✍️ この記事を書いた人
とっち|理学療法士(PT)
回復期リハビリテーション病院勤務18年目 / 脳卒中認定理学療法士 / 3学会合同呼吸療法認定士
学会発表・論文投稿経験あり。現場で培った知識をもとに、リハビリ・健康・セルフケア情報を発信しています。
ブログ:リハビリと身体のケアラボ
📝 現場エピソード
去年の秋ごろだったかな。患者さんのご家族が面会に来るたびに、右手首をそっとさすっているのが気になって声をかけてみたんです。
「実は産後からずっと痛くて。でも育児で手が離せないし……病院行くほどでもないかなって」
正直に言うと、最初は「少し休めば治るかな」くらいに思っていたんですよね。でも話を聞くと、産後4ヶ月でほぼ毎日8〜10回の抱っこを繰り返していて、夜間授乳も続いている状態。手首の親指側を押すとビリッとした痛みが走る、典型的なドケルバン病の所見でした。
18年この仕事をやっていると、こういうケースがいかに多いかが分かってきます。「育児中だから仕方ない」「産後はみんなこんなもん」って我慢している人が、本当にたくさんいる。抱っこの姿勢を少し変えてもらって、手首の使い方を説明しただけで、2週間後には「だいぶ楽になりました」って笑顔を見せてくれた。早めに気づいて対処することがどれだけ大事か、改めて感じた出来事でした。
「赤ちゃんが生まれて幸せなのに、なんで身体がこんなにボロボロなんだろう…」
そんなふうに感じているパパ・ママは、決して少なくありません。
抱っこのしすぎで手首が腫れた。授乳後に肩が張って眠れない。おむつ替えのたびに腰が悲鳴を上げる……。育児は、身体にとって想像以上に過酷な「肉体労働」です。
本記事では、回復期リハ病院で18年以上勤務してきた理学療法士の視点から、育児中に起こりやすい身体の不調(腱鞘炎・腰痛・肩こり)の原因と、自宅でできる具体的なセルフケアをわかりやすく解説します。
📋 この記事の目次
😓 育児で身体がボロボロになる理由
育児は「繰り返し」「長時間」「姿勢が固定される」という、身体にとって最悪の3条件が重なります。
🔍 育児で起こりやすい身体への負荷
- 新生児期:1日10回前後の授乳(1回15〜20分)=合計約3時間以上の前傾姿勢
- 抱っこ:平均3〜5kgの赤ちゃんを片側の腕や肩で支え続ける
- おむつ替え:1日6〜10回の腰を曲げる作業の繰り返し
- 寝不足:筋肉の回復時間が十分に取れず、疲労が蓄積する
- ホルモン変化:出産後もリラキシン(関節を緩めるホルモン)の影響が残る
これに加えて、パパの場合は日中の仕事疲れが重なり、帰宅後の抱っこや家事が身体への追い打ちになるケースも少なくありません。
🏥 18年目だから言えること
うちの病棟に来る患者さんの付き添い家族、特に小さい子を持つお母さんから「実は私の手首も……」ってこっそり打ち明けられることが、年に何度もあるんですよね。毎回思うのは、みんな本当に我慢している、ということ。「育児中だから仕方ない」「大げさかな」って自分に言い聞かせながら、半年以上ずっと痛みを抱えてる人もいる。でもそれって、正直もったいないんです。適切なセルフケアで改善できるケースがほとんどだから。子どものために自分の身体を後回しにしない、これが全部の出発点だと私は思っています。
🤲 腱鞘炎|手首・指の痛みの正体と対策
腱鞘炎とはどんな状態?
腱鞘炎(けんしょうえん)とは、腱(筋肉と骨をつなぐひも状の組織)を包む「腱鞘(けんしょう)」というトンネル状の組織に炎症が起きた状態です。育児中に多いのは主に2種類です。
| 種類 | 症状の特徴 | 育児での原因動作 |
|---|---|---|
| ドケルバン病 (狭窄性腱鞘炎) |
手首の親指側の痛み・腫れ・力が入らない | 抱っこで親指を広げて頭を支える動作 |
| ばね指 (弾発指) |
指の根元の痛み・引っかかり感・朝のこわばり | おむつ替え・着替えなど指を繰り返し使う動作 |
なぜ育児中は腱鞘炎になりやすいのか?
