✍️ この記事を書いた人
とっち|理学療法士(PT)・回復期リハビリテーション病院勤務18年目
🏥 脳卒中認定理学療法士/3学会合同呼吸療法認定士
📝 学会発表・論文投稿経験あり|ブログ「リハビリと身体のケアラボ」運営
※本記事は医療・介護の専門的知見をもとに執筆していますが、個別の診断・判断は主治医やケアマネジャーにご相談ください。
🗒️ はじめに|現場で感じたこと
正直に言うと、18年目になっても、認知症の方への対応って「これで正解だった」と思える日のほうが少ないんですよね。
忘れられないのは、5年ほど前の秋のこと。80代のアルツハイマー型認知症の男性患者さんで、MMSE(認知機能検査)のスコアは12点。毎朝リハビリ室に来るたびに「ここはどこですか?帰らせてください」と繰り返していました。
ある日、いつも通り「大丈夫ですよ」と答えようとした瞬間、その方がぽつりと言ったんです。「あんた、毎日同じこと言うな」って。
……ハッとしました。私が「また言っている」と思いながら対応していたのと同じように、その方も「また同じことを言われている」と感じていたのかもしれない。記憶は残らなくても、感情は残るんです。それを頭では知っていたはずなのに、現場では流してしまっていた。教科書に書いてあることと、実際に目の前でその言葉を聞くのは、全然違う話でした。
老老介護・遠距離介護の現実と対策|支援サービスの活用法
「離れて暮らす親が心配だけど、仕事があって頻繁には帰れない」「夫婦でお互いを介護しながら限界に近い」——そんな声を、私が働く回復期リハビリ病棟の退院支援の場でも、毎日のように耳にします。
老老介護や遠距離介護は、今や特別な家庭の話ではありません。高齢社会が深刻化する日本では、誰もが直面しうるリアルな問題です。この記事では、現状データをもとに問題点を整理し、具体的な支援サービスの活用法まで詳しく解説します。
📋 目次
- 老老介護とは?現状と統計データ
- 老老介護が増えている背景
- 老老介護の具体的な問題点とリスク
- 遠距離介護の現実と課題
- 老老介護・遠距離介護の対策と支援サービス活用法
- 遠距離介護で役立つICTツール・見守りグッズ
- 筆者の現場から見えること
- Q&A よくある疑問
- まとめ
1. 老老介護とは?現状と統計データ
老老介護とは、65歳以上の高齢者が同じく高齢者を介護している状況を指します。たとえば「80歳の夫が要介護状態の妻を介護する」「70歳の子が90歳の親を介護する」といったケースが該当します。
📊 最新データ(厚生労働省 2022年 国民生活基礎調査)
- 同居介護者のうち65歳以上同士が63.5%(過去最高)
- 介護者・被介護者ともに75歳以上の後期高齢者が35.7%(過去最高)
- 60歳以上同士に広げると約77%に達する
つまり、在宅で介護をしている家庭の6割以上がすでに「老老介護」状態にあります。2001年の調査では65歳以上同士は40.6%でしたから、約20年で急増していることがわかります。
認認介護とは?
老老介護のなかでも特に深刻なのが「認認介護」です。介護する側・される側の両方が認知症を抱えながら生活している状態で、お互いの判断力が低下しているため、服薬管理ミス・転倒事故・不衛生な生活環境など、重大なリスクが生じやすくなります。
2. 老老介護が増えている背景
なぜここまで老老介護が増えているのでしょうか。主な背景は次の4つです。

① 平均寿命と健康寿命の差
健康寿命と平均寿命の差は男性約8.73年・女性約12.07年(厚労省)。この期間がそのまま「介護を必要とする年数」に相当します。
② 核家族化の進行
子どもが独立・都市部へ転居するケースが増え、高齢の夫婦だけが地元に取り残される状況が一般化しています。
③ 少子化・介護担い手不足
子どもの数が少なく、現役世代が介護を担いにくくなっています。特に一人っ子世帯や子なし世帯では同年代の配偶者が唯一の介護者になりがちです。
④ 施設入所待機問題
特別養護老人ホームなどの入所待機者は依然多く、施設入所を希望しても待機中に老老介護に突入するケースも少なくありません。
3. 老老介護の具体的な問題点とリスク
① 身体的負担と「共倒れ」リスク
高齢者が移乗・入浴・排泄介助などの身体介護をおこなうことは、腰痛・転倒・骨折の原因になります。介護をする側が転倒してケガを負い、介護ができなくなるという「共倒れ」は、老老介護の最も深刻なリスクの一つです。また、介護度が上がるにつれて介護時間も増加し、要介護5では「ほとんど終日介護」の割合が約55%にのぼります。
② 精神的疲弊・うつ・孤立
