✍️ この記事を書いた人
とっち|理学療法士(PT)歴18年目・回復期リハビリテーション病院勤務
🏥 脳卒中認定理学療法士 / 3学会合同呼吸療法認定士
📝 学会発表・論文投稿経験あり|ブログ「リハビリと身体のケアラボ」運営
退院準備に毎日かかわる現場PTとして、実際の経験をもとに書いています。
📝 読む前に——現場からひとこと
10月の終わり頃、ちょうど病棟が慌ただしくなる時期のことです。担当していた70代の男性が、退院3日前に突然こう言ったんです。「先生、正直まだ怖いわ。家に帰って転んだらどうするんやろって」と。
その方、病棟では10m歩行を18秒まで改善して、階段も手すりなしで昇降できていました。数字だけ見れば十分な回復です。でも、自宅は築40年の古い一軒家で、廊下が90cm幅しかなく、トイレまでの導線に段差が3か所ある。それを僕は退院2週間前まで把握できていなかった。
正直に言うと、焦りました。「なんでもっと早く聞かなかったんだろう」と。あわてて家屋調査を組み直し、ケアマネさんに連絡して工事業者を手配して——なんとか間に合ったけれど、ヒヤッとした経験です。あの表情は今でも忘れられない。だからこそ、この記事では「準備のタイミング」を一番大事にして書きました。
「退院が決まったけど、家に帰れるか不安…」「何を準備すればいいのかわからない」
回復期リハビリ病棟で患者さんや家族からよく聞く言葉です。退院は喜ばしいことである一方、準備が不十分なまま帰ると転倒・再入院・介護負担の増大につながるリスクがあります。
この記事では、回復期リハビリ病棟での退院準備の全体像を、チェックリスト形式でわかりやすく解説します。これを読めば、退院前に何をすべきかが一目でわかります。
📋 目次
- 退院準備は「早めに・チームで」が鉄則
- 退院準備の全体スケジュール
- 【チェックリスト①】介護保険・行政手続き
- 【チェックリスト②】住環境・福祉用具の準備
- 【チェックリスト③】在宅サービスの手配
- 【チェックリスト④】家族の介護技術・知識
- 【チェックリスト⑤】退院前カンファレンス・家屋調査
- 退院直後が最も危険!「生活混乱期」を乗り越えるコツ
- 現場PTが見てきた「在宅復帰成功のカギ」
- よくある質問(Q&A)
- まとめ
1. 退院準備は「早めに・チームで」が鉄則

回復期リハビリ病棟への入院期間は、疾患によって異なりますが最長150日(脳血管疾患の場合)と定められています。しかし実際には平均2〜3か月程度で退院するケースが多く、この期間内に準備を整える必要があります。
退院準備を担うのは患者・家族だけではありません。以下の多職種チームが連携して動きます。
🏥 退院準備に関わる主なメンバー
| 職種 | 主な役割 |
|---|---|
| 医師 | 退院の可否判断・在宅医療の調整 |
| 看護師 | 医療処置の指導・薬の管理方法の説明 |
| 理学療法士(PT) | 動作能力評価・家屋調査・自主トレ指導 |
| 作業療法士(OT) | 日常生活動作・住環境・福祉用具の選定 |
| 言語聴覚士(ST) | 食事形態・嚥下指導・コミュニケーション支援 |
| 医療ソーシャルワーカー(MSW) | 介護保険申請・サービス調整・退院先の相談 |
| ケアマネジャー(CM) | ケアプラン作成・在宅サービスの一元管理 |
このチームが退院の1〜2か月前から動き出すのが理想です。「退院が近づいてから」ではなく、入院早期から退院後の生活を見据えた準備を始めることが成功の条件です。
2. 退院準備の全体スケジュール
退院準備の流れをざっくり理解しておくと、何もれなく動けます。
入院〜1か月目|情報収集・申請開始
介護保険の申請(まだなら)、ケアマネジャーの決定、自宅の状況を病院スタッフに伝える
退院1〜2か月前|住環境の整備・サービス手配
家屋調査(退院前訪問指導)の実施、住宅改修の工事、福祉用具のレンタル手配、在宅サービスの契約
退院2〜4週間前|外泊練習・多職種カンファレンス
試験外泊(1〜2泊)を実施して課題を洗い出す、退院前カンファレンスで在宅チームと情報共有
退院直前〜当日|最終確認・引き継ぎ
薬・診察券・書類の確認、福祉用具の搬入確認、在宅サービス初日の日程確認
退院後1か月以内|生活混乱期のサポート
訪問リハビリ・訪問看護の定期利用、生活リズムの安定、困りごとはケアマネに相談
3. 【チェックリスト①】介護保険・行政手続き
在宅サービスを使うためには、介護保険の認定を受けていることが前提です。申請から認定まで原則30日かかるため、早めに動くことが重要です。
📋 介護保険・行政手続きチェックリスト
- ☐ 介護保険の申請が完了している(市区町村窓口または地域包括支援センターへ)
- ☐ 要介護認定の結果が届いている(要支援1〜2/要介護1〜5)
- ☐ ケアマネジャー(介護支援専門員)が決まっている
- ☐ ケアマネジャーに退院予定日を連絡している
- ☐ 住宅改修を行う場合は市区町村への事前申請が完了している
- ☐ 障害者手帳・自立支援医療など障害福祉サービスの申請も確認した(必要な場合)
- ☐ 退院後に通院する病院・クリニックが決まっている
- ☐ 在宅医(訪問診療医)が必要な場合は契約が済んでいる
介護保険の申請はいつするべき?
