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