休みのない介護生活は、介護者のうつ状態や不眠の原因になります。外出機会が減り、社会的孤立が進むことで、精神的なSOSに気づかれにくい状況が生まれます。不眠・食欲不振・無気力・怒りっぽさといった変化が現れたら、限界のサインです。
③ 服薬管理・安全管理のミス
認知機能が低下した介護者が服薬管理をおこなうと、「飲んだかどうか忘れる」「誤った薬を飲ませる」といった事故が起きやすくなります。また火の元の確認忘れや熱中症対策の遅れなど、生活安全面でのリスクも高まります。
⚠️ 限界サインを見逃さないで
- 不眠・早朝覚醒が続いている
- 食欲がなく体重が落ちている
- 外出や人との会話を避けるようになった
- 「もう消えてしまいたい」という言葉が出る
- 被介護者への言葉・態度が荒くなってきた
📝 この記事を書いたきっかけ
去年の秋口のことです。退院前カンファレンスで、遠方から来られた50代の息子さんと話す機会がありました。お父様は83歳で脳梗塞を発症、右片麻痺と軽度の認知症が残った状態での退院でした。自宅では80歳のお母様がひとりで介護を担うことになる、いわゆる老老介護の状況です。
「母も膝が悪くて、正直どこまでできるか……」と、息子さんはうつむきながら言葉を選んでいました。私はそのとき、「週3回のデイサービスと訪問リハを組み合わせれば、1日あたり奥様の直接介護は2〜3時間程度に抑えられますよ」と伝えたんですが、息子さんの顔がパッと変わったのを覚えています。「そんなに減らせるんですか」って。
正直に言うと、18年この仕事をしていて、サービスを知らないまま限界まで抱え込んでいる家族をどれだけ見てきたか……。情報さえあれば、もっと早く楽になれた人がいたはずです。この記事、そういう人に届いてほしくて書きました。
4. 遠距離介護の現実と課題
遠距離介護とは、自分が住む場所と離れた地域に暮らす親などを介護するために定期的に通うスタイルの介護です。たとえば東京在住の子が地方の実家まで月に何度も帰省するケースがこれに当たります。
📊 遠距離介護の実態(2024年調査 / N.K.Cナーシングコアコーポレーション、対象1,003名)
- 約2割が遠距離介護を経験
- 遠距離介護経験者の9割以上が介護に不安や悩みを抱えている
- 8割以上が「職場や家族へ影響を与えている」と回答
- 月3〜4回の訪問が最も多い
- 6割以上が「保険外サービスでも負担が減るなら利用したい」と回答
遠距離介護が抱える3大課題
| 課題 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 💰 経済的負担 | 交通費(新幹線・飛行機)が月数万円になるケースも。帰省のたびに有給を消化し、収入減や仕事への影響が出やすい。 |
| 😔 情報不足・孤立感 | 日常の状態変化に気づきにくい。ケアマネや近隣との関係が薄いと、緊急時に連絡が来ないことも。 |
| ⏰ 緊急対応の難しさ | 転倒・急病発症時にすぐに駆けつけられない。緊急入院になっても数時間後にしか現地に到着できない現実がある。 |
5. 老老介護・遠距離介護の対策と支援サービス活用法
① まず「地域包括支援センター」に相談する
地域包括支援センターは、高齢者に関わる総合的な相談窓口です。全国に5,000ヶ所以上あり、概ね中学校区に1か所の割合で設置されています。介護保険の申請代行・ケアマネジャーの紹介・地域サービスの情報提供など、ワンストップで対応してくれます。
✅ 地域包括支援センターでできること
- 介護保険申請の相談・代行
- ケアマネジャーの紹介・マッチング
- 地域の介護サービス情報の提供
- 高齢者虐待・生活困窮の相談対応
- 介護予防プログラムの案内
📌 遠距離介護の場合は「親が住む地域」の地域包括支援センターに連絡しましょう
② 介護保険サービスをフル活用する
老老介護・遠距離介護において介護保険サービスは最大の味方です。要介護認定を受けることで、以下のサービスを低負担(1〜3割の自己負担)で利用できます。
| サービス種別 | 内容 | 特に有効なシーン |
|---|---|---|
| 訪問介護 | ホームヘルパーが自宅を訪問し、身体介護・生活支援をおこなう | 老老介護で配偶者の負担軽減に |
| 通所介護(デイサービス) | 施設に通い、入浴・食事・機能訓練を受ける | 介護者のレスパイト(休息)確保に |
| 訪問看護 | 看護師・理学療法士等が自宅を訪問し医療的管理・リハビリを提供 | 医療的管理が必要な方の在宅介護に |
| 短期入所(ショートステイ) | 施設に一時的に宿泊・入所し介護を受ける(最大30日/月) | 介護者が急な用事・体調不良の際に |
