認知症の介護で困ること10選|理学療法士が現場から伝える対応のコツ

回復期リハビリの仕事

✍️ この記事を書いた人

とっち(理学療法士)

回復期リハビリテーション病院勤務18年目 / 脳卒中認定理学療法士 / 3学会合同呼吸療法認定士
学会発表・論文投稿経験あり / ブログ「リハビリと身体のケアラボ」運営

認知症の方の介護で困ること|理学療法士が現場から伝えるアドバイス

「同じことを何度も聞かれて、もう限界…」「夜中に起き出してどこかに行こうとする…」「お風呂を嫌がって何日も入れてくれない…」

認知症の方を介護するご家族から、こんな声を毎日のように聞きます。

回復期リハビリテーション病院で18年間、数多くの認知症患者さんとそのご家族に関わってきた理学療法士として、現場で実際に役立った対応法を、できるかぎり具体的にお伝えします。

📌 この記事でわかること

  • 認知症介護でよく起こる「困った場面」とその背景
  • 理学療法士・現場スタッフが実践している具体的な対応策
  • 家族が倒れないための「介護者自身のケア」の考え方
  • 在宅介護を支える制度・サービスの活用方法

📋 目次

  1. 認知症の「中核症状」と「BPSD(周辺症状)」を知る
  2. 困りごと①|何度も同じことを聞いてくる・繰り返し行動
  3. 困りごと②|徘徊・外出して迷子になる
  4. 困りごと③|食事・入浴・着替えを拒否する
  5. 困りごと④|夜間不眠・昼夜逆転
  6. 困りごと⑤|暴言・暴力・興奮状態になる
  7. 困りごと⑥|妄想・幻覚・「物を盗まれた」と言い張る
  8. リハビリの視点から見た認知症ケアのポイント
  9. 介護者自身が倒れないために
  10. 在宅介護を支える制度・相談窓口
  11. よくある質問(Q&A)
  12. まとめ

1. 認知症の「中核症状」と「BPSD(周辺症状)」を知る

認知症の症状は大きく2つに分けられます。この違いを知るだけで、介護の見方がガラッと変わります。

症状の種類 主な症状 特徴
🧠 中核症状 記憶障害・見当識障害・実行機能障害・判断力低下 脳の損傷によって直接起こる。すべての人に共通して現れる
🔥 BPSD(周辺症状) 徘徊・暴言・拒否・妄想・睡眠障害・帰宅願望など 環境・心理・人間関係などが絡んで生じる。個人差が大きい

重要なのは、BPSDは「防げる・和らげられる症状」であるということです。環境を整え、接し方を変えることで、症状が穏やかになるケースは現場でも多く経験しています。

🏥 現場エピソード

作業机に向かうと、その方の表情はいつも穏やかになりました。

回復期病棟で担当した80代の男性です。アルツハイマー型認知症があり、脳梗塞後のリハビリを目的に入院されていました。

リハビリ室へ来るたびに、

「家に帰らなきゃ。」

「仕事があるから帰る。」

と興奮されることが多く、落ち着いてリハビリに取り組むことが難しい日もありました。

ある日、ご家族から若い頃は大工として長年働いていたことを教えていただきました。

そこで、作業台を用意し、木材を並べたり、木工道具を手に取るような動作を取り入れたりと、仕事を思い出せるようなプログラムを試してみることにしました。

すると、それまで「帰る」と繰り返していた方が、作業机に向かうと自然と手を動かし始めました。

真剣な表情で木材を並べ、ときには寸法を測るような仕草も見られます。

リハビリが終わる頃には穏やかな表情に変わり、「今日は仕事が終わったな」と笑顔を見せてくださる日もありました。

もちろん、一つの取り組みだけでBPSDが改善したとは言えません。

環境や体調、その日の気分など、さまざまな要因が影響していたと思います。

それでも、この経験を通して私が強く感じたのは、BPSDだけを見ても、その理由は分からないということでした。

「帰りたい」という言葉の背景には、その人が長年大切にしてきた役割や生活があります。

私はそれ以来、認知症の患者さんを担当するとき、「どんな症状がありますか」だけではなく、「どんな人生を歩んできた方ですか」と、ご家族にお聞きするようになりました。

認知症リハビリで大切なのは、症状を抑えることだけではありません。

その人らしさを引き出し、安心できる時間を増やしていくこと。

この患者さんは、「生活歴を知ること」がリハビリの第一歩なのだと、改めて教えてくださいました。

※プライバシー保護のため、症例内容は一部変更・再構成しています。

2. 困りごと①|何度も同じことを聞いてくる・繰り返し行動

なぜ起こるのか

認知症による短期記憶の障害が原因です。「さっき聞いた」という記憶がないため、本人にとっては毎回が「はじめての質問」です。意地悪で繰り返しているわけではなく、脳が記憶を保持できない状態です。

