介護シューズの選び方|転倒予防に本当に効果的な靴の6条件をPTが解説

セルフケア・リハビリ

✍️ この記事を書いた人

とっち|理学療法士(PT)

回復期リハビリテーション病院勤務18年目 / 脳卒中認定理学療法士 / 3学会合同呼吸療法認定士
学会発表・論文投稿経験あり。ブログ「リハビリと身体のケアラボ」(tocchi-fm-1111.com)を運営中。
転倒予防・歩行リハビリを専門に、現場で感じた「本音の情報」を発信しています。

正直に言うと、私、最初の頃は靴をそこまでちゃんと見ていなかったんですよね。

リハビリ2年目の春ごろのことです。当時担当していた脳梗塞後の70代女性が、病棟で週に1〜2回のペースで転倒を繰り返していました。歩行能力はそこまで悪くないし、認知機能も問題なし。バランス訓練も毎日しっかりやっていたのに、なぜ転ぶのか全然わからなくて。

ある朝、先輩PTに「その患者さん、靴どんなの履いてる?」って聞かれて初めてハッとしたんです。見てみたら、ご家族が持ってきた「ゆったりサイズのスリッパみたいな室内履き」でした。かかとが完全に浮いていて、歩くたびにパカパカしてる状態。本人は「履きやすいから好き」って笑顔で言うんですけど、それを聞いたときの私の罪悪感といったら……。

「転倒要因を探す」って言いながら、一番基本的なことを見落としてた。それ以来、患者さんの足元は入院初日に必ず確認するようになりました。18年経った今でも、あのときの反省は頭の片隅にあります。

「お父さんの靴、何でもいいでしょ?」——そう思っていたご家族が、退院後の転倒をきっかけに「あのとき靴を変えていれば」と悔やむ場面を、私はリハビリの現場で何度も見てきました。

実は、履いている靴1つで転倒リスクは大きく変わります。国際的な研究でも「靴下だけで室内を歩くことが、転倒の原因になるケースが全体の約74%に上る」という調査結果が出ています。

この記事では、理学療法士として18年間、数えきれないほどの患者さんの歩行に向き合ってきた私が、介護シューズの正しい選び方・具体的なおすすめ商品・素材と機能の読み解き方を徹底解説します。

📋 この記事の目次

  1. 転倒と靴の関係——エビデンスが示す事実
  2. 介護シューズを選ぶ6つの条件
  3. 素材・機能の詳細解説(ソール・ウィズ・マジックテープ等)
  4. シチュエーション別おすすめの選び方
  5. 具体的なおすすめ商品(メーカー別)
  6. 避けるべき靴の特徴
  7. よくある質問 Q&A
  8. まとめ

🔬 転倒と靴の関係——エビデンスが示す事実

高齢者の転倒は「本人の不注意」だと思われがちですが、研究では環境・靴・薬・体力低下など多数の要因が複合的に絡み合っていることが示されています。その中でも「履き物」は見落とされやすい重要なリスク因子の一つです。

📊 研究が示す「靴と転倒」の関係

  • 施設入居の高齢者(58〜98歳)の転倒ビデオ分析:靴下のみでの歩行が転倒に関与した割合は約74%(不十分な滑り止めが原因)
  • 79本の研究を含むシステマティックレビュー:室内を裸足・靴下だけで歩くと、スニーカー着用時と比べて転倒リスクが最大11倍に上昇
  • 高齢者の3人に1人が年間1回以上転倒し、そのうち5人に1人が重症を負う(Montero-Odasso et al., Age Ageing 2022)
  • 転倒関連骨折(大腿骨頚部骨折など)は寝たきりの主要原因の一つ

2024年に発表されたシステマティックレビュー(Ann Geriatr Med Res)では、適切な靴の設計特性(フィット感・固定性・ヒール高さ・滑り止め・ソール硬度)が転倒予防に有意に寄与することが確認されています。「靴は消耗品・何でもよい」という考えはリスクです。

👟 転倒予防に効果的な介護シューズの6つの条件

PubMedに掲載された複数のシステマティックレビューや、Journal of the American Geriatrics Society(2024)の推奨をもとに整理すると、転倒を防ぐ靴には次の6条件があります。

① かかとがしっかり固定される「ヒールカウンター」

かかと部分の内側にある硬いパーツを「ヒールカウンター(踵芯)」といいます。これがしっかりしている靴は、足首が内外に傾きにくく、歩行が安定します。スリッパや布だけの室内履きにはこのパーツがほぼ存在しないため、転倒リスクが高いのです。
確認方法:靴のかかと部分を親指と人差し指でつまんで押し、つぶれないものを選ぶ。