| 福祉用具貸与 | 介護ベッド・手すり・車椅子などを月額レンタルで利用 | 在宅での安全性向上・介護負担軽減に |
③ 自治体・民間の介護保険外サービスを組み合わせる
介護保険だけでは賄いきれない部分を、自治体サービスや民間サービスで補うことが大切です。
- 🍱 配食サービス:栄養バランスの取れた食事を自宅に届けてくれる。孤立した高齢者の安否確認も兼ねる。
- 🗑 ゴミ出し支援:自治体によっては高齢者向けに戸別収集サービスがある。
- 🚨 緊急通報システム:ボタンを押すと警備会社が駆けつけるシステム。自治体が費用助成する場合も。
- 🏡 家事代行サービス:掃除・洗濯・買い物などを民間ヘルパーが担う。
- ✈️ 航空会社の介護割引:一部の航空会社では、介護を目的とした帰省に割引運賃を提供している。
④ 兄弟姉妹・親族で役割分担を明確にする
介護は一人(一家族)で抱え込むと共倒れになります。兄弟姉妹がいる場合は早い段階で役割分担を文書化しておくことが重要です。「誰が金銭管理をするか」「緊急連絡の連絡先は誰か」「帰省頻度はどうするか」を話し合い、ケアマネジャーにも共有しておきましょう。
⑤ 施設入所・サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)も選択肢に
老老介護や遠距離介護がどうしても限界という場合、施設入所は決して「見捨てる」ことではありません。プロの介護士に任せることで安全性が高まり、家族は「訪問する家族」として穏やかな関係を取り戻せるケースも多いです。サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)は、自立〜軽度の要介護者が生活支援・見守りを受けながら住めるバリアフリー住宅で、入所難易度も比較的低い選択肢です。
6. 遠距離介護で役立つICTツール・見守りグッズ
テクノロジーの活用は、遠距離介護の「情報格差」「緊急対応の遅れ」を大幅に補ってくれます。
📡 活用したいICT・見守りツール
🎥 ① 介護用見守りカメラ(ネットワークカメラ)
スマートフォンからリアルタイムで親の様子を確認できます。パナソニック「スマ@ホーム」や塚本無線「みてるちゃん」などが有名です。双方向通話機能があれば声かけも可能。Wi-Fi不要でSIM内蔵のタイプはネット環境がない実家でもすぐ設置できます。
💊 ② 自動服薬管理器
設定した時間に薬を自動でセット・通知してくれる機器。飲み忘れや過剰服薬を防ぎます。
🔔 ③ 生活見守りセンサー(みまもり電池・スマートホームデバイス)
冷蔵庫・照明など毎日使う家電の使用を感知し、一定時間動きがないと家族にアラートを送ります。カメラより心理的負担が少なく、プライバシーにも配慮できます。
🆘 ④ 緊急通報システム(ALSOKみまもりサポートなど)
緊急時にボタンを押すだけで警備員が駆けつけてくれるサービス。夜間・独居の方に特に有効です。
💡 ICT活用のポイント
- 本人が「見られている」と感じないよう、設置・目的を正直に説明する
- 兄弟が複数いる場合は1つのアプリを共有して情報を一元管理する
- 機器は帰省時に一緒に設定することで、使い方を親にも覚えてもらいやすい
7. 筆者の現場から見えること
「私が頑張れば大丈夫です。」
75歳の奥様は、そう言って笑顔を見せてくださいました。
一方で、別の日にはこんな言葉も聞きました。
「離れて暮らしているので、何かあってもすぐに駆けつけられないんです。」
回復期リハビリ病棟で退院支援をしていると、この二つの悩みに向き合う機会が少なくありません。
ある患者さんは、脳卒中後にリハビリを終えた80歳の男性でした。
介護を担うのは75歳の奥様です。
「施設には入れたくない。」
その思いはとても強く、退院前には腰の痛みをこらえながら、一つひとつ介助方法を熱心に練習されていました。
その姿を見て、ご主人への深い愛情を感じる一方で、「この介護を一人で続けるのは大変かもしれない」とも感じていました。
そこでケアマネジャーと相談し、退院後は訪問リハビリとデイサービスを組み合わせることを提案しました。
数か月後、奥様は穏やかな表情でこう話してくださいました。
「週に何日かでもお願いできるようになって、自分の時間が持てるようになりました。」
その言葉を聞いて、サービスを利用することは「介護を任せること」ではなく、「介護を続けるための力を残すこと」なのだと改めて感じました。
一方で、遠方に住むご家族から相談を受けることもあります。
「普段は帰れないので、帰省した時だけでも介助の方法を教えてもらえませんか。」