対応のコツ

  • 毎回、同じトーン・同じ言葉で穏やかに答える(怒ったり、「さっき言った!」と否定しない)
  • 「今日のご飯は何?」と毎回聞くなら、ホワイトボードに書いて見えるところに置く
  • 繰り返しの言動には必ず不安や心配という感情が隠れていることを意識する
  • 「さっき言ったでしょ」は逆効果。本人は傷つき、より不安になる

💡 ポイント:怒りを感じたら「この人は今、不安で怖いんだ」と思い出してみてください。そう考えると、対応がグッと楽になります。

3. 困りごと②|徘徊・外出して迷子になる

なぜ起こるのか

徘徊は「目的のない歩き回り」ではなく、本人には必ず「理由」があります。昔住んでいた家に帰ろうとする、仕事に行こうとする、トイレを探している――などが代表的です。見当識障害(時間・場所・人物が分からなくなる)と帰宅願望が重なると、徘徊リスクが高まります。

対応のコツ

  • 玄関に鍵をダブルロックにするか、センサー付きアラームを設置する
  • GPS端末を携帯品(財布・杖・バッグ)に忍ばせると、位置情報がスマホで確認できる
  • 見守りシール(QRコード付き)を衣類や杖に貼る
  • 行きそうな場所(昔の職場・実家方向など)を把握しておく
  • 近隣の民生委員・コンビニ・警察署に「声かけ協力」をお願いしておく
  • 止めようとするより「一緒に歩く」ほうが安全に落ち着けることが多い

⚠️ 注意:徘徊中に転倒・交通事故・熱中症になるリスクがあります。「まだ大丈夫」と思わず、早めに対策しておくことが重要です。

4. 困りごと③|食事・入浴・着替えを拒否する

なぜ起こるのか

介護拒否には必ず理由があります。主な背景として:

  • 「なぜ知らない人に体を触らせなければいけないのか」というプライドや羞恥心
  • 「入浴が怖い・寒い・痛い」などの身体的な不快感
  • 「食べたくない」ではなく「お腹がまだ空いていない」「飲み込みづらい」など
  • うつ状態・不安感による意欲低下

食事拒否への対応

  • 本人の好きなものから提供する(栄養の偏りより「まず食べること」を優先)
  • 食事環境を整える(テレビを消す、静かな空間にする)
  • 一口サイズに小さくする、手づかみできるおにぎりなど食べやすい形にする
  • 食事の時間をずらす・少量頻回にするなど柔軟に対応する

入浴拒否への対応

  • 「お風呂に入りましょう」ではなく「気持ちよくなりますよ」と体験のメリットを伝える
  • 入浴前に脱衣所・浴室をしっかり温めておく
  • 無理に全身入浴しなくても、足浴・清拭・シャワーで対応する
  • 本人のペース・タイミングを尊重し、「今日はやめておこう」と引くことも大切

💡 ポイント:拒否はコミュニケーションの一形態です。「イヤ」という表現の背景に何があるかを探ることが、解決の第一歩です。

5. 困りごと④|夜間不眠・昼夜逆転

なぜ起こるのか

認知症では脳の「体内時計」(概日リズム)を司る機能が障害されることがあります。また昼間に眠りすぎたり、活動量が少ないと夜眠れなくなります。夜間せん妄(暗がりや夜間の感覚低下による混乱状態)も起こりやすく、介護者の睡眠を著しく妨げます。

非薬物療法が第一選択

薬(睡眠薬・向精神薬)は一時的に効いても持続しにくく、逆に日中の眠気が増して昼夜逆転を悪化させることがあるため、まず生活リズムを整える非薬物的な介入が推奨されています(精神医学2025年)。

  • ☀️ 午前中に自然光を浴びる(窓際に座る、短時間の外出)
  • 🚶 日中の活動量を増やす(デイサービス・散歩・軽体操)
  • 😴 昼寝は午後3時以前・30分以内に制限する
  • 🌙 就寝環境を整える(適温・静かな部屋・常夜灯で真っ暗を避ける)
  • ☕ カフェイン・アルコールは夕方以降控える

⚠️ 夜間不眠が続く場合は、痛み・排尿障害・薬の副作用などが隠れていることも。主治医や担当ケアマネに早めに相談しましょう。

6. 困りごと⑤|暴言・暴力・突然の興奮状態

なぜ起こるのか

暴言・暴力は「悪意」ではなく、不安・恐怖・痛み・混乱を言葉でうまく表現できないために起こる反応です。特に介護やケアの場面(入浴・着替え・移乗など)で「急に体を触られる」「理由なく動かされる」と感じたときに生じやすいです。