ドケルバン病(狭窄性腱鞘炎)は女性に男性の6倍多く発症し、妊娠中・授乳中の女性に特に多いことが研究で報告されています※1。産後の授乳期には、赤ちゃんを抱えながら手首を屈曲・尺屈する動作が繰り返されることで、第1背側コンパートメントの腱と腱鞘に炎症が生じやすくなります。
また韓国の国民健康保険データベースを用いた疫学研究では、妊娠・産後に関連したドケルバン病の発症リスク因子として、初産であること(OR=2.23)、妊娠期間が40週超(OR=5.81)などが確認されています※2。産後は家事や育児で指や手首が酷使され、出産に伴うホルモン変化も腱鞘の浮腫を引き起こす要因になると考えられています。
💡 腱鞘炎を悪化させない抱っこのコツ
抱っこする時は、手で軽く頭を持ち上げたら、次に腕全体に頭と上半身を乗せ、反対の腕を使ってお尻を支えるように抱っこします。なるべく手や手首を使わず、お母さん・お父さんと赤ちゃんの体を密着させると安定します。体全体を使う意識をしましょう。
✅ 腱鞘炎予防・軽減のためのポイント
- 抱っこは「手首」でなく「腕全体・身体全体」で支える意識を持つ
- 授乳クッションを使って腕への負担を分散させる
- 左右の手を均等に使うよう意識する(一側だけに集中させない)
- 痛みが出たら早めにアイシング(15〜20分)で炎症を抑える
- 手首サポーターを活用して過負荷を軽減する
- 痛みが強い・長引く場合は整形外科へ相談する
🤸 手首・指のセルフストレッチ
【手首ストレッチ】痛みのない範囲で行う
- 片手を前に伸ばし、もう一方の手で指先をやさしく手前に引く(手首を伸ばす)
- そのまま10〜15秒キープし、ゆっくり戻す
- 反対方向(手の甲側)にも同様に伸ばす
- 左右それぞれ3回ずつ、1日2〜3セット
⚠️ 痛みが強いときは無理に伸ばさず、整形外科を受診してください

🦴 腰痛|抱っこ・おむつ替えが腰に与えるダメージ
育児中の腰痛、どれだけ多い?
産後の腰痛は非常に多く、産後4ヶ月時点でほぼ半数(30〜50%)が腰痛・骨盤帯痛を持続しているという前向きコホート研究が報告されています※3。また授乳中の女性を対象にした研究では、90.7%が腰背部痛を訴えており、その多くが産後4週以内に発症していることが確認されています※4。
国内の調査でも、妊娠中に腰痛を経験した女性の割合は過半数を超えるとされており、妊娠中の腰痛が産褥期まで遷延・慢性化するリスクも広く報告されています。産後に自然に解消されるとは限らないため、早期からのケアが重要です※5。
育児中の腰痛の主な原因
| 原因 | 詳細 |
|---|---|
| 腹筋・骨盤底筋の低下 | 妊娠・出産でインナーマッスルが弱まり、腰椎を安定させる力が不足する |
| 腰を曲げた前傾姿勢 | おむつ替え・授乳・沐浴・床での抱っこなどで腰を前に曲げる動作が多い |
| 体幹バランスの乱れ | 赤ちゃんを一方の腕・腰で抱き続けることで、左右非対称な負荷がかかる |
| リラキシンの影響 | 産後しばらく骨盤や腰椎周囲の靭帯が緩んだ状態が続く |
| 睡眠不足・疲労蓄積 | 筋肉の修復が追いつかず、腰背部の疲労が慢性化する |
💡 腰を守る日常動作の工夫
🛏️ おむつ替え・沐浴台の高さを見直す
床でのおむつ替えは腰への負担が大きくなります。おむつ替え台や机など、腰をほぼまっすぐに保てる高さの場所を使うことで腰への負荷を大幅に軽減できます。やむを得ず床で行う場合は、正座よりも片膝を立てた姿勢(ランジポジション)のほうが腰への負担が少なくなります。
🤸 腰痛予防に効くセルフエクササイズ
① キャット&カウ(脊椎の柔軟性アップ)
- 四つ這いになり、手は肩の真下、膝は腰の真下に置く
- 息を吸いながら背中を反らせ、おへそを床に近づける(牛のポーズ)
- 息を吐きながら背中を丸め、おへそを天井に引き上げる(猫のポーズ)
- ゆっくり10回繰り返す

② ドローイン(腹横筋の活性化)
- あお向けで膝を立てた姿勢になる
- 息をゆっくり吐きながら、おへそを背骨に近づけるようにお腹をへこませる
- そのまま10秒キープし、ゆっくり戻す
- 10回×1〜2セット。授乳中や休憩中にも実践できる

脊椎を支えるインナーユニット(腹横筋・骨盤底筋群・多裂筋など)を中心とした体幹筋の強化が腰痛改善に効果的です。また、座る姿勢にも注意が必要です。骨盤サポートベルトの活用も有効です。
💆 肩こり|授乳・巻き肩・睡眠不足の連鎖
育児中の肩こりはなぜ起きる?