そんな時は、移乗動作や転倒予防、福祉用具の使い方などを一緒に確認し、ご家族にも実際に介助を体験していただくようにしています。
短い時間でも、「これならできそうです」と安心した表情で帰られるご家族を見るたびに、退院支援は患者さんだけに向けたものではないと実感します。
老老介護と遠距離介護。
状況は違っても、共通していることがあります。
それは、「一人で頑張り続ける介護」は長く続きにくいということです。
私は退院前、ご家族へ必ずこうお伝えしています。
「困った時にサービスを使うのではなく、困る前から頼ることも大切ですよ。」
介護サービスは、介護ができなくなった人のためだけにあるものではありません。
介護を続けたいと思うご家族を支えるためのものでもあります。
退院支援とは、患者さんの生活を整えるだけではありません。
その隣で支え続けるご家族が、無理なく笑顔で過ごせる環境を一緒につくること。
それが、私たち回復期リハビリ病棟の役割の一つだと感じています。
※プライバシー保護のため、症例内容は一部変更・再構成しています。
— 理学療法士・とっち(回復期リハ病棟18年目)
8. Q&A よくある疑問
Q. 老老介護を続けるか施設入所に踏み切るか、どう判断すればよいですか?
A. 介護者自身に以下の状態が現れていれば、専門家への相談と施設検討を強くおすすめします。①慢性的な睡眠不足・疲労が続いている、②体重が急激に落ちた、③被介護者への怒りや暴言が増えた、④自分の受診を後回しにし続けている——これらは「限界のサイン」です。地域包括支援センターやケアマネジャーに正直に状況を伝えれば、施設入所やショートステイなど複数の選択肢を一緒に検討してもらえます。「施設=見捨てる」ではなく、「プロに任せて家族としての関係を守る」という視点を持ってください。
Q. 遠距離介護中、親が緊急入院したら何をすればいいですか?
A. まずは冷静に「緊急連絡先リスト」が機能するかどうかが鍵です。事前に①かかりつけ医、②ケアマネジャー、③近所の協力者・民生委員、④自治体の緊急通報窓口の連絡先をメモ・スマホに保存しておきましょう。入院直後は「主治医・病院ソーシャルワーカー(MSW)」と連絡を取り、今後の方針を一緒に考えることが最優先です。遠距離の場合でも、MSWが退院後の在宅サービス調整を代行してくれることが多いため、積極的に活用してください。
9. まとめ
✅ この記事のポイントまとめ
- 同居介護者の63.5%が65歳以上同士という老老介護は社会問題化している
- 老老介護の最大リスクは「共倒れ」——介護者の体力・精神的限界を見逃さない
- 遠距離介護は約2割が経験。経済的・精神的・緊急対応の3つの課題がある
- まず地域包括支援センターに連絡し、介護保険申請・サービス調整を進める
- 訪問介護・デイサービス・ショートステイを組み合わせて介護者の「レスパイト」を確保する
- 見守りカメラ・センサー・緊急通報システムなどのICTツールを積極活用する
- 施設入所は「見捨てる」のではなく「安全な選択肢」の一つとして考える
- 兄弟・親族での役割分担を事前に話し合い、一人に負担が集中しない体制を作る
老老介護・遠距離介護は、確かに大変です。でも、適切な支援サービスをうまく使えば、家族全員が無理せず関わり続けられる環境は作れます。まず「地域包括支援センターへの相談」という一歩を踏み出してみてください。そこから、少しずつ道は開けていきます。
📚 参考文献
- 厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況 Ⅳ介護の状況」
- 厚生労働省「令和4年版 厚生労働白書 ―社会保障を支える人材の確保―」
- 厚生労働省「介護保険における住宅改修」
- N.K.Cナーシングコアコーポレーション合同会社「介護経験者の実態に関する調査」(2024年3月)
- 健康長寿ネット(公益財団法人長寿科学振興財団)「高齢社会の介護問題」
- nippon.com「高齢者が高齢者を介護する時代:老老介護、初の6割超」(2024年)
⚠️ 免責事項
本記事は一般的な介護・支援サービスに関する情報提供を目的としており、特定の個人に対する医療・法律・行政上のアドバイスではありません。実際のサービス利用や介護方針については、担当ケアマネジャー・医師・地域包括支援センターにご相談のうえ、ご自身の判断でご利用ください。本記事の情報は執筆時点のものであり、制度・サービス内容は変更になる場合があります。
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