対応のコツ

  • 介助前に必ず声かけをしてから触れる(「これから足を拭きますね」など)
  • 興奮しているときはその場を離れ、少し時間をおく
  • 穏やかな声・ゆっくりしたトーンで話しかける(早口・高圧的な態度はNG)
  • 原因を探る(空腹・排泄・痛み・眠れていないなど)
  • 「ユマニチュード」の技法(目を合わせる・笑顔で近づく・立位より座位で接する)が参考になる

🔴 介護者の安全が最優先!暴力が激しい場合は無理に対応せず、その場を離れてください。専門家(ケアマネ・医師)への相談も遠慮なく。

7. 困りごと⑥|妄想・幻覚・「物を盗まれた」と言い張る

よく見られる妄想・幻覚の種類

  • 🔑 物盗られ妄想:「財布を盗まれた」「〇〇さんが持っていった」(特にアルツハイマー型に多い)
  • 👤 幻視:「知らない人がいる」「虫がいる」(レビー小体型に多い)
  • 👫 嫉妬妄想・被害妄想:「浮気している」「殺されそう」など

対応のコツ

  • 「そんなことあるわけない」と否定しない(強く否定すると関係が壊れる)
  • 「それは大変でしたね」と感情に共感する
  • 「一緒に探しましょう」と言って、よく置く場所を一緒に確認する
  • 財布など大事なものの「定位置」を決め、習慣化しておく
  • 幻視がある場合は、明るさ・模様(花柄など)が虫や人影に見えることもあるので環境を見直す

8. リハビリの視点から見た認知症ケアのポイント

理学療法士として、認知症の方のリハビリで大切にしていることをお伝えします。

① 「できること」に注目する

認知症が進んでも、長年の習慣に刻まれた動作(手続き記憶)は残りやすいです。料理・洗い物・折り紙・音楽など、昔得意だったことを日課に取り入れると本人の自己肯定感が上がり、BPSDが落ち着くことがあります。

② 体を動かすことがBPSDを抑える

昼間に活動すること(軽い体操・散歩・デイサービスでのレクリエーション)は、夜間睡眠の改善にも、不穏・不安感の軽減にもつながります。「動くこと」は認知症ケアの非薬物療法の柱の一つです。

③ 安心できる環境を整える

  • 生活動線をシンプルにする(迷わないように)
  • トイレのドアに大きな文字・絵のサインを貼る
  • 日付・時間を書いたホワイトボードを目線の高さに設置する
  • 段差をなくし、転倒リスクを減らす(記事122・123も参照)

④ コミュニケーションの3原則

原則 内容
❌ 否定しない 「違います」「そんなことない」は不安を増やす
✅ 責めない 失敗・忘れ・繰り返しを「また!」と批判しない
💡 急かさない 時間がかかっても待つ。ペースは本人のもの

9. 介護者自身が倒れないために

認知症介護でもっとも危険なのは、介護者の「共倒れ」です。介護うつ・介護燃え尽き症候群(バーンアウト)は珍しくありません。

⚠️ こんなサインが出たら限界のサイン

  • 「消えてしまいたい」「もうどうにでもなれ」という気持ちが続く
  • 介護されている方に対して攻撃的な言葉・行動が出る
  • 眠れない・食べられない日が続く
  • 介護以外の時間が一切ない状態が何週間も続く

ひとりで抱え込まないための具体策

  • 週に数回でもデイサービス・デイケアを利用してひとりの時間を確保する
  • ショートステイ(短期入所)を活用して、まとまった休息をとる
  • ケアマネジャーに「もう限界に近い」と正直に伝える
  • 「認知症の人と家族の会」などのピアサポートを活用する
  • 介護の悩みは電話相談でも聞いてもらえる(📞0120-294-456 公益社団法人認知症の人と家族の会)

10. 在宅介護を支える制度・相談窓口

サービス・制度 内容
地域包括支援センター 介護・医療・福祉の総合相談窓口。まずここに相談
認知症疾患医療センター 認知症の専門的な診断・医療相談
デイサービス・デイケア 日中の活動・社会参加・介護者のレスパイト
ショートステイ 短期間の施設入所。介護者が休める
訪問リハビリ・訪問看護 自宅でリハビリ・医療ケアが受けられる
認知症サポーター制度 地域の見守り・支援体制づくり
若年性認知症コールセンター 📞0800-100-2707(65歳未満の方)

11. よくある質問(Q&A)