入院中に医療ソーシャルワーカーが代行してくれる場合も多いですが、未申請の場合は入院後すぐに病院スタッフに確認しましょう。認定が出るまでの間も、暫定プランでサービスを先行利用できる場合があります。詳しくはケアマネジャーに相談してください。
4. 【チェックリスト②】住環境・福祉用具の準備
自宅の環境を整えることは、転倒・再入院予防の観点から最も重要な準備のひとつです。「退院直後が最も危険なタイムポイント」であることが研究でも示されています(後述)。
🏠 住環境・福祉用具チェックリスト
【玄関・出入口】
- ☐ 玄関の段差に手すりまたはスロープを設置した
- ☐ 靴の脱ぎ履きに使える椅子や台を用意した
- ☐ 玄関〜居室の導線に転倒危険物(マット、コード類)がない
【寝室】
- ☐ 介護ベッド(特殊寝台)のレンタル手配が完了している
- ☐ ベッドサイドに立ち上がり補助手すりを設置した
- ☐ 夜間のトイレ導線に足元灯を設置した
- ☐ 床頭台・スイッチ類が手の届く範囲にある
【トイレ・浴室】
- ☐ トイレに手すり(L型等)を設置した
- ☐ 洋式トイレへの便座の高さ調整または補高便座を準備した
- ☐ 浴室に浴槽手すり・シャワーチェア・浴槽台を準備した
- ☐ 浴室の床に滑り止めマットを設置した
- ☐ 介助者が動けるスペースがある、またはデイサービスで入浴する計画がある
【廊下・居室】
- ☐ 廊下に手すりがある(または設置を検討した)
- ☐ 歩行器・杖などの移動補助具が届いている
- ☐ 車椅子使用の場合、室内の通路幅(最低70cm)を確認した
- ☐ 段差や滑りやすいカーペットを撤去・固定した
住宅改修費の助成制度
介護保険では、手すりの取り付け・段差解消・扉の取り替えなどの住宅改修に最大20万円(自己負担1〜3割)の助成があります。工事前に市区町村への申請が必要なので、ケアマネジャーに早めに相談しましょう。
5. 【チェックリスト③】在宅サービスの手配
🤝 在宅サービスチェックリスト
- ☐ 訪問リハビリの利用を検討・契約した(PT/OT/STが自宅に来てリハビリを継続)
- ☐ 訪問看護の利用を検討・契約した(医療処置・バイタル管理が必要な場合)
- ☐ 訪問介護(ホームヘルパー)の利用を検討・契約した(身体介護・生活援助)
- ☐ 通所リハビリ(デイケア)または通所介護(デイサービス)を検討・契約した
- ☐ 福祉用具レンタル事業者が決まっている
- ☐ 訪問入浴介護が必要な場合は手配した
- ☐ 緊急時の連絡先リスト(ケアマネ・訪問看護・かかりつけ医)を自宅に掲示した
- ☐ ケアプランの内容を家族全員が確認した
特に訪問リハビリは退院後早期から開始することが重要です。病院でできていた動作が、自宅の環境では難しくなることが多く(これを「生活混乱期」といいます)、環境に慣れるまでの専門的なフォローが在宅復帰の成否を左右します。
6. 【チェックリスト④】家族の介護技術・知識
退院後の生活では、家族の協力が欠かせません。しかし介護の知識がないまま退院すると、家族が疲弊するだけでなく、患者さん本人を傷つけてしまうリスクもあります。入院中に十分な指導を受けておきましょう。
👨👩👧 家族の介護技術チェックリスト
- ☐ ベッドからの起き上がり・立ち上がり介助の方法を習得した
- ☐ 歩行介助・見守りの仕方を習得した(どのくらい手助けするか)
- ☐ 移乗(ベッド↔車椅子)の介助方法を習得した
- ☐ 食事介助・食事形態(とろみの必要性など)を理解した
- ☐ 服薬管理の方法を理解した(薬の種類・飲み方・管理場所)
- ☐ 胃ろう・痰吸引など医療処置が必要な場合は指導を受けた
- ☐ 転倒したときの対応方法を知っている(無理に引き起こさない等)
- ☐ 体調急変時(呼吸困難・意識障害等)の緊急連絡先を把握している
- ☐ 自主トレーニングのメニューを病院のPT/OTから受け取った
💡 ポイント:「なんとなくわかった気がする」は危険です。退院前に実際に介助を体験する練習を病院スタッフのもとで行いましょう。「見るとやるでは大違い」と感じる家族さんがほとんどです。
7. 【チェックリスト⑤】退院前カンファレンス・家屋調査
退院前カンファレンスとは?