② 滑り止め加工のラバーソール(靴底)

靴底素材はラバー(天然ゴム・合成ゴム)が最もグリップ力が高く、転倒予防効果に優れています。以下の点に注目してください。

ソール素材 特徴 向いている場面
ラバー(ゴム) グリップ力が高い・耐久性◎ 屋外・雨の日・病院の廊下
EVA(発泡素材) 軽量・クッション性◎・やや滑りやすい 室内・施設内(フローリング)
ラバー+EVA二層構造 グリップ+クッション性を両立 屋内外兼用・最もおすすめ
合成皮革底・布底 グリップ力が低い・滑りやすい ⚠️ 転倒リスクあり・なるべく避ける

また、ソール底面の溝(トレッドパターン)が深く入っているものは、濡れた床・ツルツルのタイルで水分や汚れをかきわけるため滑りにくくなります。ラバーソールの溝が浅く摩耗した靴は、新品時と比べてグリップ力が大幅に低下するため定期的な交換が必要です。

③ つま先が適度に上がった「トゥスプリング」

「トゥスプリング」とは、靴のつま先部分が地面から少し上を向いている形状のことです。高齢者は加齢とともにすり足歩行になりやすく、つま先が地面につっかかって転ぶ「つまずき転倒」が非常に多いのですが、このトゥスプリングがあると、歩行中のつま先の引っかかりを防ぐことができます。
厚生労働省の転倒防止資料でも「つま先部の高さが低い靴はつまずきやすい」と明示されています。

④ 自分の足幅(ウィズ)に合ったサイズ

靴はサイズ(cm)だけでなく、足幅を示す「ウィズ(足囲)」も重要です。日本規格(JIS)では以下のように表示されます。

👣 ウィズ(足囲)の目安

A → B → C → D → E → 2E → 3E → 4E → 5E → 6E → 7E(幅が広くなる)
・日本人女性の平均:3E〜4E(外反母趾・むくみがある方は4E〜5E以上)
・日本人男性の平均:4E〜5E(装具使用時は5E〜7Eが必要なことも)
・「捨て寸」として、つま先に5〜10mmの余裕がある長さを選ぶこと

大きすぎる靴は「ゆったりしていい」ではなく、靴の中で足が動いてしまいバランスが崩れる原因になります。逆に小さすぎる靴は外反母趾・巻き爪・胼胝(たこ)の悪化を招きます。

⑤ 脱ぎ履きが一人でできる「面ファスナー(マジックテープ)」

介護シューズのほとんどはマジックテープ(面ファスナー)式です。紐靴はほどけて転倒の原因になりやすく、脱ぎ履きの際の前かがみ動作が転倒リスクを高めます。マジックテープは以下を確認してください。

  • 甲部分が広く開くタイプ(むくみ対応・装具対応に重要)
  • ベルトが1本より2本(ダブルマジック)の方が固定力が高い
  • ベルトを手の力が弱い方でも留めやすい幅・長さかどうか

⑥ 適切なヒール高さ(2cm以下を目安に)

PubMedのシステマティックレビューでは、ヒール(かかとの高さ)が低く、滑り止め効果のあるソールを持つ靴が、屋内外を問わず高齢者の転倒予防に推奨されると結論づけています。ヒールが高くなるほど重心が前に移動し、バランスを保つために必要な筋力が増加します。介護シューズでは2cm以下(フラット〜ローヒール)が安全です。

🏠 シチュエーション別・介護シューズの選び方

「室内用と屋外用は同じでいい?」——よくある疑問ですが、使用場所によって求める性能が異なります。

使用場所 重視すべき機能 ポイント
🏠 室内・施設内 軽量・脱ぎ履きしやすい・EVA+ラバーソール 片足100g前後が理想。ルームシューズタイプでも「かかとあり」を必ず選ぶ
🌤️ 屋外・買い物 ラバーソール・撥水性・クッション性・ヒールカウンター 雨の日も考慮した撥水加工があると安心。ソールの溝が深いものを
🏥 入院・リハビリ 洗濯可能・軽量・面ファスナー・つまずき防止 汚れやすい環境のため丸洗い対応。片足販売対応モデルも便利
🦵 装具使用時 超幅広(5E〜7E)・深い履き口・履き口が大きく開く 装具の厚さ分、ウィズが広い専用モデルが必須。片足販売も活用
💧 むくみがある方 マジックテープ開口が大きい・伸縮素材・幅広 夕方のむくみに対応できるよう、朝昼夕でフィット感を調整できるものを