授乳中の肩・首・上背部の筋骨格系症状は非常に多く、授乳中の女性216人を対象にした研究では、63.9%に頸部痛、62.5%に背部痛、34.3%に肩関節痛が確認されており、多くが産後4週以内に発症していることが報告されています※4。また不適切な授乳姿勢を続けることが、肩・首の筋骨格系症状の主な原因として広く認識されています※6。
赤ちゃんを抱き上げる時、どうしても腕を前に突き出す姿勢になり肩が内側へ巻きやすくなります。この「巻き肩」姿勢が続くと、肩甲骨まわりの筋肉は固まり、首の後ろが引っ張られる状態になります。さらに夜間授乳で睡眠が細切れになると、筋肉の回復が追いつきません。
ストレスと交感神経が肩こりを悪化させる
育児のストレスも、肩こりの原因の一つです。ストレスを感じ続けていると、交感神経の働きが高まり、上部僧帽筋に力が入って肩が上がり、また大胸筋・小胸筋にも力が入って巻き肩になります。すると首や肩への負担が増加し、自律神経のバランスも崩れ、肩まわりの血流が悪化してこりやすくなります。
💡 授乳姿勢を見直すポイント
- 授乳クッションを使う:赤ちゃんを胸の高さまで持ち上げることで、前かがみの角度を減らせます。
- 背もたれに寄りかかる:ソファや椅子の背もたれに背中を預け、腰と背中を支える
- 左右交互に授乳する:一方の肩だけに負担が集中しないよう、左右を意識的に入れ替える
- 赤ちゃんを自分の胸に近づける:自分が前傾みになるのではなく、赤ちゃんを寄せる意識で
🤸 肩こり解消ストレッチ
① 肩甲骨まわし(1日いつでもできる)
- 両手を肩に乗せ、ひじで大きな円を描くようにゆっくり後ろ回し10回
- 前回しも同様に10回
- 肩甲骨が寄ったり離れたりするのを意識する
② 胸を開くストレッチ(巻き肩の改善)
- 両手を後ろで組み、肩甲骨を中央に寄せながら胸を張る
- そのまま10〜15秒キープ
- 5〜10回繰り返す。授乳後・抱っこ後に行うと効果的
③ 首のストレッチ
- 頭をゆっくり右に倒し、右手を頭に軽く添えて10秒キープ
- 左も同様に行う
- 深呼吸しながら行うと、より効果的にリラックスできる
🧘 今日からできるセルフケア体操まとめ
忙しい育児の合間でもできる、5分以内のセルフケアルーティンを紹介します。授乳中・授乳後・赤ちゃんが寝た隙間など、「ながらケア」で実践してみてください。
⏱️ 育児中の5分セルフケアルーティン
🖐️ 手首ストレッチ(各10秒×3回)
腱鞘炎予防・軽減。授乳後に座ったまま実施可能
🐈 キャット&カウ(10回)
腰椎・胸椎の柔軟性アップ。赤ちゃんが機嫌のいい時に実施
🔄 肩甲骨まわし(各10回)
肩こり解消。椅子に座りながらでもOK
🫁 ドローイン(10秒×10回)
体幹・腰痛予防。授乳中や読書中など「ながら」でも実施可能
⚠️ 痛みが強い・じっとしていても痛む・症状が2週間以上続く場合は自己判断せず、整形外科を受診してください。
❓ よくある質問(Q&A)
📝 まとめ
この記事のポイントまとめ
- 育児中の身体の不調(腱鞘炎・腰痛・肩こり)は「繰り返し動作」「固定姿勢」「睡眠不足」「ホルモン変化」が重なって起きる
- 腱鞘炎はドケルバン病(手首親指側)・ばね指が多く、抱っこ動作の改善とサポーターが有効
- 腰痛は産後も30〜50%が持続。インナーマッスル強化とおむつ替えの高さ見直しが重要
- 肩こりは授乳姿勢・巻き肩・睡眠不足が三位一体で悪化させる。授乳クッション活用と肩甲骨ストレッチが効果的
- 5分でできるセルフケアルーティンを育児の隙間に取り入れることで、症状の予防・軽減が期待できる
- 痛みが長引く・強い場合は早めに整形外科を受診する
育児は「自分を後回しにするのが当たり前」という空気があります。でも身体を壊してしまうと、大好きな子どもと全力で向き合えなくなります。セルフケアは「がんばれない自分への言い訳」ではなく、「子どもと長く元気でいるための必要な投資」です。
一人で抱え込まず、パートナーや地域の支援も頼りながら、身体と心の両方を大切に育児期間を乗り越えていきましょう。
📚 参考文献