退院前カンファレンスとは、退院後の安心・安全な療養生活を目的として、主に病院が主催し、医師・看護師・MSW・ケアマネジャー・在宅サービス事業者などが集まり、患者情報の共有と退院後のケア役割を確認する会議です(田辺圏域在宅医療・介護連携支援センター)。
患者さん・家族も参加することで、退院後に関わるスタッフと顔を合わせ、不安を事前に解消することができます。
📋 カンファレンス・家屋調査チェックリスト
- ☐ 退院前カンファレンスの日程が決まっている
- ☐ ケアマネジャー・在宅サービス担当者がカンファレンスに参加する予定
- ☐ 家屋調査(退院前訪問指導)を病院のPT/OTと実施した、または予定がある
- ☐ 家屋調査の結果をもとに住環境整備の計画が具体化している
- ☐ 外泊練習(試験外泊)を1〜2回実施した、または予定がある
- ☐ 外泊で困ったことを病院スタッフにフィードバックした
- ☐ カンファレンスで退院後の目標・役割分担が明確になった
家屋調査(退院前訪問指導)の重要性
家屋調査とは、退院前に患者さんと病院のリハビリ職員が実際の自宅を訪問し、退院後の生活環境と現在の身体状況を照らし合わせる取り組みです。手すりを設置する位置や、自宅に合わせた福祉用具の選定が可能になり、退院後の生活をリアルにイメージしたリハビリを提供できるようになります(Magic Shields)。
「病院でできていたのに家だとできない」という問題の多くは、家屋調査で事前に発見・対策できます。積極的に提案がなければ、PTや担当スタッフに自分からお願いしてみましょう。
8. 退院直後が最も危険!「生活混乱期」を乗り越えるコツ
⚠️ 研究より:退院後の生活期の中でも、退院直後は「生活混乱期」と呼ばれ、病院と在宅との環境の違いにより、転倒や活動性の低下が起こりやすい時期です。機能レベルは変わらないにもかかわらず、日常生活レベルが低下する方が多く見られます(小笠原ら,2016)。
また、回復期リハビリ病棟を退院した患者のうち、転倒を起因とした再入院の大半は退院後1年以内に発生しており、退院後早期からの継続したリハビリテーションの提供と、入院中の移動能力の在宅チームへの正確な引き継ぎが不可欠とされています(日本理学療法学術誌,2025)。
生活混乱期を乗り越える5つのポイント
- 退院後1週間は特に注意:慣れない自宅環境での転倒が多い。焦らずゆっくり動く
- 訪問リハビリを早期に開始:自宅での動作を専門家が評価・指導することで安全性が高まる
- 生活リズムを整える:起床・食事・就寝の時間を規則的に保つことが回復を促進する
- 活動量は少しずつ増やす:「入院中より動けない」は正常。徐々に慣れることが大切
- 困ったらすぐケアマネに連絡:「迷惑をかけてはいけない」という遠慮は禁物。それがケアマネの仕事
9. 現場PTが見てきた「在宅復帰成功のカギ」
🗣️ 筆者の現場エピソード
退院前カンファレンスは、うまく終わったと思っていました。
動作方法を説明し、自主トレーニングの内容も確認。ケアマネジャーから介護サービスの説明があり、ご家族も何度もうなずいていました。
「これなら安心して退院できますね。」
そう思って、その日のカンファレンスを終えました。
ところが数日後、訪問リハビリの担当理学療法士から一本の連絡が入りました。
「息子さんが、お父さんをどうやってベッドから立たせればいいのか分からず困っていました。」
その言葉を聞いた瞬間、私は「伝えた」と「伝わった」は違うことを痛感しました。
担当していたのは、脳梗塞後に左片麻痺が残った70代の男性です。
退院前カンファレンスでは、ベッドからの立ち上がりや移乗方法、自主トレーニングについて説明し、ご家族も終始うなずいてくださっていました。
私は、その様子を見て「理解していただけた」と思い込んでいました。
しかし実際には、
「聞きたかったけれど、みんなの前では聞きにくかった。」
「説明が多くて、どこが大事なのか分からなくなった。」