🛒 PTが選ぶ!具体的なおすすめ介護シューズ【メーカー別】

回復期リハビリの現場で患者さんの靴選びに関わってきた経験と、各メーカーの商品特性をもとに厳選しました。

🥇 徳武産業「あゆみシューズ」シリーズ ——介護施設での採用No.1ブランド

介護専門シューズメーカーとして業界内で圧倒的な認知度を誇る徳武産業。片足販売・パーツオーダー(左右異サイズ、部位別カスタマイズ)対応という他にはない強みがあり、足の変形や装具使用者にも対応できる唯一のメーカーです。

商品名 特徴 おすすめシーン ウィズ
ダブルマジックⅢ 2本ベルトで固定力◎、つま先上がり、布製で柔軟 施設・室内・外出兼用 3E〜7E
早快マジック レギュラー(2502) 超軽量(片足約110g)、施設・院内の定番 施設・室内 3E相当
オープンマジック3(7031) 超軽量・撥水加工・折り返しベルトで安定感 屋外・外出 5E
瞬感スポッと(7060) 靴べら不要でスポッと履ける、かかまずに脱着可能 自力で脱ぎ履きしたい方・施設内 5E

💡 片足のみ販売対応あり。左右で異なる疾患(例:半身麻痺+下肢装具)の方にも対応可能。

🥈 アサヒシューズ「快歩主義」シリーズ ——老舗靴メーカーの技術が光る人気モデル

1892年創業の老舗シューズメーカーが開発。独自の「フットオンコントローラーシステム」により体重移動がスムーズになり、つまずきにくい自然な歩行をサポート。特に女性からの支持が高く、外反母趾・むくみ対応モデルも充実しています。靴底がしっかりと滑りにくい形状で、雨の日の外出にも対応。

商品名 特徴 おすすめ対象
快歩主義 L011(レディース) 布製・やわらか・縫い目が足に当たらない設計・抗菌防臭 外反母趾のある女性・日常外出
快歩主義 M021(メンズ・4E) 幅広4E・軽量・丸洗い可・滑りにくいソール形状 屋外歩行・外出用。足の幅が広い方

🥉 ムーンスター「Vステップ」シリーズ ——装具対応・片足販売に強い

久留米で生まれた老舗靴メーカー。装具をつけても履ける靴(Vステップシリーズ)が介護現場の定番で、片足販売・屋外用・室内用・施設用と用途別ラインナップが充実しています。「MS大人の上履き」は施設内での使用に特化した清潔感あるデザインで人気です。

商品名 特徴 おすすめ対象
Vステップ03 履き口が大きく開く・装具対応・片足販売可 短下肢装具など装具使用者
MS大人の上履き02 面ファスナー・カラー豊富・施設用に最適 施設・入院中・室内専用

➕ アシックス「ライフウォーカー」——スポーツメーカー品質で歩行サポート

スポーツシューズで培った技術を活かし、シニア向けに開発。母趾(親指)への負担を軽減する設計と、しっかりした踵カウンターが特徴。見た目がスニーカーに近いためおしゃれ志向の方に人気で、「介護シューズっぽくないもの」を求める方に向いています。ただし、介護専用品と比べると装具対応や超幅広対応モデルは少なめ。

💬 現場で気づいた「靴」の力——あるリハビリ患者さんのこと

冬のある朝、脳梗塞の後遺症で右半身に軽い麻痺が残る70代の男性が、病棟から訓練室に向かってくるのが見えました。スリッパをズルズル引きずりながら歩いてくる後ろ姿を見て、「今日こそ話をしよう」と思ったんです。

「その靴、かかとが浮いてますよ」って恐る恐る声をかけたら、「家では昔からこれやから」と苦笑い。歩行速度は10m/14秒まで改善していて、リハビリの成果は出てたのに、病棟での転倒記録を見直したら2回とも「スリッパ着用中」でした。なんで気づかなかったんだろう、っていう感覚、今でも覚えてるんですよ。

ご家族に相談してあゆみシューズ(ダブルマジックⅢ・4E)に変えてもらって1週間後、「なんか足が踏ん張れる気がする」と本人が言ったんです。それ以降、転倒はゼロ。歩行訓練の内容を変えたわけでも、薬が変わったわけでもなく、靴を変えただけでした。

リハビリをがんばっていても、足元が不安定なままじゃ台無しになる——これ、意外と大事で、18年間現場にいる自分がちゃんとわかったのは、けっこう後になってからなんですよね。

⚠️ 転倒リスクを上げる!避けるべき靴の特徴

❌ スリッパ・サンダル(かかとなし)