- Daglan E, Morgan S, Yechezkel M, et al. Risk Factors Associated With de Quervain Tenosynovitis in Postpartum Women. Hand (N Y). 2024;19(4):643-647. doi: 10.1177/15589447221150524. PMC11141414.
Risk Factors Associated With de Quervain Tenosynovitis in Postpartum Women - PMCDe Quervain (DQ) disease is caused by stenosis of the first dorsal compartment containing the abductor pollicis longus a... - Kim DH, Kang JY, Park HJ. Incidence and Risk Factors for Pregnancy-Related de Quervain’s Tenosynovitis in South Korea: A Population-Based Epidemiologic Study. Clin Orthop Surg. 2023;15(1):108-114. doi: 10.4055/cios22209. PMC9880499.
Incidence and Risk Factors for Pregnancy-Related de Quervain’s Tenosynovitis in South Korea: A Population-Based Epidemiologic Study - PMCAlthough pregnant or lactating women have been recognized to be predisposed to de Quervain’s tenosynovitis (DQT), there ... - Tavares P, Barrett J, Hogg-Johnson S, et al. Prevalence of Low Back Pain, Pelvic Girdle Pain, and Combination Pain in a Postpartum Ontario Population. J Obstet Gynaecol Can. 2020;42(4):473-480. doi: 10.1016/j.jogc.2019.08.033. PMID: 31767419.
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https://cir.nii.ac.jp/crid/1390282680550007680 - Aburub A, Darabseh MZ, Alsharman A, et al. Nursing Mothers’ Experiences of Musculoskeletal Pain Attributed to Poor Posture During Breastfeeding: A Mixed Methods Study. Breastfeed Med. 2022;17(11):926-931. doi: 10.1089/bfm.2022.0105. PMID: 36378819.
NCBI - WWW Error Blocked Diagnostic
※削除した文献:旧参考文献7(Panasonic UPLIFEは二次サイトのため削除)、旧参考文献8(ピジョンブログは二次サイトのため削除)
⚠️ 免責事項
本記事は理学療法士の知識と経験に基づいた情報提供を目的としており、医療行為・診断・治療を目的とするものではありません。症状が重い・長引く・悪化する場合は、必ず医療機関(整形外科など)を受診してください。本記事の情報を利用したことによる損害・トラブルについて、当サイト及び著者は責任を負いかねます。



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