そんな思いを抱えたまま退院されていたのです。
それ以来、私は退院前カンファレンスの進め方を少し変えました。
最後に必ず、
「今日は何か一つでも不安が残っていませんか?」
とお聞きするようにしました。
さらに、ご家族には事前に
「気になることがあれば、どんな小さなことでもメモして持ってきてください。」
とお伝えしています。
質問が一つ増えるだけで、退院後の安心感は大きく変わることがあります。
この経験以来、私にとって退院前カンファレンスは「説明する場」ではなく、「ご家族が安心して帰れる場」を一緒につくる時間になりました。
退院支援で本当に大切なのは、予定どおりカンファレンスが終わることではありません。
ご本人やご家族が、「これなら家でもやっていけそう」と思える状態で病院を後にできること。
それが、回復期病棟で働く私たちの役割だと、今でもこの出来事を思い出すたびに感じています。
※プライバシー保護のため、症例内容は一部変更・再構成しています。
在宅復帰を成功させる家族に共通しているのは、「完璧な介護をしよう」とは思っていないことです。「できないことはプロに任せる、自分たちは見守りと声かけに徹する」というスタンスが、長続きする在宅介護の基本です。
10. よくある質問(Q&A)
11. まとめ
📌 退院準備チェックリスト 総まとめ
- ✅ 介護保険の申請・ケアマネジャーの確定を早期に行う
- ✅ 家屋調査(退院前訪問指導)を病院のPT/OTに依頼する
- ✅ 手すり・福祉用具・住宅改修は退院日までに完了させる
- ✅ 訪問リハビリ・デイケアなどの在宅サービスを退院後すぐに開始する
- ✅ 家族が介助方法を実際に練習しておく
- ✅ 退院前カンファレンス・外泊練習に積極的に参加する
- ✅ 退院直後の生活混乱期を意識し、無理をせず専門家に頼る
回復期リハビリ病棟での入院期間は、ゴールではなく「在宅生活への準備期間」です。退院は終わりではなく、新しい生活のスタートです。
病院スタッフに遠慮せず、「家に帰ってからが不安」と正直に伝えることが、より手厚い退院支援につながります。チームで準備を重ね、安心して在宅復帰を迎えてください。
📚 参考文献
- 小笠原正:プランニングとモニタリング,[新版] 訪問リハビリテーション実践テキスト,一般社団法人日本訪問リハビリテーション協会(編),青海社,東京,2016,pp.155-158.
- 回復期リハビリテーション病棟退院後,転倒を起因とした再入院について.日本理学療法学術誌,3(Suppl. No.1),2025. https://doi.org/10.57352/jsptpsuppl.3.Suppl.No.1_106
- 田辺圏域在宅医療・介護連携支援センター:退院調整ルールの流れ(介護保険サービスを利用している方の場合). https://www.tanabe-kenniki-ikr.jp/taiinntyousei/serviceriyou/(2025年6月閲覧)
- 株式会社Magic Shields:退院前カンファレンスを効果的にする心構え《Column vol.35》. 2024. https://www.magicshields.co.jp/column/3187/
- 厚生労働省:2024年度診療報酬改定 回復期リハビリテーション病棟の算定要件.令和6年告示・通知.
⚠️ 免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の医療・介護上のアドバイスを提供するものではありません。退院準備やサービス選択に関しては、主治医・担当理学療法士・ケアマネジャーなど専門職にご相談ください。また、制度の内容は改定により変わる場合があります。最新情報は市区町村や厚生労働省のウェブサイトをご確認ください。
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