Q. 認知症の母が「ここは自分の家じゃない」と毎日言います。どう答えればいいですか?

A. 「ここが家ですよ」と訂正しても、不安が増すだけです。「どんな家に帰りたいの?」「昔のお家はどんなでしたか?」と思い出話に切り替えるのが有効です。過去の記憶は残りやすいため、懐かしい話題は気持ちを落ち着かせます。また、昔の家族写真・なじみのある小物を置くことで「ここは安心できる場所」という感覚を作ることも助けになります。

Q. 認知症の父が暴言を吐きます。理学療法士として、どうすべきか教えてください。

A. 暴言の背景には、多くの場合「痛み・不快・不安・プライドが傷ついた感覚」が隠れています。まず「何に対して怒っているのか」を探ることが大切です。介助のタイミングで起こるなら、声かけや手順を変える。食事・排泄のタイミングなら、そのサインに気づけるよう観察を丁寧にする。また、興奮しているときに正面から向き合うのではなく、少し横にずれて同じ目線で穏やかに話しかけるだけで落ち着くことがあります。

12. まとめ

📝 この記事のポイントまとめ

  • 認知症の困りごとの多くは「BPSD(周辺症状)」であり、環境・接し方を変えることで改善できる
  • 繰り返し・拒否・徘徊・暴言は「悪意」ではなく、不安・恐怖・混乱のサイン
  • 夜間不眠には薬より生活リズムの見直し(昼間の活動・日光浴)が第一選択
  • コミュニケーションの基本は「否定しない・責めない・急かさない」
  • リハビリ的視点では「できること」「好きだったこと」を日課にすることがBPSD予防に有効
  • 介護者自身のケアが最重要。ひとりで抱え込まず、外部サービスを積極活用する

認知症の介護は、正解がひとつとは限りません。でも「なぜこの行動が起きているのか」を一緒に考えることができれば、きっと少し楽になるはずです。

訪問リハビリ・デイケア・地域包括支援センターなど、専門家の力を借りながら、無理しすぎずに続けることが一番大切なことだと、18年の現場経験から強く思います。

📚 参考文献

  1. 厚生労働省「認知症に関する相談について」(2024年)https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000076236_00003.html
  2. 日本老年医学会「認知症のBPSD」老年医学 48(3): 195(2025)
  3. かかりつけ医・認知症サポート医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第3版)日本認知症学会(2025)
  4. 斎藤かおり「Q48 認知症に伴う夜間せん妄や昼夜逆転への対処方法」精神医学 67巻5号(2025年5月)医学書院
  5. 健康長寿ネット「認知症に対する非薬物的療法」公益財団法人長寿科学振興財団
  6. 共生社会の実現を推進するための認知症基本法(2024年1月1日施行)

【免責事項】

本記事は一般的な情報提供を目的としており、医療・介護上の診断や治療方針を示すものではありません。認知症の症状・対応・薬の調整などについては、必ず主治医・担当ケアマネジャー・地域包括支援センターなどの専門家にご相談ください。個々の状況によって適切な対応は異なります。


あわせて読みたい

認知症予防に効果的な食事と生活習慣|理学療法士が最新エビデンスで解説
✍️ この記事を書いた人とっち|理学療法士回復期リハビリテーション病院 勤務18年目 / 🧠 脳卒中認定理学療法士 / 🫁 3学会合同呼吸療法認定士学会発表5回・論文投稿2回の経験を持つ。脳卒中後遺症の患者さんを日々支援するなかで、認知症予...
介護疲れ(燃え尽き症候群)を防ぐ方法|理学療法士が解説するセルフチェックと7つの対策
✍️ この記事を書いた人とっち|回復期リハビリテーション病院勤務18年目の理学療法士。脳卒中認定理学療法士・3学会合同呼吸療法認定士の資格を持ち、学会発表・論文投稿の経験あり。日々の臨床で在宅復帰に向けた患者・家族支援を担当。ブログ「リハビ...

 

この記事を書いた人
理学療法士 18年目
とっち

回復期リハビリテーション病院勤務18年目の理学療法士。
・脳卒中認定理学療法士
・3学会合同呼吸療法認定士
査読付き論文投稿・学会発表経験を活かし、エビデンスに基づいた医療情報を一般の方にもわかりやすく発信しています。

「リハビリと身体のケアラボ」では、身体の痛み・リハビリ・介護保険・健康づくりをわかりやすく解説。より専門的な臨床・エビデンスの深掘りはnoteで発信しています。

▶ note(専門職の方向け):https://note.com/kind_badger1535

とっちをフォローする
回復期リハビリの仕事

コメント