かかとが固定されないため、歩行中に脱げやすく、バランスが不安定。研究では靴下と同様に転倒リスクが高い。

❌ 大きすぎる靴

「ゆったり履ける」と選びがちだが、靴の中で足が動いてバランスが崩れる。捨て寸5〜10mmが適正。

❌ ソールが摩耗した古い靴

使い慣れた靴は足に馴染んでいるように感じるが、ソールのグリップ力が劣化。雨の日は特に危険。

❌ ヒールが2cm以上の靴

重心が前方に移動しバランスを保つ筋力が必要になる。高齢者の下肢筋力低下と組み合わさると危険。

❓ よくある質問 Q&A

Q. 介護シューズは保険や補助で安くなりますか?

A. 一般的な介護シューズは介護保険の「福祉用具購入費」の対象外です。ただし、医師の処方により「治療用装具(治療用靴)」として作成された場合は、療養費(健康保険)で一部還付される可能性があります。また、障害者手帳をお持ちの方は「補装具費支給制度」の対象になる場合も。詳しくはお住まいの市区町村や担当ケアマネジャーにご相談ください。

Q. 何足持っていればいいですか?また交換の目安は?

A. 室内用・屋外用の2足が基本です。同じ靴を毎日使うとクッション材(EVA)が圧縮されて戻りにくくなるため、2足を交互に使うと長持ちします。交換の目安はソールの溝が浅くなってきたとき、かかとが傾いて片減りしてきたとき、または使用開始から約1〜1.5年が一般的な目安です。

📝 まとめ

転倒予防に効果的な介護シューズを選ぶ6つの条件をおさらいします:

  1. ヒールカウンターがしっかりしている(かかとが固定される)
  2. ラバーソール+溝のある滑り止め加工(特に屋外・濡れた床)
  3. トゥスプリング(つま先が適度に上がっている)ですり足によるつまずき防止
  4. 自分の足幅(ウィズ)に合っている(大きすぎても小さすぎてもNG)
  5. 面ファスナー(マジックテープ)式で脱ぎ履きが安全にできる
  6. ヒール高さは2cm以下のローヒール

メーカー別のおすすめは、徳武産業あゆみシリーズ(装具対応・片足販売あり・現場採用No.1)、アサヒシューズ快歩主義(老舗技術・外出用・女性に人気)、ムーンスターVステップ(装具対応・施設内定番)です。

リハビリをがんばっていても、足元が不安定なままでは転倒リスクは下がりません。靴選びは転倒予防の「土台」です。ぜひご本人の状態に合った一足を、リハビリ担当者やシューフィッターにも相談しながら選んでください。

📚 参考文献

  1. Montero-Odasso M, et al. World guidelines for falls prevention and management for older adults: a global initiative. Age Ageing. 2022;51(9):afac205. doi:10.1093/ageing/afac205
  2. Menant JC, Steele JR, Menz HB, Munro BJ, Lord SR. Optimizing footwear for older people at risk of falls. J Rehabil Res Dev. 2008;45(8):1167–1182. PMID:19235118
  3. Kim IJ, Hegazy F. Enhancing footwear safety for fall prevention in older adults: a comprehensive review of design features. Ann Geriatr Med Res. 2024;28(2):121–133. doi:10.4235/agmr.23.0167
  4. Cheever K, et al. Evidence-Based Footwear Recommendations for Older Adults: Enhancing Mobility, Comfort, and Fall Prevention. J Am Geriatr Soc. 2024. doi:10.1111/jgs.70111
  5. 厚生労働省 職場のあんぜんサイト「STOP!転倒災害プロジェクト:転倒防止に有効な安全靴」https://anzeninfo.mhlw.go.jp/information/tentou1501_25.html(参照2025年)
  6. 郡ハルミ.介護予防の必要な高齢者への転倒予防にむけたフットケア研究の動向と課題.日本フットケア・足病医学会誌.2022;3(2):88–93. doi:10.34466/jjsfcpm.3.2_88

【免責事項】本記事は一般的な健康情報の提供を目的としており、特定の疾患の診断・治療を目的としたものではありません。靴の選択にあたっては、担当の医師・理学療法士・作業療法士・シューフィッターなど専門家にご相談ください。個人の身体状況・疾患・装具の有無によって最適な靴は異なります。

この記事を書いた人
理学療法士 18年目
とっち

回復期リハビリテーション病院勤務18年目の理学療法士。
・脳卒中認定理学療法士
・3学会合同呼吸療法認定士
査読付き論文投稿・学会発表経験を活かし、エビデンスに基づいた医療情報を一般の方にもわかりやすく発信しています。

「リハビリと身体のケアラボ」では、身体の痛み・リハビリ・介護保険・健康づくりをわかりやすく解説。より専門的な臨床・エビデンスの深掘りはnoteで発信しています。

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